第71話 だからどうする

 いつの間にか周り一面を大猿達に囲まれた。


 C級モンスターがざっと数えて五十体いる。

 まさか半神が援軍を呼ぶ事は想定していなかった。

 どうするか撤退するべきか?


 逃げると言っても半神とエイプに挟み撃ちになってしまっている、簡単には逃げさせてくれないだろう。


「半神は俺とクライフに任せろ」


「わかった」


 バックスの指示にカイルが返事をする。

 ちょっと待って、何で自分だけ半神組なの?


 文句を言いたくなる気持ちを我慢し、気持ちを切り替えて半神に挑む。


 半神は常に逃げ続け、その周りを蛇が飛び回っている。

 半神自身も逃げながらも鋭い尻尾を振って、追ってくるバックスを追い払おうとしている。


 直接攻撃するだけでなく、時より尻尾で倒木や岩を掴んで投げる等行っていた。


 バックスが半神を猛追しているが、半神は触らせまいと必死に逃げている。

 半神が逃げてくる方向を予測し挟み撃ちしよう。

 蛇の鋭い体当たりが体を掠めたが、シークレットブーツで一気に伸ばし半神に近づく事ができた。


 半神目がけて、力一杯刀を振るった。

 金属同士がぶつかったような甲高い音がした。

 刀は半神の強靭な皮膚によって、跳ね返されてしまった。

 もう一度キープを強く唱え、刀を振るうがわずかに跡がつくだけで薄皮しか切れていない。


 自分の攻撃を跳ね返した半神は方向を変えて、近づいてくるバックスから逃げようとしている。

 シークレットブーツでこちらも追おうと思ったが、突き刺さるような視線を感じ振り返る。

 宙を舞う無数の蛇達の一つ目がこちらを見つめている。


 攻撃するのに夢中で、蛇達がすぐ近くまでやってきている事に気づくの遅れた。


 慌てて防御態勢を取る。

 しかし自分と対峙していた召喚獣がくるりと向きをか変え、一斉にバックスの方に向かった。


 蛇達の意外な行動に虚を突かれた。


 半神と蛇達が完全に周りから、いなくなってやっと気がついた。

 半神達は自分が脅威でないと判断し、自分の事を無視したのだ。


 

 半神とバックスが離れていく中、黒く重い気持ちが腹の中を駆け巡る。

 戦力になれていない。


 相手にすらしてくれないのか。


 一瞬安堵してしまった自分が情けない。


 怒りと悔しさで爆発しそうだ。

 またここで足を引っ張るのかと。



 短く息を吐き何とか気持ちをリセットさせよう。

 

 実力不足を嘆いても仕方がない、半神と蛇達相手には無力だという現実はわかった。


 じゃあ、だからどうするのだ。


 自分ができる範囲で何をされるのがあの半神にとって嫌なのか。

 短く考え、バックスに近づくエイプ達を相手にする事にした。


 エイプ達もこの中で驚異なのはバックスだという事が理解できたようで、地上から飛び上がり直接狙ったり、物を投げたりしてバックスに攻撃してくる。


 A級のバックスがエイプの攻撃を喰らう事はないが、無駄に風の壁を消費してしまった所に半神の攻撃を喰らうかもしれない。


 バックスに飛びかかろうとするエイプに、シークレットブーツで近づき刀を振るう。

 今まで相手していた大猿と比べれば確かに早いし、動きのキレもあるがそれだけだ。

 自分の変速行動にはついてこれていない、確実に一体一体排除する。


「おいクライフ、大丈夫か?」


 いつの間にかノーマがやってきた。


「え、なんで来たの? 

 スランディーさんやショーンさんの警護は?」


「ああ、カイル達に任せてきた」


「はぁ」


 頭が痛くなり、こめかみ片手で揉む。


 気持ちを切り替えよう。 


 バックスを除けば一番戦闘力があるノーマが警護に集中するよりも、ここで一匹でも多く大猿を狩ってもらった方がいい。


 二人で協力して大猿狩りを始めた。

 ノーマや他の皆の活躍もあり、大猿の数は確実に一体一体を排除し、数えられる程に数が減った時、遠くからエイプの雄叫びが聞こえた。


 声の方を見ると、山の麓から一匹のエイプが猛スピードで山を登ってくるのが見えた。 


 他のブラウンシールドエイプより一回以上大きく、三メートル近くある茶色の毛を生やしたエイプ達と違い全体が灰色になっている。

 ゴリアスシールドエイプ、ブラウンシールドエイプ達の親玉でB級モンスターだ。


 自分とノーマの前にきて、手のひらで胸を叩きドラミングし威嚇している。


 B級モンスターという事は自分が何もできなかったあの紫の悪魔と同級だ。


 もう自分の実力不足を嘆くのはうんざりだ。


 申し訳ないがゴリアスシールドエイプに紫の悪魔とのリベンジ、たまったストレスの八つ当たりをさせて貰おう。


「クライフ、やるぞ」


 それに自分には頼もしい相棒がいる。



 ゴリアスシールドエイプに向かって躊躇なく相棒が距離を積める。


 ノーマの鋭い攻撃をゴリアスシールドエイプの長い手で弾くと、カウンター気味に前蹴りを放った。

 想像以上に機敏なゴリアスエイプの攻撃を食らい、ノーマの大きな体が吹っ飛ぶ。


 自分もシークレットブーツで後ろから攻撃するが、死角から狙ったにも関わらず片手で弾かれ、鋭い回し蹴りを放ってくる。


 直撃は避けられたが、シークレットブーツの土台を砕かれ自分もノーマと同様に吹っ飛ぶ。


「この大猿、できるな」


 直撃をくらったにも関わらず、すぐに起き上がったノーマが嬉しそうにゴリアスシールドエイプに立ち向かう。


 ゴリアスシールドエイプはまるで武道家のような両手を前に出した構えからノーマに対峙していた。


 形や色が違う様々な盾が毛むくじゃらなゴリアスシールドエイプの両腕から覗いている。


 恐らく今まで戦った人から奪ってきた物を自分で括りつけ、籠手代わりにしているのだろう。

 ゴリアスシールドエイプの長い両腕で殴ってくる事はなく、常に守備のみに使っていた。


 主に飛び蹴り、回し蹴り、二段蹴りなどの蹴りを主体に戦っている。

 そして長い両腕をうまく使いこちらの攻撃を弾き、押し出して間合いにいれさせないようにしている。

 巨体にも関わらず中々攻撃が当たらない。

 

 見た目からして、脳筋タイプだと思い込んでしまったが中々のテクニシャンだ。

 蹴り技のキレはあるが、力やスピードは他のエイプと左程変わらないのがせめてもの救いだ。

 

 ノーマが攻め、それにひたすら自分が合わせて攻撃をする。

 自分達はまだ半神との戦い残っている。 

 

 贅沢を言えば短期決戦で望みたい。

 致命傷だけ避けて被弾覚悟で攻撃を加えていく。


 何も言っていないがノーマにも気持ちが伝わったようで、攻撃の回転が上がっている。


 ポーションがあるとはいえ、防御より攻撃に重点をおいた攻撃は間違いなくこちらの方が脳筋的な戦い方だ。

 攻撃を食らいながらも二人で攻め続け、少しずつゴリアスエイプの呼吸が荒くなり、ゴリアスエイプのキレが悪くなり始めた。


 ゴリアスエイプが一度距離を取り声を上げながらドラミングしてきた、一瞬ノーマの動きが止まるが大きな音に慣れた自分には効かず、逆に隙だらけの所脇腹に手応えを感じられる攻撃を加えられた。


 致命傷とはいかなかったが、ゴリアスエイプがドラミングを辞めて少しだけ後退する。


 萎縮からとけたノーマが、鉤爪の付いた槍をいつの間にか尻尾に持たせていた。

 鉤爪をうまくゴリアスエイプの長い両腕に引っ掛けそして槍先を地面に突き刺す。


 一瞬身無防備になったゴリアスエイプを、ノーマがおおきく振りかぶって殴る。


 ゴリアスエイプのこめかみにクリーンヒットさせた。


 KO寸前の隙だらけの所を背中から深く切りつけた。

 そしてノーマが地面か引っこ抜いた槍をゴリアスエイプの喉へ突き刺てトドメをさした。


 ゴリアスエイプを倒し、上がった息を落ち着かせる。


「ノーマ、ちゃんと指示には従ってください」


「大丈夫ですかマスター」


 呼吸が落ち着きはじめるとカイルやレベッカ達みんながやってきた。 


 周りにいるエイプはカイル達の活躍もあって倒しつくした。


「残りはあの半神だけど、すごい追いかけっこでしぃね」


 スランディの言うとおりバックスと半神の戦いは壮絶なものだった。


 半神が逃げ、四方八方からバックスに向かって蛇が体当たりをしている。


 さすがはA級冒険者、蛇達の攻撃を避けながら半神になんとか近づこうとしているが半神は触らせないように必死だ。


 半神も満身創痍だが、バックスも高級革の防具がボロボロで所々に血が付着している。

 手助けしたいが高速で追いかけっこしている二人に近づくのも難しい。


 なんとか援護したいが何をすればいい。


「とりあえず、遠距離攻撃してみよう」


 真のリーダであるカイルの指示で半神に攻撃してみるが、あまり効果は感じられない。


 半神はカイルのナイフもスランディーの魔法もレベッカの居合い斬りも一切気にせず避ける事もなく、蛇はバックスだけ追い続けた。


 遠距離攻撃がない自分は何もできず、様子を見守るしかない。

 何とか半神を足止めできればいいが何かできる事はないだろうか。


 自分のスキルはどれも補助系ばかりだ。


 土のシークレットブーツで近づき注意を引きつけるしかないのか。


 嫌、半神はまた相手にしないだろう。

 後何ができる、新しく取得したスキルでなんとかできないか?

 それともまた見ている事しかできないのか。


 バックスが半神の動きを読みきり追い詰めるが、半神が地面をたたきつけるように前足を地面に高く飛び上がり、バックスが紙一重で触るのを避けた。


 あるアイディアが浮かんだ。


「レベッカ、タイミングを見計らって顎を使って」


「了解です」


 レベッカが一才疑問に持たずに前傾姿勢になり半神を見つめ、必殺の二刀流の飛ぶ居合い斬りを放った。


 半神もさすがにそれを食らったら危険と思ったのか、大きく避けた。

 避けてくる場所を予測していた自分は、地面を触りながら土の精霊の硬に魔力を与える。


 硬が土起こし(仮)で柔らかくなった地面に着地した半神は、一瞬だけ出だしが遅くなる。


「クライフ、お前ら最高だぜ」


 バックスがわざわざディスタンスボイスで、自分達に声を送ってきて。


 作った隙を逃さずバックスが半神に触れる事ができた。

 半神が悲痛な叫び声をあげなら巨人殺しの必殺技を喰らう。


 半神が大量に血を吐きついに倒れた。

 そして半神に繋がっていてかのように、一斉に空を舞っていた召喚獣の蛇達も地面に落ちた。


 半神はなんとか立ち上がり逃げようとしているが、うまく起き上がれない。


 バックスがトドメを刺そうとした時、半神が横になりながら再び吠えた。


 またエイプでも呼び出すのかと思ったが違った。


 周りに生えているキノコが一斉に爆発した。

 足元にあったキノコの爆風によって軽く吹っ飛ばされる。


 飛んだ石にでも当たったのか、頭の上を深く切り血がドバドバ出ている。


 慌てて手で押さえながら何とか立ち上がる。


 紫色の土埃が立って何も見えなくなった。


 何とか立ち上がると、そこへ風切り音が迫ってきた。


「マスター危ない」


 レベッカの声を聞いてシークレットブーツを発動しようとしたが、気づくのが遅く太ももに衝撃が大きく走った。


 半神の尻尾の攻撃をもろに食らったようだ。



 視界がくるりと反転し、そして皆が自分を呼ぶ声が徐々に聞こえなくなり意識がなくなった。


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