第74話 エピローグ  新たな称号?

 

 目が覚めた部屋は、鼻の奥が刺激される強烈な消毒臭い部屋だった。


「痛っ」


 体を動かすと足に痛みが走った。


「やっと目覚めましたね、マスター」


「レベッカ、ここは?」


 自分の身体に包帯を巻かれている。

 近くでレベッカが本らしきものに、何かを書き込んでいた。

 以前も似たような状況があった気がする。


「病院です、マスターはもう三日間も寝てたんですよ」 


 周りには無数のベットと怪我人がいる、どうやら病院のようだ。


「みんなは? 

 半神は?」


「皆さんは無事です。

 マスターの雨の魔法で虫の息になった半神を、あのヘボタヌキが燃やしました」


「え、ロネが?」


 もう動けなくなったが、まだ息のある半神をどうすればいいかと相談しあっていた時にロネが自分の影から出てきてトドメを刺したらしい。


 神を殺すという大事を考えると、我々ヒューマンではなく神の一部であるロネがしてくれたのはありがたい。


 カイルとショーンさんはフェリス様と山の巫女へ報告しに、バックスとスランディーは領主と副長のナターシャさんを連れて森の奥に行ったらしい。


 どうやら半神がいた山だけ燃やした方がいいという事になり、どの辺りまで燃やすかを決めるらしい。


 とりあえず原因を排除したので、もうキノコに悩まずに済むそうだ。


 バックスは回復魔法で完治し、もう活動を再開している。

 さすがはA級冒険者だ、三日間も寝込んでしまう自分とは回復力も違う。


 目が覚めた事をレベッカが医者に報告しにいき、現れた医者の見立てでは、とりあえず問題は無さそうだが、安心をとって一泊してから退院する事になった。

 

 病院から退院して、すぐバックスの提案で簡単な祝勝会をする事になった。


「クライフ、レベッカこっちこっち」


 指定されたレストランに行くと、小さな少年にしか見えないカイルが手招きをしている。


「お、主役がやってきたのぉ」


「全く、俺様ともあろうものが、C級受験者に主役を取られるとはな」


「今回の主役は巨人殺しじゃなくて、半神半殺しのクライフっちですからね」


 ショーンさん、バックス、そしてスランディーの顔を見ると改めて半神との戦いに生き残れた実感が湧く。


「あれ、ノーマは?」


 見渡しても、目立つはずの巨体のリザードマンの姿が見えない。


「あのクソトカゲはC級の資格と報奨金貰ったらどっかに行きましたよ」


「そうなんでしぃ、宴会に誘ったでしぃけど資格だけ貰ってどこかに行っちゃったでしぃ」


「そうなんだ、そっかお礼を言いたかったな」


 多少振り回された気がしたが、それでも一緒にいて頼もしかった。

 こんな形で何も言わずに別れるのは少し寂しい。


「いいんですよ、あのクソトカゲにもう会わないと思うと清々します」


「そう、あれC級?」


 口約束だがバックスが半神を倒したらB級にしてくれるとか言っていたと思う。


「それについては僕から謝罪させてもらいます」


 カイルが椅子から降りて、自分の所へやってきた。


「それではクライフ、改めておめでとう。

 これを冒険者ギルトへ持って手続きすればCランクへ昇級できます。

 そしてこちらが賞金です、キノコ狩りの報奨金だけでなく、グランドベアーと半神討伐を討伐メンバーで等分させてもらった金額に少しだけ色をつけました」


「ありがとうございます」


 書類と共に金貨の入っている袋をもらう。


「こんなに頂いていいんですか?」


 重い袋の中を覗くと、二十枚以上の金貨が入っていた。


「バックスが適当に言った、B級になれなかったせめてもの償いです」


「カイル人聞きの悪い事を言うなよ、ちゃんと推薦はしたんだぜ」


「ええ、ただ実績のないC級冒険者をいきなりB級にする事はできない、という判断でした」


「それは俺のせいじゃないよな、まぁA級の巨人殺しバックス様が推薦したという記録は残る。

 大丈夫だクライフならすぐにでもB級になれるよ」


 バックスは笑いながら肩を叩いてきた。


 まぁ元々、B級になれると思っていなかったので別に構わない。


「じゃあお詫びと言ってはなんだが、代わりに俺様がクライフに新しい称号をやろう」


「称号ですか?」


「ああ気に入ったんなら二つ名にしてもいいぜ、最強の雨男というのはどうだ?」


「辞めてください、本当に称号をもらったらどうするんですか?」


「称号が欲しくないなんて、本当にクライフっちは変わっているでしぃね」


 皆が一斉に笑い出す。 

 もうこれ以上変な呼ばれ方はしたくないだけなのだが。


 その後、副長のナターシャさんやバックスの友達だった旅館の主人もやってきて、大いに飲み明かした。

 カイルは宴会で酔った副長のナターシャさんに泣きつかれ、再びバックスのクランに所属することになった。


 スランディーはもう少しここでキノコの研究をしてから、王都に戻るようだ。


 ショーンさんは晴れてC級になったが、今回の試験で思う事がありここで冒険者としては引退するみたいだ。今回の賞金を元に奥さんとの老後の生活に勤しむみたいだ。


 翌日二日酔いに苦しみながらもレベッカと二人で街まで戻る。

 あれだけ騒がしかった道のりが二人だけになってしまい、少しだけ寂しい気持ちがあった。



『おかえり!』


「おかえりなさい」


 シショーと宿の女将さんが出迎えてくれた。


 シショーと別れて約三週間程だが、もっと長い間会っていなかった気がする。

 とりあえずレベッカと別れてお互いの部屋で休む事にした。


『じゃあ、早速聞かせてよ君の武勇伝!』


「ええ、しょうがないですね」


 正直疲れていたけれど久しぶりに出会ったシショーに話をしたい気持ちがこみ上げてきた。


『おお、だいぶ成長したみたいだね。

 レベルが上がっただけじゃなく、新しいスキルもゲットしたみたいだね』


 早速シショーのスキルで鑑定をして貰う。


「そうなんです、結局よくわかていないんで後で教えてください」


『ちょっと待って、ロネって何?』


「なんでロネの事を知っているのですか?」


 自分の声に反応してか影からひょっこりロネが顔を出した。


「ロネ!」


『ワォ! 

 タヌキちゃん、やば激カワなんですけど』


「なんでここにいるの」


 ロネがあざとらしく首を傾げる。

 可愛らしいロネに我慢出来ないシショーが絡みついている。


 ぱっと見シショーがロネを捕食しているように見える。


「シショー、ロネが困っているからほどほどにね。

 ロネ、このスライムは仲間だから攻撃しちゃだめだよ」


 ロネがこちらに助けを求めるように見つめている。


 シショー気持ちはわかるけれど、もし反撃されたらスライムの防御力を考えると洒落にならないかもしれない。


『そうだよ、僕はいいスライムだよ』


 また変な事を言ってロネが困っている。


「なんで、シショーはロネの事わかったんですか?」


『だってテイムモンスター欄にシショー、レベッカ、ロネって書いてあったから』


「え、テイムしちゃったの? 

 どうしよう神様の一部とか言ってたけど不味くないですか」


『マジで? 

 え、ロネちゃんって神様なの?』


 慌ててシショーがロネの拘束を解く。

 シショーから逃れるように自分の所に来たロネを膝の上に載せ、シショーに今回の試験で起きた事を順序立てて話した。


『すごいね、神様に会うだけでなく、半神とはいえ戦って勝っちゃうんだもの』


「まぁ、そうですね、はい」


 確かにただのC級試験のはずが、随分ぶっ飛んだ事に巻き込まれたと思っている。


『ロネちゃんをテイムしたのは、名前を付けた瞬間だと思うよ』


「そうですか」


『ほら先生をテイムした時も名前をつけた時でしょ』


「あ、確かに」


『これからは迂闊に名前をつけないようにね』


 そうか、名前をつけるのは慎重になった方が良さそうだ。


「どうします、今からでも返しに行ったほうがいいですかね?」


『いや、多分大丈じゃない。

 ロネちゃんも嫌がってなさそうだし、それに巫女さんはテイムした時その場にいたみたいだし、他の人が神様に報告しに行った時も何も言われなかったんでしょ。多分大丈夫だよ』


 とりあえず新たにロネが仲間になった。

 手足が短く機敏に動くのは苦手そうで戦闘面で役にたつか微妙だが、こちらの言う事も理解できるぐらい頭も良く、何より癒やし枠として重要だ。


 どちらかというとマイペースというかのんびり屋さんで、いつの間にか影から出てきて自分にだけ甘えてきて、ふとした瞬間にほっこり気分を味わさせてくれる。


 ただこれも問題があり、この前昼食を食べている時にひょっこり影から現れたロネにご飯を分け与えながら可愛がっていると、周りが奇異な物を見るようにこちらを見ていた。


 他の人には見えないので、可愛がっているのを見られると、何もない空間で手だけ動かしている危ない奴にみえるようだ。

 他人がいる所ではおいそれと可愛がってあげられない。


 十分休養できたので、レベッカとシショーを宿へ置いてジュゼットさんへ報告しに行った。


「ふむ、大層な活躍じゃったらしいな」


「いえ、そんな言うほどじゃ」


「相変わらずじゃな、とにかくC級おめでとう。

 これで儂の元からも卒業じゃな好きな担当を選びな」


 そう言ってリストを投げやりに渡してくる。


「え、ジュゼットさんじゃダメですか?」


「何、お前はこんな爺がいいのか?」


「ええ、できれば」


「しょうがない、本来はD級までじゃが特例じゃぞ」


 よかった、今更他の冒険者ギルトの担当と仲良くなれる自信がない。

 特例と言っているし、本来はできないみたいだけれどもジュゼットさんの好意に甘えよう。


「そう言えばチーム結成の連絡をもらっているぞ」


「チーム?」


 レベッカはテイムモンスターなのでチーム結成の連絡はしなくていいし、シショーやロネの事ではないはずだ。


「遅かったな」


「ノーマ、何でここに?」


 後ろを振り向くと、リザードマンのノーマがいた。


「最初にチームに誘ったのはお前だろ?」


「いや、そうだけど」


 あれは試験の間だけのお誘いだったが、確かにその説明はしていない。


 ここまでやってきているノーマを追い返すわけにもいかない。

 ノーマの戦闘力は魅力的だ、一緒に戦ってくれると頼もしい。

 それに自分を慕ってくれたと思うと単純に嬉しい。


 ただ心配な事が一つだけがいる


「何でトカゲがここにいるんですか!」


「別に死人に許可は求めてないぞ」


『これが噂のリザードマン、かっちょいい』


「クゥーン」


 とりあえず自分の部屋へ連れて行き、新チームの顔合わせをする。

 ロネをモフりながら気持ちを落ち着かせる。


 アンデットとリザードマンとスライムと神の眷属と精霊使いのヒューマンという、とんでもメンバーの結成だ。


 普通の人はこのメンバーに加わろうとは思わないだろう。



 むしろ新しく加わる人はこのメンバーにも負けないぐらい癖が強い人なのだろうと何となく思った。

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