第13話 ダベる?

 城門をくぐりながら、中庭を囲む城壁を観察する。


 機兵や機竜は、むくろの魔力によって光矢ひかりのやを放つことができる。破壊されて砕けちった骸にも魔力は残る。その「骸の欠片」を石弓に組み込んで光矢を放つ武具も作られており、機兵や機竜ほどではないが、並の弓や石弓よりも強力だ。

 中庭を囲む城壁のどこかに、そんな弓兵が配置されているかも知れない。


「僕の側から離れないで下さい。もしもの時は、僕を盾にして後ろに隠れて下さい」


 射流鹿いるかの身に付けた鎧にも「むくろの欠片」が編み込まれている。骸の魔力で生み出される光矢は、同じ骸の魔力には通じない。射流鹿の鎧なら、機兵や機竜が打ち出す光矢からでも身を守れる。


「うん、ありがとう」


 10日以上前に、皇城で偶然すれ違った数分間以来の婚約者同士の会話だ!



 射流鹿と妾の後ろには護衛役の4人、その後ろに元老院の議員と行政官がおよそ20人。イルドラ側もほぼ同じ人数がいる。それとイルドラ側には料理人やメイドと思われる者たちが20人くらいか?


「ようこそ。イルドラ国のハーレルへ」


 そう言って右手を差し出すイルドラ王。


「お招き頂き、ありがとうございます」


 やや深めに、綺麗な姿勢で礼をする射流鹿。両手は身体の脇に添えて、握手には応じない。イルドラ王の右手が伸びている間は、射流鹿は頭を上げなかった。

 イルドラ王が右手を引いたタイミングで、射流鹿が頭を上げる。

 射流鹿が頭を上げると直ぐに、護衛役が射流鹿と妾の両脇に立って、中庭へ先導する。背後をチラリと見たとき、イルドラ王の顔が苛立ちに歪んでいるのがわかった。



 晩餐会は立食型式で、中庭には20の円形テーブルが配置されており、各々のテーブルには豪華な料理が乗っていた。

 各々のテーブルの周りでイルドラ側の役人と羅睺羅の元老院議員や行政官が話し込んでいる。

 射流鹿と妾は円形テーブルから離れた場所に立っていた。メイドが飲み物を持ってくるが、護衛役が前に立ちにそれも断っている。


「ルージュピークの戦場は大変だったんだってね」


「そうですね。大概のことには驚かないつもりですが、ルージュピークの時だけは冷静さを保つのに苦痛を感じました」


太后おおきさき様のところにも、あの時に変な女が嘆願に来たよ。多分、ルージュピークの関係者だと思う。ゴミが増えただけだったけど」


 それから。


「ラインゴルドへも行ったんだって?」


「はい。僕の都合で機兵を壊してしまったので、代わりの機体を借りに行きました」


 イルドラのことなどそっちのけで、射流鹿と妾は普通にダベっていた。

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