第66話 肉体的自己紹介
ノーマからの無茶振りに答えるべく巨人殺しを見つめる。
巨人殺しが浮いている高さま行くだけなら、シークレットブーツを使えば問題なくあがる事はできる。
「オレもやれる事をやってみる」
ノーマを槍をいつでも投げられる、姿勢で構えている。
覚悟を決めてシークレットブーツを発動し、巨人殺しと同じ高さまで土を盛る。
「それが噂の精霊魔法か面白いね」
巨人殺しが手を口元に当てデイスタンスボイスを使い、まるでそこにいるかのように声が届けてくる。
「意外と少ないんだよ、ヒューマンの身でこの高さまで来れるのは、じゃあこれはどうかな?」
直後に耳元で音が爆発する、音から逃げるように頭を下げ距離を空ける。
「すごいだろ、ディスタンスボイスの応用だ、攻撃力は低いけど、嫌がらせとしては中々優秀だろ」
音使いの能力を駆使して、信じられない爆音を送ってくる。
「ジャンジャン行くぞ」
巨人殺しがそう言うと続けて爆音が襲ってくる。
シークレットブーツを使って上空を逃げていたが、続け様に爆音を喰らう。
慌ててシークレットブーツを解除して森の中へ逃げた。
巨人殺しの爆音の攻撃は見えない上、詠唱を必要としないので非常に厄介だ。
木の裏に隠れて作戦を考える。
ただ自分は遠距離攻撃が殆どないので、森の中でインザダークネスを使って奇襲するぐらいしか手段がない。
「隠れても、無駄だよ」
そう思っていた時に巨人殺しの声が耳元でし、直後に耳に大きな音が襲う。
「忘れた?
俺様は最弱名高い音使い様だぜ。
いくら隠れるのが上手でも俺様から逃げられないぜ。
直接見えなくても、音を届けるなんて朝飯前だ」
慌ててシークレットブーツを使い、その場から逃げる。
そうだった、音使いなら姿を隠しても、ちょとした音で居場所がバレてしまう。
森の中を走り回って考える、ただ幸い森の中の木等の何か遮蔽するものがあれば爆音の威力は小さくなっている。
問題は巨人殺しがいる場所が森の上空で、遮蔽物が一切無いという事だ。
何か遮る壁みたいな物のがあればいいのだけど……
壁?
ある考えを思いついてしまい、試した事はないがぶっつけ本番でやってみる。
ほんの少しだけ角度をつけて巨人殺しがいる上空へ、シークレットブーツを発動する。
そして巨人殺しに攻撃される前に、自分が出したシークレットブーツの裏に隠れるように、自分が出した土の塊を新たな足場として、もう一度シークレットブーツ発動してみる。
無事シークレットブーツは発動し、自分の作ったシークレットブーツにへばり付く事ができた。
最初に出したシークレットブーツが壁になり、巨人殺しの攻撃の直撃から逃れる事できた。
一度盛った土にもう一度土を盛る事ができた。
二段盛りとでも言うべきか。
これにより壁を得るだけでなく、基本的に下から上へ方向にしかシークレットブーツを発動できなかったが、上から下方向、真横等、進む方向のバリエーションが増えた。
ただし、シークレットブーツで出来た壁は非常にもろく、巨人殺しの爆音攻撃を食らうとすぐに崩れ、それがなくても時間がたつと風化してしまう。
一応壁らしき物もできたし、的を絞らせないようになったけども、この移動方は滅茶苦茶怖い。
常にいつ足場が崩れてしまうか分からず、仮に足場が安定していても下への高速移動は地面に向かって加速する為、目測を間違えたら即自爆してしまう。
「おもしれ、初めて見たぜそんな動きをするヒューマン」
こちらの気持ちも知らずに、巨人殺しは楽しそうに攻撃してくる。
新たな変則移動を得たが、徐々に巨人殺しに行動を読み取られ初め、何度も爆音が直撃する。
もっと早く動かなくてはと思った時、視界の流れる景色がわずかにだか確実に加速した。
「さらに早くなれるのね、スピードだけならもう俺より速いな」
最初は気のせいだと思ったが、巨人殺しも言うなら間違いないだろう。
今まで限界と思っていたスピードより、速く移動できている。
マックスのスピードはそこまで変わっていないので、より加速しやすくなったというのが正解なのかもしれない。
視線の端で風の精霊の爽が、一生懸命魔力を発している。
恐らくスピードアップ系のスキルをゲットしたのだろう。
検証している時間はないので、とりあえず新しくゲットした風のスキルスピードアップ(仮)と名付けた。
新しく取得したスキル使う事によってより緩急をつける事ができるようになり、変則に変速を加えて、巨人殺しの攻撃も直撃しなくなってきた。
たださすがはA級ランカーの巨人殺しは空を駆けながら、絶妙に距離をキープし続け近づく事を許さなかった。
このままだと、どちらが先に魔力を使い切るかの根比べになってしまう。
新しいスキルを手に入れたばかりで検証も出来ていないし、自滅のリスクが高い移動方をしている自分の方が、圧倒的に分が悪い。
何とか短期決戦に餅粉みたい、突破口は何かないか。
そう分析していた時、反撃できる好機は唐突にやってきた。
いやらしい笑みを浮かべながら、常に移動し続けていた巨人殺しの動きが突然止まった。
遠目のスキルで確認すると、何やら白いモヤが巨人殺しの足にまとわりついている。
よくわからないがチャンスだ。
シークレットブーツを二段盛りで発動し、来た事のない高さまで登り、足元を見ている巨人殺しの死角になる真上、しかも太陽と重なる位置までこれた。
そして腰に差してある三本の鉈を連続で投げる。
死角から迫ってくる鉈が巨人殺しにぶつかる前に、風の壁で弾かれる。
「お、危な。
残念だったな、風の壁はある程度攻撃力あると、自動的に反応してくれるからね」
いつの間にか巨人殺しは煙を切り離し、こちらを見つめている。
巨人殺しの手が口元に向かっていく中、ふとある疑問が湧いた。
なんで煙は巨人殺しの足を掴めた?
ある程度の攻撃力があれば自動で反応する?
じゃあ攻撃力が無ければ……。
ポシェットに手をやり液体の入った瓶を巨人殺しに向かって投げつけた。
巨人殺しに当たる事なく、かなり手前で風の壁にぶつかった。
「ポーション?」
巨人殺しが予定通り、ポーションの入った瓶を壊してくれた。
すかさず水の精霊の滴を使って雨よけ(仮)のスキルで、ポーションを操り巨人殺しの目に向けて移動させた。
スピードは大して速くないが、巨人殺しもまさかポーションが襲ってくるとは思わなかったらしく、もろに目に入れる事ができた。
その隙に手に入れたばかりの風のスキルを発動し、上空から最大限加速してタックルをかます事ができた。
「おっ!」
初めて聞いた巨人殺しの驚いた声を聞きながら、勢いそのまま二人で落下していく。
この程度の高さなら巨人殺しをクッションがわりにすれば、あざを作る程度で済むだろう。
地面にぶつかる直前に腹に衝撃が走り、強く掴んでいた巨人殺しを手放してしまった。
ろくに受け身も取れず地面に肩から思いっきり落ちてしまった。
肩も痛かった、腹にくらった衝撃が時間差で体全体を襲っている。
何とか立ちあがろうとしたが、目眩が起き、胃に入っていた物が逆流し、四つん這いになって吐いてしまった。
体中痛い上に考えが纏まらない。
二日酔いと、食中毒と、季節風邪を煮詰めたかのような気持ち悪さだ。
「大丈夫かね」
ショーンさんが心配して近づき、自分の背中を摩りながら回復魔法を詠唱してくれてた。
「す……すみません」
回復魔法をかけてくれたが、気を抜くと再度吐きそうになってしまう。
ブレブレの視界で、先程まで戦っていた巨人殺しを見つめる。
どうやらノーマとの決着もついたようで、自分と同じくうずくまりながら吐いている。
「ちくしょう、次は負けないからな」
ノーマは苦しそうな顔をしながら、早くもリベンジを誓っている。
こんなにコテンパンにやられているのに負けん気が強いのは実に頼もしいが、リベンジする時は是非自分がいない場所でやって欲しいと切実に思った。
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