第72話 閑話 暇を持て余す 死人 パート2


 マスターが山に登っていってしまい、ボク一人取り残されてしまった。

 仕方が無いので野宿の準備を始めよう。


 野宿にはもう慣れたものだな。


 マスターには伝えていないけど、同室になった冒険者がすごく嫌そうな顔をしていたのでスロネに着いてからずっと野宿をしている。


 野宿する為の準備をしながら、山に登っていったマスター達の事を考える。


 マスター達は神様に会いに行ったけど大丈夫かな?

 神様に会えたらすごいよね、普通無理だもんね。


 ボクはどうだろう会えなくて残念?

 うーんどうだろう、生きていた頃ならいざ知らず今は特に会いたくはないかな。


 下手に会ったら消されてしまうかもしれないし。

 野宿の準備もあっという間に終わり、手持ち無沙汰になってしまったので剣と刀の新しい技でも考えようかな。


 色々試してみるが、中々いいアイディアが湧いてこない。

 最近、戦いに遅れそうな気がして不安なんだよね。


 認めたくないけど、あのクソトカゲは戦闘だけならボクよりも上だね。

 あの巨体にスピードだけでなくしなやかさを持ち合わせていて、次の一手も読みにくい戦いにくい奴だ。


 マスターもシークレットブーツの使い方が巧みになってきて、ますます変速移動、変態移動にも磨きがかかっている。

 新しく、水と土のスキルをゲットしたという事は火、風、闇も新しいスキルをゲットしているだろうから、これからも間違いなくヒューマン離れに拍車がかかるだろう。


 ボク、マスター、トカゲの三人だったらアンデットのボクが一番普通という恐ろしい事態なのか?

 これはアンデットの沽券に関わる、ちゃんと普通ではない所を見せないと。


 だけど、どうすればいいの?


 暗闇の中でもう一度一人で考える。


 結局いいアイディは浮かばないまま、朝日が出始めていた。


 マスター達は帰ってきていないが、どうせマスターの事だきっと大丈夫だろう。

 なんの根拠もないけどこれっぽっちも心配ではない。


 カイルの指示通りもらった手紙を街に届けに行く。

 一人という事もあり、モンスターに時間を取られたが無事街までやってくる事ができた。


 外で休憩していた冒険者ギルトの綺麗な女性の受付に手紙を渡す。

 どうやらこの街名物の受付嬢らしい。


 しばらく外で待っていると巨人殺しのバックスが現れた。


「お前がカイルの言っていたアンデットか?」


「はい、レベッカです」


「そうか、なんか面白そうな事が起きそうだから、俺も行く事にした」


「そうですか」


 この後飲み会にでも参加するような軽さだ。


「あ、そうだ。

 お前、高い所大丈夫か?」


 バックスの後を追って街を出ると突然変な事を聞いてきた。


「高い所ですか?

 別に大丈夫ですけど」


「よし、じゃあ俺の後ろにピッタリと着いてきな」

 

 そう言うと突然何もない空中を、階段でもあるかのように登りだした。


 平然と歩いて置いていかれそうになったので、巨人殺しの後をついていく。


 一歩踏み出してみると足元から見えない何か硬い感触がある。

 もう一歩踏みだし、バックスと同じく空を登っていく事ができた。


「やるね、レベッカって言ったっけ。

 ビビって来れなかったら置いていくつもりだったよ」


「ビックリしたけど別に怖くはないかな」


 正直死んでしまってから、怖さと言うものがいまいちわからなくなってきた。


「そうか、レベッカあの辺であっているか?」


「そうです、あの石の柱です」


 文字通り一直線に目的地に向かったので、モンスターに出会う事もなくあっという間についてしまった。 


 一人で街に戻るのに三時間以上時間がかかったが、二十分程で目的地に着いた。

 空中を歩けると言うのは圧倒的なメリットがある事を実感できた、さすがはA級冒険者だ。


「まだマスター達は戻っていないみたいですね」


「そうか何でわかるんだ?」


「マスターが近くにいればわかります」


「そうなのか」


 マスターとは主従者としての繋がりを常に感じていたが今は切れている、多分神域にいった影響で一時的に切れているのだと思う。


「待っているだけと言うのもつまらんな」


「そうですね」


 待ち初めて一分も経っていないうちから、バックスがつまらなさそうに地面に座る。


「そうだ、暇つぶしがてら模擬戦でもやるか」


 バックスがいい事を思いついたという顔をして立ち上がった。


「ボクと模擬戦?」


「自己紹介がてら、テストがてらと言う所かな。

 この後神域に乗り込むかもしれないから、その時に足手まといは連れて行けねぇ。

 さぁどうする、マスターがいないと決断できないかい?」


「是非お願いします」


「いいね、意外と好戦的だね」


 そう言うとバックスは立ち上がり、距離をあけて構えた。

 バックスは素手に素足というスタイルだった。


 よくわからないが、A級冒険者と戦えるなんて滅多にないチャンスだと思い全力で向かった。



「まぁ、こんなもんかな」


 結果から言えばいい所なく、ボロボロだ。

 剣と刀の二刀流の攻撃も、居合い斬りも、全て風の壁に阻止されてしまった。

 通りそうな攻撃何一つなく、最後は素手でボコボコに殴られて終わった。


「音の攻撃あんま効かなかったけど、何で?」


「あれですか、うるさいとは思いましたけど、別にそれだけですね」


「ふーんそうか、生きている奴には大概効くけど、死んだ奴には効きが悪いのか?」


「そうかもしれません、あのボクどうでした?」


「ああ、合格、合格。バランスいいし、C級の上の方と言っても過言じゃないぜ。

 レベッカだっけ、これからは俺の事を兄貴って呼んでいいぜ」


「そうですか」


「何だ、気に入らないのか」


「いえ、そう言うわけではないのですが、最近伸び悩んでいる気がして。

 バックスの兄貴に何かアドバイス貰えたら嬉しいなんてね」


「そうか、よし仕方ないここはバックス様がアドバイスしてやろう」


 兄貴と呼ばれた事が嬉しかったか、機嫌が良さそうに考えてくれている。


「そうだな、穴はないけど強いてあげるなら、動きが素直で怖さがなかったな。

 格下や雑魚モンスター相手なら十分だけど、俺様クラスには通用しないな」


「もっとフェイントをかけろという事ですか?」


「まぁそうだな、それも重要だな。

 フィジカルゴリ押しのやつらもいるが、大概の上級者は相手に行動を読ませない工夫をしているからな」


「なるほど、確かに」


 クロロ師範代も動きはじめが読めない縮地のスキルを使っていたし、マスターも普通の物理法則を置いてきたみたいな動きをするときがある。


 バックスの兄貴も何もないところを風の壁を使って飛び上がってきたら、初見じゃ対処できないもんね。


「もっと工夫しろ、元々風の壁も壁で直角に曲がった見えない相手にディスタンスボイスを届ける時に使っていた技の応用だ」


「そうなんですか、すごいですね」


「そうだろ、発見した時はマジで俺の時代きたと思ったね。

 まぁレベッカも工夫の余地はあると思うぞ、何か誰にも持っていないものはい?」


「ありますよ」


「なんだ、それを鍛えるのがっ手っ取り早いな」


「ボク、アンデットです。

 これは簡単にはまねできないですよ」


「そう言えばそうだったな……」


「そっかアンデットを鍛えればいいのか、考えた事ないな。

 うーん、そもそも何をもってアンデットなんですか?」


「そりゃ……死んでる事だろ」


「じゃあ、死んでいる事を鍛えればいいのかな?」


「いや、そうじゃないだろ」



 その後マスター達が来るまでバックスの兄貴とアンデットについて語り合った。


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