第65話 最弱職の巨人殺し


「ちょっと待って確かにバックスならいけるかもしれないけど、彼らはまだD級。

 いくら何でもこれはCランク試験の範疇を優に超えてるよ」


 すかさず真のリーダーたるカイルが、ちゃんと巨人殺しの無茶振りにクレームをいれてくれた。

心の中で全力でカイルを応援する。


「そっか、いけると思うけどな」


「嫌、無理だって」


「大丈夫だよ、相変わらず心配性だな、だから禿げるんだぞ」


「は、禿げてねぇし」


「確かカイルの言う通りこいつらにメリットがないか。

 じゃあこの任務に協力してくれたら、B級に推薦してやってもいいぞ」


「ちょっとそう言う事じゃないし、というかいい加減事を言わないの」


「いい加減じゃあねぇよ、A級冒険者はB級に推薦する事できるの、知っているだろ。カイルをB級に推薦したのも俺だし」


「そうだけど」


 カイルとバックスが絶妙に合わない会話をしているが、終始バックスに押し切られている。


「よくわかんないけど、乗ったぜ」


「おお、いいね。

 リザードマン君はやる気だね、他はどう?」


「フェリス様のご依頼じゃ、元より断るつもりはない」


「右に同じくでしぃ」


「じゃ決まりですね、マスター頑張りましょう!」


 え、嘘でしょ。

 何故か皆続々と参戦を表明して、なし崩し的に神殺しメンバーに選ばれてしまった。


「決まりだね、大丈夫このメンバーならきっと半神を倒せるよ」


「神殺しに行くのはいいが、お前は大丈夫か?」


 ノーマが唐突の質問に皆が固まる。


「うん? 

 どういう意味」


「だからお前ハズレ職だろ」


「ちょっと何を言っているの」


 慌てて失礼な事を言っているのを止める。


「クライフ、これから神を殺しに行くんだぞ、実力のないやつには命を預けられねぇ」


「実力がないって、Aランクの巨人殺しだよ」


「そんなのは知らねぇ、オレは見ていない」


 一切物怖じせず、あまりの毅然とした態度に言葉を失う。


「精霊使い君、リザードマン君の言っている事は正しいよ。

 Aランクだから、巨人を殺しと言われるだけでは実力があるとは限らない。

 久しぶりだな、音使いだからと侮られるのは」


 巨人殺しは怒るどころか、Dランク冒険者の舐めた発言にも実に嬉しそうにしている。


「よしリザードマン君お互い自己紹介をしよう。

 武器を構えな、存分に俺の実力を確かめてくれ。

 ハンデとして精霊使い君も参加ね」


「いえ、自分は決してあなたの実力を決して疑っていません」


「俺が見たいんだよ、神殿騎士なら大体の実力を想像できるし、レベッカは暇だったから手合わせしたから、実力がわからないのは君達二人だけだ」


「え、レベッカ手合わせしたの?」


「はい、暇だったんで。バックスの兄貴にたくさん見て貰いました。

 マスターも頑張ってください」


「頑張るでしぃ、回復魔法の使い手が二人もいるから、思い切ってやるでしぃ」


「そうじゃな、何事も経験だ。思い切って行きなさい」


 止める事なく、逆に神殿騎士達に背中を押されてしまった。


「クライフ、やるぞ」


 今まで見た事がない程、ノーマの目がらんらんと輝いているように見える。

 巨人殺しが実力がないかもなんて、もう疑ってないだろ。


 残ったカイルに救いを求めようと見てみたが、疲れ切った目で小さく首を振ってもう諦めろと言っている。


 もう味方はいない、大きなため息を吐いて刀を抜いた。


 まさかD級の自分がA級冒険者と手合わせする羽目になるとは思わなかった。


「じゃあ改めて自己紹介といこう、大丈夫ちゃんと手加減はしてあげるから、君達は殺す気でかかってきな」


 巨人殺しは初めて見た時と同じで、素足に武具を持たない手ぶらスタイルで半身になり、オーソドックスな武道家のファイティングポーズを構えた。


 武器を使わないスタイルなのか、それともこちらを舐めて武器を使わないのか。


 自分が疑問に思っている中、ノーマは遠慮なく巨人殺しの挑発にのり即座に動き出した。

 ノーマの巨体から想像できない高速で距離を詰め、直前に歩幅を広げ転ぶように、前に倒れ込みながら下から上に鋭い突きをつく。

 二回り以上大きなリザードマンからの、下からの変則攻撃で当たると思った瞬間、巨人殺しが軽く手を動かし槍を叩く。


 ノーマは気にせず弾かれた槍を振り下ろすが、同じく槍が逸れる。


 もう一度攻撃するが今度は当たるずいぶん前に、何かに引っ掛かったように弾かれる。

 当たらないとか効かないのではなく、槍を振り切る事もできない。


「おお恐ろしく獰猛だな、本当にD級か」


「クライフ気をつけろ、なんかあるぞ」


 ノーマも不気味な何かを警戒し、一度巨人殺しと距離を空けた。


「ふふふ、では種ばらしをしよう。

 リザードマン君の攻撃を弾いたのはこれだ」


 巨人殺しが何もない所を叩くと、コンコンと硬い物とぶつかる音が聞こえた。


「これはね、『風の壁』というスキルだよ。

 素早く移動し時に感じる、空気の壁というか抵抗ってあるだろ、その空気の層をギュッと圧縮してさっきみたいに攻撃を弾くスキルだ。

 防御だけでなくこうやって、空間に固定して空を歩く事もできる」 


 そういうと巨人殺しが一段一段と、見えない階段があるように空中へ登りはじめあっという間に上空から見下ろしている。


「このスキルのおかげで、ハズレ職と言われる俺様が、最強を名乗る事ができたんだよ。

 風の壁を作る事ができるようになってからは、今みたいに攻撃を弾く事もできるし、攻撃も」


「おら」


 ノーマは気持ち良さそうに上空で自慢をしている巨人殺し目掛けて、槍を投げた。


「リザードマン君、相手が自分の手の内を話している時は、攻撃しないのがマナーだよ」


「クライフ、オレじゃあいつに届かない、あいつを地面に落としてくれ」


 巨人殺しの文句を一切耳に入れず、弾かれた槍を拾いながら、とんでもないお願い事をしてきた。


「え、まじで?」


 A級を一人で相手にするのか、ただノーマが何も疑っていない真っ直ぐな目でこちらを見つめてくる。


「わかったよ、約束できないけどやれるだけやってみるよ」

 

 残念ながらノーマの一方的な信頼に、応えないわけにはいかないみたいだ。


 

 しかし、えらい事になってきた。確か今受けているのは普通のC級試験のに、どこから道を踏み間違えてしまったのだろうか。

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