第8話 晩餐会の心構え

 ハーレルの街は、街そのものも少し高所にあって王城のある中央への傾斜もきつい。そのおかげで街からの展望が良くイルドラ一番の景勝地と言われているらしい。

 南に遠く広がる青い海が美しいそうだが、わたしには興味はない。



 ラインゴルドの機竜が到着すると、すぐに月夜見つくよみ様がこちらの機竜の操舵室を訪れた。月夜見様だけで射流鹿いるかは来ない。


「こちらは、いつでも攻撃できる! ……と言う威嚇のつもりだろう」


 司令塔の操舵室から、東面城壁の駐機庫の辺りを見て月夜見様は呟いて笑う。

 あの駐機庫の中には機兵が10機待機しているとされているが、せいぜい稼動できるのは5機程度だろうと予測されている。

 まあ、王の世代数の称号までサバ読むくらいだからな。

 そして、明日の晩餐会に関しての注意をされる。と、言っても出陣前にも言われているから、その確認だけだ。



 握手を求められても応じない。差し出された手を握り返せば、その手を両手で握って肩を抱いてくる。身体を寄せられて、護衛役との間に割り込まれると暗殺者への対処が遅れてしまう。

 用意される控室は使わない。どんな細工や仕掛けをされているかわからない部屋には入らない。この機竜で身支度を整えて、晩餐会の会場に向かう。妾の場合は、月夜見様の迎えについて行き、第4戦団の機竜で射流鹿と合流して晩餐会の会場へ向かう。会場を出る時も射流鹿と一緒で、第4戦団の機竜で別れて月夜見様の送りでラインゴルドの機竜に戻ってくる。

 出される飲食物は口にしない。毒物を混入されるかも知れない。水も食物も機竜から運び出したものを用意しておく。当然ながら、妾たちは晩餐会の料理にも手を付けるつもりはない。

 妾がちゃんと理解しているのを確認して、月夜見様もホッとする。



 外の方からけたたましい叫び声が聞こえて来た。機竜の司令塔から外を眺めると、妾たちの機竜を遠巻きに囲むように住民が集まっている。


「ヒョンタールを忘れるな!」


「人殺し!」


残酷ざんこく帝の息子は帰れ!」


 そんな罵声が聞こえてくる。先代のラムカ2世(イルドラ史では12世)の時代に、イルドラ国と羅睺羅国は戦争をしていたことになっている。イルドラ史では『ヒュンタールの街の惨劇』とか『ヒュンタール戦争』とか……だったかな?

 ヒュンタールは、イルドラ国の外縁部にある街の名前だ。

 現帝の水蛭鹿ひるか帝の御代なので、イルドラ国では水蛭鹿帝のことを「残酷帝」と呼んでいる。なので、戦争に遺族がいれば「人殺し」と言われても仕方ないのかも知れない。

 でも、羅睺羅国には戦争の記録はないのだ。

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