第6話 婚前旅行じゃなかった?

 羅睺羅らごら国とイルドラ国は仲が悪い。羅睺羅国で不幸な事故や事件が起これば、イルドラ国では歓喜の声をあげてお祭り騒ぎになる。

 帝所有の巨人の骸の採掘場を荒らした時でも「羅睺羅国をやり込めた」と国内ではイルドラ王が絶賛されたらしい。泥棒を絶賛する国のを、妾は疑うけど。



 現在のイルドラ王はラムカ13世で「日嗣皇子ひつぎのみこ暗殺計画」と「巨人の骸の採掘場荒らし」が起こる数年前に王位を継いでいる。

 13世との称号を名乗っているので、先に12代の王がいたように思えるのだが……イルドラ国は実は新しい国だったりする。本当は「ラムカ13世」は3代目の王だ。

 現在の帝である水蛭鹿ひるか帝が羅睺羅朝の11代目とされているので、それに対する対抗意識で世代数をサバ読みはじめた。イルドラの先代王はラムカ2世だったのは公然の秘密となっている。

 ラムカ13世は王位を継ぐと、水蛭鹿帝を公然と誹謗中傷し始めた。それでイルドラ国民からは、かなりの人気を稼いだようだ。

 それで水蛭鹿帝から

『ならば決闘しようではないか。イルドラ王は好きな剣を選べ。私は素手で良い』

と言われて、ラムカ13世は返事ができなかった。

 水蛭鹿帝の強さは圧倒的だ。剣を振るっても、機兵を操っても。たとえであってもラムカ13世が怖じ気づくのは仕方ない。



 イルドラ国の使節団は、元老院に「日嗣皇子とその正妃がイルドラへ来訪すれば、全イルドラ国民が歓迎する」と言っている。

 息をするように嘘をつける人は実在した。


「貴女を巻き込んでしまって申し訳ありませんね」


 申し訳ない……と言いつつ、太后おおきさき様はケラケラと笑っている。絶対に面白がっているだろう、この方は。


「確かに射流鹿は未熟で、剣も機兵も帝には及びませんが……帝と違って、謝っても許しを与える優しさは持ち合わせていないのにね」


 笑い続けている太后様を横目に、月夜見つくよみ様が話を引き継いだ。


「第4戦団は、機竜1隻と機兵3機の軍を率いてイルドラ国のハーレル王城へ向かう。2つの騎士団が我が軍に追従することになっている」


 追従する騎士団は、ラインゴルド騎士団とハーメルン騎士団。それぞれ機竜1隻と機兵2機で参加するそうだ。どちらも帝から信頼されている騎士団である。

 そして、わたしは騎士団の1つであるラインゴルド騎士団の機竜に乗って行くことになる、と。


「え?」


「ラインゴルド騎士団は絶対的に信用できる数少ない騎士団だ。お前のこともよく護ってくれるように手配してある」


 妾と射流鹿いるかを一緒にさせたくない月夜見様の嫌がらせかと思ったが、それではなかった。

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