第4話 折れた剣と剣石(つるぎせき)

朝起きると、そこには折れた剣が転がっていた

「…お前だろ」

「ちっ、ち、ちがうぜ?」

ヤンキーこいつ、嘘が下手である

睨み合うこと5分、ついに参ったのかヤンキー犬は真実を語った。


「……あれは、月も沈みかけていたときだった…。」

…こいつ、なんかカッコよく語りだしたぞ

「俺は真夏の暑さに目が覚めた」

しらねーよ

「あまりの暑さに、あと1本だった『ゴギャゴギャ君』を食ってしまった」

おいテメー罪増えてるぞ

「ちなみに、ハズレでした…」

どうでもええわ

「そして、最後の1本だったのにハズレてなんか……ムカムカしてきて…」

短気すぎね?こいつ

「剣に八つ当たりしたら、折れてしまいました…。」


「……ん?」


え、この剣ってそんなに脆いのか?と思い殴ったりしてみたがびくともしない

いやどういうことだよ、お前の八つ当たりは剣をも砕くのか?馬鹿力すぎだな

「だが安心してくれ」

と、ヤンキー犬は地図を取り出した。

そして「剣山」という山を指すと―

「ここの山には【剣石】という石が埋まっている、この意志を採掘することができれば俺が新しい剣を作ってやる。」

いや、原因お前なのになんで上から目線なんだよ

といった不満を抱えつつ、今日は別にやることもなかったので(宿題はやることに含まれていない)その剣山とやらに向かうこととなった


1時間後、俺の目の前には立入禁止の看板と、その奥のいかにもヤバそうな雰囲気の山の景色が広がっていた。

「…よしっ、帰ろう」

ここにいたら命が絶えると思った俺は、家へ帰ることを提案した―が


「よし、出発だ」


犬にリードをつけられ、連行されていった。

普通は逆だろ、なんで俺がこんな目に遭わなければいけないのだろうか。

ヤンキー犬の力は常軌を逸しており、俺は何もできなかった。

立入禁止の看板をぶっ壊すと、俺達は(俺達の意思ではなく、あくまでヤンキー犬だけの意思である。なので俺は悪くない)剣山の中へ入っていった。


1時間も登ると、山頂が見えてきた。意外と低い山で助かった。

「よし、掘るぞ」

「…なにを?」

「そんなの地面に決まってんだろ、アホか?」

俺が反論する前に、ヤンキー犬は地面を掘りだした「ここ掘れワンワン!」ではなく「ここヷン゙ヷン゙!!」状態だ。

俺は、なんかヤンキー犬が持ってきていたスコップで地面を掘っていった。


―数時間後

俺の手には剣石が3個握られていた。

ヤンキー犬はもう15個目の剣石を掘り出したところだった。


「ふぅ、もうこんなにあるんだしいいんじゃないか?」

と、俺が聞くと

「…何を言っているんだ、こんな数じゃ刃の部分全然造れねぇぞ」


―まじか


俺は、明日筋肉痛になることを悟った。


―さらに数時間後

もう体力の限界だった。

剣石は二人合わせて36個集まっていた。

だが全然足りないらしい

こんな真夏にこんな肉体労働させやがって…

給料をもらいたいくらいだよ


―神様〜俺に慈悲を―


俺は手を合わせ、スリスリさせる

すると、神様に願いが通じたのか「い〜しや〜き芋〜」的な雰囲気でジジイがやってきた。

70〜80代に見えるそのジジイは、この険しい山を汗一粒も流さずに涼しい顔で登ってきた。

ここ立入禁止じゃなかったのかよ

「おぅ、そこの若いの、剣石はいるかい?」

まさかの剣石屋だった

てか剣石って売ってるのかよ

「1個何円ですか?」

「あぁ、今日は90%割引しててねぇ」

まじか!よっしゃあー運が良いぞ俺!と、手を天に向かって突き上げようとし―


「56万円だよ」


「…いや、90%割引じゃねーのかよ」

思わず突っ込むと

「いや、そうだけど?」

と、何バカなことを言っているんだいといった目で見てきた。

「いや、いくらなんでも高すぎっていうかジジイぼっくりだろ!!」

そんなの誰が買うんだよ―


「100個ください」


といって、ヤンキーアホな犬はどこに隠し持っていたかわからない財布を取り出した。

そして5600

「よし、帰るか」

剣石を受け取って、何事もなかったかのように俺を連れて山を出た。




  _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _




約1時間後

「おい、そろそろ離せよ」

俺たちは山から出た。

「ふぅ、これで剣石は大丈夫だな」

俺はそんなことよりも気になることがある。

「おい、お前あの金どうしたんだよ」

そう、ヤンキーあいつが出した5600万円のことだ。

実は金持ちだったのか?などと考察していると予想外の言葉が返ってきた。


「あぁ、あれ全部偽札だ。」


………いやまじかよ

「こういう事も起こるかと思って偽札を用意しておいたんだ。」

探偵もびっくりな事前準備だな

こいつ警察に捕まったほうがいいんじゃないか?

多分、世界初罪を犯した犬だろう

テレビでも話題になりそうだ

だけど警察に通報したら俺も共犯者みたいになりそうだからやめておこう


空を見上げると、もう月がのぼり始めていた

俺は剣石を抱えて家へ帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る