第15話 罠
調印式……なんて話は、全く想定していなかった。
そもそも。イルドラ国が
いや、実際にその通りだろう。射流鹿が想像以上の戦力を引き連れて来たために、連中の計画が狂っただけだ。
「羅睺羅の帝は形式には拘りません。約束通り、巨人の骸の採掘場から手を引き、暗殺事件の容疑者全てを引き渡して頂ければ十分です」
「逆に、我がイルドラは形式を重んじるのが伝統です。最後に、我が国の伝統への配慮をただ一つお願いしたく思います」
粗野な印象のイルドラ国王ラムカ13世と違って、ラドルグ宰相は物腰は柔らかい。優しげな笑顔ではあるが、その感情は読めないし、言葉選びも慎重だ。かなりの切れ者との評判は間違いではないのだろう。
正式な調印をしてしまえば、少なくともこの場で戦闘を開始することは適切ではなくなってしまう。
射流鹿は、妾に護衛役を一人残して調印のテーブルに向かった。
「わたしたちは、第4戦団の機竜へ戻りましょう」
護衛役の指示に従って、妾は先に中庭を出ることにする。背中の方から野太い声が条約の文言を読み上げているのが聞こえる。イルドラ王の声だろう。
イルドラ王の読み上げた文言の中には「巨人の骸の採掘場からイルドラ兵が引き上げること」と「暗殺事件の容疑者を引き渡たすこと」がハッキリとあった。
どうやらラドルグ宰相は、この場で直ぐに戦闘突入となる事態だけは避けたかったようだ。この策によって「約束をいつ果たすのか?」へすり替えられてしまったかも知れない。
「では、容疑者の引き渡しは日没までお待ちします」
射流鹿の声だ。背後でざわめきの声が湧いた。
「なんだと?そんなこたぁ、一言も書いてねえぞ!」
イルドラ王の怒声が中庭に響く。怒りと苛立ちの籠もった声は、敵意が丸出しに感じられた。思わず、外へ向かう足を止めて振り返ってしまう。
その時に気付いた。
妾の側を、
「!」
しまった……と思うより先に、彼らは妾と護衛役の間に割り込んでいた。
背後から伸びた手に口を押さえられて、両脇から身体を拘束される。彼らの近侍の一人が、妾の護衛役に背後から剣を突き立てるのが見えた。
何をするのですか!・・・と言おうとしたが、口は動かない。そして、背中に抜ける強い衝撃に、妾の意識は失われた。
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