第14話 調印式

 射流鹿いるかと普通にダベる時間を取れたのは4年ぶりくらい?

 射流鹿が月夜見つくよみ様の第2戦団に一兵として入団して、皇城を出て以来のこと。話したいことは色々とあるのだが、今の状況もあって話せない。

 4年前と比べると、射流鹿は背が伸びた。わたしの目と同じくらいに射流鹿の目があったはずなのに、今の射流鹿の目は見上げないと見られない。指も少し太くなった気がする。



 離れたテーブルにいる射流鹿と妾のところには、メイドが飲み物を運ぼうとする以外にはイルドラ側の人間は近づいてこない。イルドラ王と王妃も、妾たちから離れたテーブルにいる。時折イルドラ王が射流鹿に視線を向けるが、敵意が籠もる目だ。

 射流鹿の戦装束に文句とつけた康平こうへい議員は、また別のテーブルでイルドラの役人と話している。康平議員の取り巻き2人も一緒である。

 彼らが何を話しているかはわからない。一応、側近として「唇の動きが読める」者も連れて来ていたが、彼らは口元を上手に隠して会話をしている。


「何かしら画策をしてるかも知れません。もしも急な予定変更があったら、貴女はすみやかに機竜へ戻って下さい」


「うん」


 何かあった時には、射流鹿の邪魔をしないことが最優先になる。護衛役の1人が妾に付いて直ぐに機竜に向かうことにした。



 太陽が西に大きく傾き、地平線に触れそうになる頃に晩餐会は終了となった。

 当初の約束通りなら、これでイルドラは「帝の巨人の骸採掘場を荒らす」のを止めて、数年前の「日嗣皇子暗殺計画に加担したイルドラの要人」を羅睺羅国へ引き渡すことになっている。

 しかし。

 そんなことは射流鹿も月夜見様も期待していない。むしろ、不満を露わにするイルドラに対して、宣戦を布告し戦闘に突入するのが当初からの計画である。



 射流鹿と妾を見送りに来たイルドラ王の視線には、ハッキリと憎悪と苛立ちが籠もっている。ここまでは計画通りと言っていいだろう。


「では、これより調印式を行いましょう」


 イルドラ国の宰相を務めるラドルグ卿が、射流鹿に告げた。


「調印式?」


 射流鹿が問い返す。


「羅睺羅国の日嗣皇子と正妃となられる方が、約束通りイルドラを来訪して下さったのです。次は、我が方が約束を果たす番です。当初の約束通りの条件で、和平の条約を結ぶ用意をしております」


 いつの間にか中庭での晩餐会の仕度は片付けられていた。中央に大きめの四角いテーブルが置かれていて、その右側に書簡を持ったイルドラ王が立っている。ラドルグ宰相は、四角いテーブルの右側……イルドラ王の向かい側に立つよう、射流鹿を即した。

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