第18話 拷問

「イルドラ国は、日嗣皇子とその許嫁を迎えたならば『巨人の骸採掘場と不穏な事件の容疑者を引き渡す』との約束を果たす条約に調印すると申しているではありませんか。許嫁である茉莉花まつりか様は、そのイルドラ国の誠意を認めたからこそ一人残って和平の道を模索しておられるのです。その思いを、大兄様が無になさって良いはずはありません。無茶な期限など設けずに、イルドラとの和平を御再考なさって下さい」


 康平こうへい議員は、機竜の操舵室に乗り込み、故意に兵のいる前で説く。多くの兵が見守る中で「許嫁を見捨てる」決断はできないだろうとの考えだった。しかし、射流鹿の答えは単純だった。


「康平議員に、伺わねばならないことがあります。彼に椅子を用意して下さい」


 康平議員は、操舵室の兵に両脇を抑えられてしまう。近侍は、彼を守ろうとしたがいつの間にか背後から剣が首に当てられていたと言う。

 運び込まれたのは拷問用の拘束椅子だった。康平議員は、肘掛けに腕を、脚に足を縄で縛られて身動きできないように拘束されてしまう。


「や、止めないと大変なことになるぞ。私が約束の時間に戻らなければ、茉莉花様がどうなるか保証はないんだ!」


「早速、まりねえを誘拐したことを自白して下さいましたね」


「……うっく!」


 康平議員は、思わず口走った言葉の意味に気付いて絶句する。


「まり姉は、何処ですか?」


 康平議員が、射流鹿の問い顔を背けた。すると射流鹿は。兵の一人に「右からお願いします」と言った。


「うぎゃゃああああ……!」


 康平議員の右手人差指の生爪が剥がされた。荒く不規則な呼吸が、近侍の耳に残っていると言う。


「次は左で」


 射流鹿の声には、全く感情が感じられなかったそうだ。


「ま……待ってくれ。喋る、喋りますから」


 だが、康平議員の左手の人差指にはペンチがかかっていた。


「がはぁぁ!」


 左手の人差指から血が滲み出たところでペンチは止まった。


「茉莉花様は……ハーレル王城の東の塔へ……お連れしました」


 不規則な呼吸をしながら、康平議員は何とか声を絞り出す。そして、東の塔で待っている摩理勢まりせ議員と兼友かねとも議員のこと、自分が摩理勢議員の誘いに乗っただけであることを次々に白状したと言う。



 それを聞いた摩理勢議員は、力まかせにテーブルを叩く。


「ふざけるな!」


 摩理勢議員の怒鳴り声に、兼友議員がビクリと実を震わせた。


「許嫁誘拐を言い出したのは、康平卿ではないか!」


 兼友議員が、ウンウンと頷いている。しかし。


「ここからが、本当の地獄でした」


 近侍は涙をボロボロと流しながら、そう言った。

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