第3話 偶然の逢瀬

 射流鹿は既にイルドラ国相手の戦争準備に入っているはずだ。

 自分の指揮下の入った機竜3隻と機兵14機から、遠征に参加する兵員の選定に入っているらしい。更に、国内外のいくつかの騎士団も「日嗣皇子が遠征するなら参加する」旨を表明している。



 兵と騎士は、明確に区別される。戦場で、軍が用意した装備で戦うのが「兵」であり、自らの装備で戦うのが「騎士」だ。名の知れた騎士ならば、機兵を私的に所有して独自の機巧からくりが組み込まれたを僕とする。

 とは言え、機兵を所有し、維持するのは相当な財力がなければ無理だ。これまでの戦いであげた戦功により、相応の領地を得ている場合がほとんどだと思う。

 そんな有力な騎士を中心に、集まった騎士の集団が騎士団になる。



 妾と射流鹿。二人とも皇城の中に居るからと言って、頻繁に顔を合わせるわけでもない。射流鹿は、軍の側近たちと軍議を重ねているらしいし、わたし太后おおきさき様の側仕えをしている。射流鹿のことは、おおよそ太后様から伝え聞くだけである。

 太后様のいらっしゃる庭園に向かう途中で、偶然に射流鹿と久しぶりに顔を合わせた。

 

「お久しぶりです、まりねえ


 この前に顔を合わせてから、半月ぶりくらい?

 妾に対して未だに丁寧語、呼び方も「まり姉」で16年前から変わらない。ただし、射流鹿は誰に対しても丁寧語だったりするので、妾との距離感が微妙なわけではない。絶対に。


「忙しそうだね。色々と」


「いえ。いつも通りです」


 これは、謙遜とか社交辞令とかではなくて「軍の動き」を誰にも漏らさないための常套句。「忙しそう」といた妾の方が軽率だった。

 間もなく嫁ぐ相手とは言え、軍に取っては妾は部外者だ。


「新しい宮、もうすぐ完成するよ」


「そうですか。楽しみにしています」


 皇城へ戻ってきてから1ヶ月くらい経つはずだけれど、ずっと軍議で皇城の軍の詰所にいるらしい。宮の方へは行っていないので新しい宮の進捗具合も知らない。

 お互いに仕事に戻らないといけないので、半月ぶりの逢瀬は「新しい宮を楽しみにしてる」と確認しただけでお別れした。



 太后様が、女子の装いで可愛がったせいかどうかわからないが、射流鹿は太后様にそっくりだ。容姿だけの話ではない、その気質も。

 実は太后様も愚痴っていたのだが……射流鹿は、皇城へ戻ってからずっと遠征の準備に集中して、帝や太后様のところへも滅多に顔を出さないそうだ。

 いや、でもね。射流鹿にそうさせるように仕向けてるのは太后様だと思う。

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