第70話 いざ神殺しへ
「ごめんね、ロネ今洗い落とすからね」
「クゥーン」
目に涙を浮かべそうな、紫色に染まったタヌキのロネに水をかける。
スランディーの考えは突然変異していない普通のバリキノコを使って染色液を作り半神にかける事で、バックスやスランディー達でも視認する事ができるのではないかという事だ。
元々バリキノコは巫女の服の染色に使われていた歴史があり、かつフェリス様に感染してしまう程バリキノコと神の相性がいいはずだ。
実験として神の一部であるロネに液体をかけてバックス達に見えるかどうか実験してみた所、バックス達にもロネの輪郭が紫色になって現れ、どこにいるのかが把握する事ができた
この染色液は鮮やかな紫色だが、顔をそむけたくなるような腐った肉のような匂いだ。
ロネも目に涙を浮かべながらも協力してくれた。
綺麗な毛並みが染まってしまうかもと不安があったが、水をかけタオルで拭きとると綺麗な毛並みが復活した。
幸いにも染色液が染み込む前なら、水をかけるだけで簡単に落とす事ができたようだ。
協力してくれたお礼をロネにしたいけど何を与えれば良いかな?
とりあえずレベッカが街で買ってきた昼飯の弁当にあったタヌキ様が好きだと言われている名物の油揚げがあったので、渡してみたところ美味しそうにバクバクと食べた。
神の神域に入ったメンバーは昨日から寝ていないので軽く仮眠をとり、その後弁当を食べて準備を整える。
「よしそろそろ行くぞ準備はいいか」
皆を見渡したバックスが号令をかけた。
ロネを先頭に森の中に入っていく。
森の奥にいくにつれ、バリキノコの腐乱臭が充満してくる。
本来はこの森は奥に行くにつれて光が入らず、足下が見づらくなる程木が密集しているが、逆に奥に行く程木と木の隙間が広がりダイレクトに日差しが入る。
バリキノコが異常繁殖し、大きな樹木達を枯らしているからだ。
完全に生態系が狂ってしまったと、スランディーが悲しそうにしている。
歩く程目に見えて樹木がなくなり、代わりにバリキノコがみっちり生えた倒木が現れる。
悲惨な状況を目に入れながら目的地の山に到着した。
木は一切生えておらずもう完全禿げ山になっていた。禿げ山に紫のキノコがみっしり生えている為、遠目で見ると紫色の山になっていて実に気味が悪い。
スキルの遠目で観察すると山頂に半神が見えた。
フェリス様と同じく、大きな石の上に座っているが禍々しい雰囲気を発している。
あの美しい白い毛並みはドス黒い紫色になり、目を凝らすと何か尻尾らしきものが五、六本常にウネウネと動き回っているように見える。
「クライフ、あそこにいるんだろ」
バックスが見えないはずの半神を指す。
「ええ、そうです、変色していますがフェリス様の半神だと思います」
あまりの変わりように断言するのに躊躇してしまった。
「ああ、やはりな、嫌な音が脈打っていやがる。
皆打ち合わせ通りな」
作戦は自分が雨よけ(仮)を使って染色液をかけ、視認できた所をバックスが攻撃をする。
自分とバックスが先行して、他の皆は距離を空けてついてきてもらう。
ショーンさんとスランディーは回復に専念して、カイル、レベッカ、ノーマは二人の神殿騎士の護衛をする。
「もう一度言うけど、染色液が効かなかった、もしくはバックスが倒れたら即撤退だからね」
「わかってるよ、しつけぇな」
カイルが皆に向かって、重要な事を再度通達した。
ノーマは皆が緊張している中、一人いつも通りだ。
頼もしい気持ちと心配になる気持ちが同時に込み上げてくる。
「ロネは危ないから、ここで待っていてね」
神の眷属とはいえ戦闘面に不安のあるロネと一時的に別れを切り出した。
「くっーん」
残念そうに泣いて、体を自分になすりつけて自分に甘えてきた。
戦闘前なのに気持ちがほっこりしてしまった。
ロネは一通り甘えた後、自分からテクテクと離れた。
理解してくれたと思っているとロネは助走をつけてこちらに向かって走り出し、高くジャンプし、自分の影の中へ飛び込んで行った。
「え、ちょっとロネ何やっているの」
慌てて影を触るがそこにロネがいない。
「ずるいぞヘボタヌキ、マスターの影から出ていけ」
影から顔だけ出してきて、レベッカを挑発するように吠えるとまた影の中へ消えてった。
何がずるいのかはわからないが、ロネは人の影の中に入る事ができる能力があるようだ。
聞いた事がない能力だが、神様の眷属だからそういう能力があっても不思議ではないか。
とりあえずロネの事は気にしないで戦闘に集中できそうだ。
緩んでしまった気持ちを引き締め直し、皆息を潜めて注意深く慎重に山を登って行く。
半神は禿げ山の頂上にいるので、何かに隠れて奇襲する事はできない。
バックスと共に近づいていくと、はっきりと見えてくる半神の異形さに目を覆いたくなる。
色合いのせいなのか、神界で出会ったフェリス様よりも二回りは大きく見える。
白く美しかった毛並みはもうなく、皮膚は紫色に爛れてしまっている。
かろうじて足の先だけが、白い毛並みが残っているのが逆に痛々しい。
空を舞っていたのは尻尾では無かった。
半神の尻尾は三本に別れ、紫色で光沢感あり半神自身を守るように半神自身に巻き付いている。
尻尾だと思った空を舞っていたのは半神とは別の独立した、七匹の蛇みたいなモンスターだ。
一メートル前後の細長い紫色の体に、瞳孔が縦長の一つ目がういている。
そして羽もないのに宙を彷徨っている。
色合いが一緒なので、半神の一部なのか、もしくは半神の召喚獣なのかもしれない。
半神の本体と併せて、計九個の目がそれぞれ別の方向を向いている。
半神の瞳からは、フェリス様と出会った時の知性や気高さを感じ取る事ができない。
少しずつ山を登り、遠目のスキルを使わなくてもはっきりと視認できるようになった時、満遍なくあちらこちらを漂っていた半神の召喚獣と本体が一斉にこちらを見つめた。
九個の瞳に見つめられ、心臓が縮むような圧を感じる。
「来ます!」
慌ててバックスに合図を送る。
フラフラと宙を漂っていた蛇みたいな何かが一斉に、意志を持ってこちら目掛けて飛んでくる。
自分とバックスは各々のスキルを使って空中を移動し、襲いかかってくる空飛ぶ蛇を避ける。
蛇の直径は自分の拳よりも二回り以上に太く、一瞬か体を縮めてから高速で伸びて体当たりする変わった加速をしている。
見た目から想定できないスピード感で突っ込んでくる。
空飛ぶ蛇は自分に向かってきたので刀を抜いてなんとかいなし、その場から逃げる。
攻撃が直線的なので落ち着いて捌けばなんとかなるが、見る事ができず音だけ反応しているバックスの方が苦戦していた。
何度か蛇の体当たり攻撃がバックスを掠め、風の壁が発動し防いでいる。
今の所怪我は負っていないと思う。
無敵と思えるバックスだが自動で反応する風の壁は、一度に五つまでしか発動しないという弱点がある事を事前に教わっていた。
一つから二つを足場に使う事も多いので、手数の多い攻撃が苦手らしい。
うかうかしていると唯一の切り札と言えるバックスがやられてしまうかもしれない。
こちらを舐めているのか空飛ぶ蛇は半神に近づけまいと激しく攻撃してくるが、半神自身は微動だにしない。
皆で考えた作戦を実行したいが、蛇達が執拗に攻撃をしてくる。
「クライフ、やるぞ」
苦戦している自分を見て、バックスがディスタンスボイスで合図を送ってくれた。
バックスは左右二本ずつ指を口に軽く加え息を吹き込む。
事前に立てていた作戦通り、ヒューマンには聞こえない音使いのスキル「犬笛」を使った。
我々には聞こえないが、音に反応し全ての蛇がバックスの方に振り向く。
蛇達の視線が自分から外れその隙シークレットブーツ足場を積み上げ、上空から半神と七匹の蛇全体を捉えるよう高さまで登る事ができた。
紫色のバリキノコ染色液が入った瓶を三本取り出し、蓋を開け雨よけ(仮)を使って液体を薄く広げて蛇達や半神を含め全体に掛かるように紫色の液体をぶっかける。
正直元々紫色なのでちゃんとかかっているのかわからない。
ただこちらの不安をよそに、バックスは明らかに視認して蛇達の攻撃を避け、必要最低限の風の壁を使って召喚獣をいなし、着実に半神へ近づいている。
作戦の第一段階はクリアだ、後はバックスの攻撃が効く事を祈るだけだ。
クロロ流歩術の注意を集めるステップをシークレットブーツで行い、今度はバックスに向かっている蛇達こちらに意識が向くようにする。
四匹の蛇達を寄せる事ができた。
その隙にバックスは猛スピードで半神に近づき、半神に両手で触れる事ができた。
「レゾナントストライク」
巨人殺しが唱えたオリジナルの必殺技の声が届いた。
半神がブルっと体を揺らし、直後に紫色の液体を口から出しながら悲痛な叫び声をあげる。
巨人殺しの必殺技は半神に通じている。
バックスがすかさず追撃をしようとするが、初め半神は体を起こし逃亡しはじめた。
しかし半神が10メートル程移動したが、途中でよろけた。
同じ技を貰ったので気持ちはよくわかる、視界が歪む最悪の気分だろう。
バックスが追撃しようとした時に、狼特有の腹に響く遠吠えをした。
声による攻撃かと思って構えていたが、離れていた事もあってなんら効果はない。
ただの遠吠えかと思っていたが、視界の奥から何かが大量に移動している。
山の麓から毛むくじゃらの集団がやって来た、援軍を呼んだようだ。
「みんな、気をつけてブラウンシールドエイプの集団がやってきている」
異変を真っ先に察知したカイルが大声で皆に注意喚起をする。
麓から近づいてきた一匹のエイプにノーマが鋭い攻撃をする。
エイプは当たりそうになる瞬間にバク転をしながら綺麗に躱す。
今まで相手にしていたエイプとは明らかに動きが違う、見た事のない機敏な動きをしている。
「やるな、エテ公」
ノーマは楽しそうエイプと戦い始めた。
「みんな、気をつけて操られていないでしぃ」
「スランディーさんどういう事」
「瞳の色が違うでしぃ、彼らはキノコちゃんに操られていないでしぃ」
「森の管理人たる者達が自ら半神の下僕になったのか」
カイルの声には同情と侮蔑と織り混ざっているのがわかった。
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