日嗣皇子に嫁ぎます ー神々の遺産ー

星羽昴

第1話 日嗣皇子に嫁ぎます

 幼い女の子が、わたしの方へ駆け寄ってくる。

 いや、違う。これは男の子だ。


「結婚して下さい」


 妾のすぐ傍まで来て、息を切らしながら男の子は真剣な間差しでそう言った。


「うん。あなたが大人になったらね」


 6歳年上で背丈も彼より大きかった妾は、男の子に目線を合わせるために中腰になり、そう答えた。

 妾の返事に、男の子は無防備な笑顔を浮かべる。



 ふいに、意識が現実に引き戻される……え、夢を見てた?

 ああ、そうだ。これはずっと前の記憶……16年前の。

 現実の世界、目の前で戦いが行われている。

 人の10倍はあろうか?

 二本の足で立ち、二本の腕を振るう人型の巨大なモノ。その、巨体の二本の腕には、人が戦場でするように剣を握り、盾を装備している。



 この、巨大な人型のモノは神々の遺産だと言われている。まだ、人が世界に広がる以前の時代の主たち……世界を創造した神々の末裔たるたちの遺骸だ。

 人は、地中に眠っていた巨人の遺骸を手に入れた。

 その巨人の遺骸に、人が作り出した機巧からくりを組み込み、人の意思の通りに動かす。人のしもべとなり下がった神々の遺産を、人は「機兵」と呼んでいる。



 白い機兵2機と緑の機兵2機の戦い。白い機兵は、圧倒的な強さで緑の機兵2機を破壊してしまう。白い機兵は、妾たちが待つ「機竜」に戻って来た。

 巨人よりもっと大きく、神話の中で巨人をも空を飛んで運んだとされるも神々の末裔である。今は巨人と同じく遺骸となって地中に眠っている。人は竜の遺骸にも機巧を組み込んで僕とすることに成功する。それが「機竜」だ。

 いくら人の機巧を組み込んでも竜には、空は飛べない。その背に機兵と人を乗せ、遺骸に宿る『魔力』で車輪を回して、背に積んだモノを運ぶだけ。

 それでも、この巨大な機兵を乗せて速さで移動できる。



 戦いは、妾たちの陣営の勝利で終わった。白い機兵は、妾たち羅睺羅らごら国で「ジークフリード」と呼んでいる機兵種だ。


「おめでとう、射流鹿いるか


 この戦いを、機竜の一番高い場所から指揮していたのは白い鎧を身に付けた若い男性だ。その男性に妾は声をかけた。


「ありがとうございます。まりねえ


 振り返って、妾に微笑みかける笑顔が、さっきの夢の中にいた男の子と重なった。

 妾の名前は茉莉花まつりか。幼かった男の子は、妾の名前を正しく発音できずに「まり姉」と呼んでいた。そして今も、そう呼ぶ。

 羅睺羅国の日嗣皇子ひつぎのみこである射流鹿いるか……16年前に、妾に結婚を申し込んだ男の子は成長した。そして間もなく、妾は彼の妃になる。

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