第7話 ハーレルの街

 射流鹿いるかの第4戦団の機竜は、羅睺羅らごら国の皇城を出陣した。

 元老院の一部の議員は「出陣」と言わずに「出立」と言っている。太后おおきさき様は、帝の側近に「出陣と言わずにの名を控えておく」ように指示を出していた。


「イルドラ国を褒めるとした『賄賂の使い方が上手』と言う点ですね。性根の腐った人間を嗅ぎ分けて効果的にばら撒きます。こればかりは我が国の行政官では太刀打ちできません」


 月夜見つくよみ様も、太后様のその見解には同意していた。



 機竜の背は広い。3つの段差が設けられていて、後方に進むほど高くなる。前方の一番低いところに機兵が置かれ、一段高いところに機兵を整備するために機巧からくりの予備がストックされている。後方の高いところが指揮をとる司令塔で、その周囲には機竜に乗機する乗組員の居住区もある。

 司令塔の操舵室には、竜の骸に組み込んだ機巧からくりを操る仕組みが集中している。

 この操舵室が、機竜で一番高い位置にあるので見晴らしが良い。指揮官はそこに常駐して指示を出す。



 わたしは、皇城から馬車で国境に待機しているラインゴルド騎士団の機竜へ向かう。


「まさか……月夜見様は射流鹿いるかと妾をために、人知れない場所で妾を殺すつもりじゃないだろうか?」


 そんな疑惑が脳裏を走る。

 妾を乗せたラインゴルドの機竜は、射流鹿の機竜に追いつかない。操舵室から見える景色は、妾が予想していたイルドラ国への景色とも違う。



 結果的には10日間の移動で、射流鹿と1日遅れでイルドラ国のハーレル王城に到着した。「日嗣皇子の婚約者」の護衛として、ラインゴルドの機竜はハーレルの街の防壁の中に迎え入れられる。

 ハーレルの街の防壁の内側に、第4戦団の機竜とラインゴルドの機竜の2隻が入ったことになる。機兵も合わせて5機。

 ハーメルンの機竜は、防壁の外で待機させられている。妾を乗せていなければ、ラインゴルドの機竜も同じく城壁の外で待機させらただろう。

 これが月夜見様の思惑で、ハーレルの街の防壁内に機竜2隻を受け入れさせるための計略だった。



 ハーレルの街は、機兵の攻撃を想定した高い防壁に囲まれている。防壁には厳重な造りの大門が四方に1つずつ。防壁の内側が城下町になっており、街の中央の高台に王城がそびえ立つ。その王城も高い城壁を備え、4ヶ所の城門からのみ出入りができるようになっている

 2隻の機竜は、王城の東に面する広い場所に停留している。この東面は、ハーレル王城の一番防衛が強固な方向と言われており、王城を守備する機兵の駐機庫に近いそうだ。

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