第68話 薬も毒も使いよう
巨人殺しによって胃に入って物が全部なくなってしまったが、まだ気持ち悪くだらしなく地面に座り込む。
先程の戦闘を見守っていたロネが、やってきて膝の上に乗っかり心配そうに見上げていた。
膝に伝わる程よい重量感と、つぶらな瞳が癒やしをくれる。
「あれ、マスター、タヌキちゃんついてきたんですか」
「ああ、ロネは道案内を買ってくれたんだ」
「ロネちゃんって言うんですね、よろしくね」
そう言ってレベッカがロネを触ろうとすると、露骨に嫌がり唸り始めた。
もこもこの毛が逆立ちながら威嚇している。
「怒らないで仲良くしよう。
痛、何すんだこのヘボタヌキ」
強引にロネに触ろうとするレベッカにロネが飛びつき、短い手足で引っ掻き傷をレベッカにつけた。
「ロネ、落ち着いて」
まさか攻撃するとは思わず、慌ててロネをレベッカから引き離す。
何をそんなに嫌っているのか、神の眷属だからか一度死んだレベッカを嫌ったのかもしれない。
レベッカを神界に連れていかなったのは正解かもしれない。
フーフー言って気が立っているロネをモフって気持ちを落ち着かせる。
「下手な毒より、ポーションのほうが目に染みるのなんでだろうな?」
巨人殺しのバックスが目にタオルをあてながら近づいてきた。
「すみません」
「あーいい冒険者たる者、できる事は何でもやってみるべきだからね。
それにしても大したもんだ。
俺様に直接触れる冒険者なんてそんな多くないんだぞ。
クライフとノーマだっけ、これからは俺様の事バックスもしくは兄貴って呼んでいいぜ」
「えっと、遠慮しときます」
「そうか、まぁ気が変わったら遠慮しなくていいからな」
声のトーンが少し低い、どうやら巨人殺しは兄貴と呼ばれなかった事が残念のようだ。
申し訳ないが迂闊に兄貴なんて呼んだら、巨人殺しの舎弟みたいな称号をもらってしまうかもしれない。
「さっきの戦いでいくつか聞きたい事あるんだがいいか。
まずノーマあの煙はなんだ?
なんか踊っていたように見えたけど関係あるのか」
バックスを足止めしたあの煙の事か。
バックスの注意がそれたおかげでタックルをかませたが、あの煙はやはりノーマがやったのか。
「踊っていた?」
「クライフには見えなかったか、なんか独特のステップを踏んでいたよな」
「踊ってなんかいない、祈っていたんだ。
吐いた息に先祖の霊を宿していた」
ノーマは負けたのが悔しいのか面白くなさそうに説明している。
先祖の霊を息に宿す?
まるで聞いた事がない。
「ほぉ、リザードマンの中でシャーマンの素質が高いものは先祖の霊を体に宿すと聞いた事がある。
ノーマ君にもそのシャーマンの才能があったか」
リザードマンに造詣が深いショーンさんが、補足説明してくれた。
「クソトカゲなんでシャーマンの技を使える事言わなかったんだ」
「聞かれなかったからな」
「普通はもしかしてシャーマンなんですか?
なんていちいち聞くわけないでしょ」
「死人のお前が、普通を押し付けるな」
いつものごとくレベッカがノーマに突っかかって痴話喧嘩を始める。
しかしノーマの新たな一面を知る事ができた、シャーマンの能力と言っているがどのような事ができるのだろうか、精霊使いとしては興味がある。
「ふん、面白い奴らだな。
クライフはどうやったんだ」
「どうって、ポーションを」
「ポーションを操って目に入れたのはわかっている。
カイルからそういう液体を操る能力がある事は聞いていた。
俺様が聞きたいのはその後だ」
「後?」
「目が見えなくても、音使いだからな。
クライフが突っ込んでくる事はわかっていた。
風の壁を準備していたが、どうやって風の壁をすり抜けてタックルした?」
「すり抜けた?」
「その感じだと自覚なし、偶然風の壁の隙間に入ったのか?」
風の壁を準備していたのか偶然風の壁をすり抜けたのか。
運が良かった、高速で風の壁にぶつかったら大けがをしていたかもしれない。
「まぁいいや、少し休憩して買ってきたスロネ町名物の温泉卵がついてる温泉弁当でも食ったら神殺しにでも行こうぜ」
この後ピクニックにでも行くような軽いノリだ。
さすがA級の冒険者だ、精神の構造が自分みたいな小市民とは違う。
みんながレベッカの配っている弁当を食べ始めているが、まだご飯を食べる気にはなれなかったのでロネをモフらせてもらって気分を紛らわせよう。
「クライフさっきから何やっているんだ」
飯を食べながらバックスが質問してきた。
「何がですか?」
「何で空中で手を動かしているんだ」
「え?」
バックスが言っている意味がわからず思わず手を止める。
ロネがなんで止めるのかという目でこちらを見つめる。
「あちゃあ、やっぱりバックスにロネがは見えないのか」
「ロネ?」
どうやらカイルが指摘するようにバックスにはロネを見る事ができないようだ。
他のメンバーに確認した所、カイル、ノーマ、レベッカと自分はしっかり見る事ができる。
バックスだけなく、神域ではうっすらと見えていたショーンさん、スランディーも見えなくなったらしい。
「そっか半神が見えないのかもしれないのか、弱ったな、ある程度見えないとあれ効きが悪いんだよな」
「あれ?」
「俺様の唯一にして最大の必殺技『レゾナントストライク』だ。
さっきクライフもくらったろ」
腹に衝撃を食らったのがあれか。
「クライフ達には加減してやったけど、本気を出せばこれくらいできるよ」
バックスがそういうと弁当を食べるのを中断し、自分の倍はある大きな岩に近づき両手を触れると、岩が音を立てて一瞬で崩れていった。
「手から振動を加えて共鳴させて攻撃するんだ。
これで巨人を倒す事ができた、まともくらわす事ができれば半神とは言え無事では済まない、多分だけどな」
ためなしで、両手を添えるだけであの破壊力、さすが巨人殺しと言われるだけの力がある。
もし手加減してくれなかったら、自分もノーマもあの岩と同じようにバラバラになっていたかもしれない。
「ただこれは両手をちゃんと相手に当てて、相手の形や大きさに合わせて共鳴させないといけないから視認しないと難しいんだよな。
なんか、見えるようになる魔法の薬でもあればいいんだけど」
「バックス、そんな都合のいいものがあるわけ」
「あるでしぃよ」
カイルのツッコミを遮ったスランディーの方を振り向く。
「これを使えばいいでしぃ」
スランディーの手元には問題の発端になっている紫色のバリキノコがあった。
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