第5話 怪しい御招待

 その月夜見つくよみ様は、射流鹿いるかが一軍を従える将となったのを機に、後進に任せて自らは将を退いてしまわれた。今は、将となった射流鹿の補佐役に就いている。


 羅睺羅らごら国には、帝の近衛軍団は4つある。帝が自ら指揮をとり羅睺羅国の中央域を守護する第1戦団、東方域を守護する第2戦団、西方域を守護する第3戦団。そして守護域を持たない遊撃部隊である第4戦団。

 少し前まで月夜見様は第2戦団の将で、射流鹿も第2戦団で実戦の経験を積んだ。そして今、射流鹿は第4戦団の将となり、月夜見様は第4戦団の参謀的な地位にある。



 ここに月夜見様がいると言うことは、射流鹿が率いる第4戦団の出陣が決まったのだろう。太后様と月夜見様は、こと射流鹿に関しては密に情報交換している。


「イルドラ国より和平に応じて欲しい、との申し入れがありました」


 あれ?


「それで日嗣皇子とその妃となられる方のお二人を招いて、食事会をしたいそうです」


「……はい」


 あまりの拍子抜けに、思わず生返事を返してしまう。

 太后おおきさき様の仰る通りなら「わたしと射流鹿がイルドラ国から招きを受けた」と言うことになる。射流鹿と一緒に婚前旅行か?

 いや、それなら月夜見様がここに居るはずがない。月夜見様は未だに、妾と射流鹿の結婚に反対しているのだから。


「イルドラの招きには応じる。ただし、第4戦団の精鋭を連れて行く」


 月夜見様はキッパリと言った。それから。


「我が羅睺羅国とイルドラ国との課題は2つ。1つ目は、数年前に帝所有のの採掘場をイルドラが荒らし、今も所有権を主張していること。2つめは、ほぼ同時期に発覚した日嗣皇子を狙った暗殺計画の真相を解明することだ」


 帝の嫡子は射流鹿だけ。もしも射流鹿に何かあれば、帝位の継承を巡ってゴタゴタが起こる可能性はある。実際に継承権のない元皇族を「正当な後継者」と担ぎ上げている勢力もある。

 日嗣皇子暗殺計画が、羅睺羅国の反帝勢力の陰謀でそれにイルドラが加担したのか?

 それとも、巨人の骸の採掘場が欲しくてイルドラが主導したのか?


「イルドラが、巨人の骸の採掘場から手を引き、暗殺計画に関わったとされる要人全部を我が国へ引き渡すならば和平に応じる。そうでなければその場で決着をつけてくる」


 それって強大な武力を見せつけて無理矢理言いなりにさせる……そんな風に思えたのだが、太后様の言葉に180度考えが変わる。


「イルドラ側は『日嗣皇子とその正妃となる二人を国に招くことができれば、全ての条件を受け入れる』と言っているんですよ」


 うわ……完璧な

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