第2話 新居が完成するまでに

 この世界は戦争に明け暮れている。

 地中に眠っているたる「巨人のむくろ」と「竜のむくろ」を幾多の国々を狙い、奪い合う。

 当然と言えば当然で「巨人の骸」と「竜の骸」は、骸となりながらも世界を創造したを未だ内に宿している。巨人の骸をしもべとした機兵は10万人の兵士に優り、竜の骸を僕にした機竜は1万台の荷馬車に優る。

 そして骸の欠片でさえ、剣や弓を超える武具を作る素材になると言う。



 羅睺羅らごら国で帝が住まうのが皇城。

 わたしの母は、皇城で帝の后である太后おおきさき様に仕えていた。子供好きの太后様にせがまれた母は、幼かった妾を皇城に連れてきていた。その時に射流鹿いるかに出会う。


「女の子が欲しかったの」


 そう言う太后様は、幼い射流鹿に女子の装いをさせて喜んでいた。射流鹿本人には、太后様の趣味とは言えなかったから「健康に育つためのおまじない」だと言うことにしていたけど。

 母が職を辞した後、妾が太后様に仕える役に就く。射流鹿は、帝の近衛兵を統率する将となるために戦場へ赴く。

 そして、戦場で経験を積んで将となって戻ってきた。



 射流鹿が帰国してから、皇城はやたらとせわしない。

 羅睺羅国と紛争状態にあるイルドラ国の使節団が、元老院の一部の議員と和平交渉を画策している……とか言われている。


「イルドラ国は、数年前に日嗣皇子ひつぎのみこ暗殺を謀ったとの噂もありますね。もし、それが本当だったとしたら……自分の自由にできる軍を持った射流鹿を怖がるのは仕方ないかも知れませんね」


 太后様は暗に含んだ言い方をするが、この方には噂か事実かなんてことは関係ない。「疑わしきは、皆殺し」を信条とする、この方が「噂」を口にする理由は一つしかない。

 表だって紛争状態になったのも、帝の所有している「巨人の骸」の採掘場を、突然にイルドラが「所有権」を主張して荒らしたからだ。

 日嗣皇子暗殺計画に加担していて、上手くいったら「巨人の骸」採掘場を掠め取ろうとしていたけど、失敗したから拗れちゃいました……と考えると辻褄が合う。


「新宮の築造は進んでいますか?」


「はい、間もなく完成します」


 皇城はそれ自体が軍事的な要塞になっていて、機竜と相当数の機兵を配備してある。その防壁で守られた一角に帝が住まう宮があって、現在その隣に射流鹿と妾が住む宮を新築中だ。

 射流鹿は戦場にいたので、新しい宮は妾の好き勝手な設計になっている。


「そう。じゃあ、ちょうど帰国した頃に新宮も完成してますね」


 ……帰国した頃?

 どうやら、既に事態は動き出しているらしい。


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