第11話 晩餐会あるいは戦闘の直前?

 イルドラ国の主催した晩餐会は、ハーレル王城の中庭で行われる。中庭は城壁に囲まれる内側にあるが、晩餐会の間は王城の4つの城門は開かれたままにする約束になっている。

 城壁の外には、第4戦団とラインゴルドの機兵5機は臨戦態勢で待機する手はずになっている。


「どう言う、おつもりですか。大兄様!」


 機竜に随伴してきた元老院議員の一人が、大声を上げていた。


「イルドラ国は過去の因習を払拭すべく、我が国に友好の手を差し伸べてくれたのです。それに対して、機兵を待機させるなど無礼千万!」


 元老院の康平こうへい議員が、射流鹿の側で捲し立てている。

 午後の晩餐会に備えて、わたしはラインゴルドの機竜から月夜見つくよみ様に連れられ、第4戦団の機竜にやって来ていた。久しぶりの射流鹿との対面だと言うのに、康平議員の剣幕のせいで射流鹿に近寄れないでいる。


「康平殿。大兄殿と茉莉花まつりか殿は、晩餐会の身支度を調えなければならない。いい加減に解放して差し上げないか?」


 月夜見様が、康平議員に横やりを入れる。


「何を言うか、月夜見殿。本来なら王城内の大広間で行われる晩餐会を、中庭に変更し、更に城門を開放しておけと要求する。そして、城門の外に機兵を臨戦態勢で待機させるなどまるで宣戦の布告ではないか。両国の和平を願って、手を差し伸べてきたイルドラに対し礼を失した行動である!」


「イルドラが『両国の和平を願っている』とは何を根拠に言う?」


「何を今更!そう思うからこそ、帝も太后おおきさきも大兄様と茉莉花様をイルドラへ送り出したのだろう」


「私は、貴男の見解を訊いているのだ。康平殿」


「わ……私は、そのように信じている。イルドラ国は、次期帝となる射流鹿様とその正妃となる茉莉花様の二人を迎えることで、両国間の過去の因習を断ち切り、未来を指向する関係を築こうとしているのだ、と」


「では、大兄殿と茉莉花まつりか殿の身に何かあれば、貴男はどう責任を取るのだ?」


「馬鹿なことを! そのようなこと、あるはずがない!」


「あるはずがないから責任は負えないと言うか? 責任を負う覚悟もなしに、大兄殿を煩わせるのは止めて頂こう」


「・・・」


 月夜見様に言い負かされた体で、やっと康平議員は射流鹿の側を離れた。おそらく「イルドラから袖の下を持っている」お仲間のところへ向かったのだろう。

 康平議員の姿が見えなくなったところで、月夜見様が言う。


「食事を取っておくぞ。晩餐会の間は何も食べられないからな」


 やっと射流鹿と二人きりになれる、二人きりの食事……と期待したが。

 月夜見様や護衛役の兵士も一緒だった。

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