第63話 閑話 兄貴肌のホビット族 カイル
「意外と面倒見がいいね」と言われる事が多い。
色々アドバイスとかしてしまうと見た目が10歳前後で止まっているギャップからか、そんな事をよく言われてしまう。
褒め言葉で言ってくれているのはわかっているが、そんな言葉を言われる度にうんざりとした気持ちがこみ上げる。
好きでやっているわけではない、若人があたふたしているのを見ると昔の自分を見ているようで、いてもたってもいられなくなって色々あれこれ言ってしまう。
そのせいで色々厄介な事に巻き込まれる事も少なくなく、いつも助け舟を出した後に、何故我慢してほって置かなかったのだろうと後悔してしまう。
本当はこんな風になりたかったわけではない。
本能なのか習慣なのか、種族的に一定の地に居座る事ないホビット族の中でも、特にうちの親は放浪癖が強かった。
小さかった頃は旅にも一緒に連れて貰ったが、物心覚える頃になると五つ離れた妹を残して二人して数ヶ月から半年ぐらいかけてどっかに行ってしまった。
自然と兄としてしっかりしないといけないと思い、妹の面倒を必死で見ていた。
ヒューマンだったら親がいない状態でいる事に同情して親切にしてくれる事も、もしくは悪い事を考える人もいるだろうが、良くも悪くもどちらもなかった。
ヒューマンにとってはある程度育った僕と、クソッタレな親はどちらが年上か分からないらしい。近所のおっちゃんも結局親の事を最後まで兄弟だと思っていたらしい。
そんな放任主義な親は僕が十三になり自分の事はある程度できるようなると、晴れて正式にという感じで完全に放浪してしまい戻らなくなってしまった。
幸いマイペースな妹は父や母がいなくてもあまり寂しいという事を感じないのが、せめてもの救いだった。
妹の為に出来る事はなんでもやった、時には人を騙すような犯罪まがいな後ろ暗い事もしたし、権力者に気に入られる為に人を蹴落としたりもした。
思い出したくないような事も色々あったが、頑張ったかいあって妹はすくすく成長してくれた。
ただその妹がある日何も言わずに「旅に出ます、今までお疲れ様」と一行だけ書いた紙を置いてどこかに旅立ってしまった。
どうやら妹は父と母の血を強く受け継いだらしい。
そのメモを読んだ時は、両親に置いて行かれた時以上にショックで膝から崩れてしまい、しばらく動けなくなってしまった。
傷ついた僕はある決意を固めた。
「誰よりも自分本位に生きてやる」
両親や妹以上に我が儘に生きてやろうと強く自分に誓った。
そこでまず住んでいた街を離れて、自由の象徴と言われる冒険者をやりながら、住まいを持たず、家庭を持たず、全ての責任を持たずに誰よりも好き勝手に生きる事にした。
ホビットは種族的に鍛えても力が付きにくいので、自然と後衛の魔術師かシーフになるぐらいしか選択肢がなかった。
調べた所、魔術師の素質もそれなりにあったようだが、一人旅をするならシーフの方が何かと便利そうなのでシーフになった。
実力をつけるまでと最初に適当に組んだパーティが思いの外うまく行き、あれこれ依頼をこなしてゆく内にいつの間にかBランクになっていた。
そしてパーティーの人数も増えクランを立ち上げなければならない程に、大きくなってしまった。
クランは五〜六人程度で組むパーティーが複数いる連合の事だ。
人数が三十人以上、Bランク人数が十人以上等条件が厳しいが冒険者ギルトに届けを出すと報酬が増え、優先的に依頼を回してくれたり指名を貰いやすかったり、未公開の情報を貰えたり、一部税金を控除できたり様々な特典がある。
クランを作らなくてはいけない程、人数が爆発的に増えた原因はバックスのせいだ。
あいつが勝手に受けた依頼の天への玄関と言われる、ジュローグ山脈から迷い込んできた巨人達を討伐してしまった。
一躍巨人殺しのバックスの名前は知れ渡り、ジャイアントストライカーズという何のひねりもないクランを立ち上げた。
人数が多くなるというのは様々な依頼に対応できるという大きなメリットがある。
何か一点に秀でた冒険者達を依頼事に組み合わせれば、想定以上に力を発揮してくれる。
ただ人が増えるという事はそれと同じぐらい、色々な揉め事が多くなってしまうというデメリットも生じた。
何故か揉め事があると古株だという理由だけで、子供の見た目の僕に解決を求める声が多くなった。
本当は団長であるバックスがやるべきなのだけれど、あいつは問題を楽しむ気質の為、関わると余計に問題が大きくなる事が多く基本的には何もさせなかった。
「だからパーティー内で恋愛は禁止だって言っただろ」
「金を貸す相手はちゃんと選びな」
「なんで荷物の確認をしなかったの」
「依頼の内容は全員読む決まりでしょ」
毎日のように相談する人が現れて、あちらこちらに走って喧嘩の仲裁をするはめになった。
そしてある朝ベットメイキングをしていると枕の上に大量の毛が落ちていた。
慌てて病院で見てもらった所、ストレス性の円形脱毛症だそうだ。
病気でない事を知って安心する気持ちと同時に、何故ここまで頑張っているのだろうかという疑問が湧いてきた。
今の疲れ切っているこの姿は、果たして目指した自分本位に生きる姿だろうかと。
そこで年を言い訳に引退する事にした。
まだ動けるが、見た目が変わらないのをいい事に実もう初老だと嘘をついた。
副長のナターシャを中心に引き止める声があったが、なんとか言いくるめてジャイアントストライカーズを抜けられた。
使う機会が少なかった為、貯金もそれなりにある。
簡単な依頼を行いながら、時には子供のふりをしながら楽しく一人旅を始めた。
全ての責任から解放され髪も元に戻り満喫した生活をしている。
「今回も頼むぞ」
顔馴染みのスロネの冒険者ギルト員のエリカが依頼書を渡してきた。
「任せて、いつも通りバッチリ査定するよ」
ソロで活動するようになってから、毎年指名依頼でCランク試験の試験官の仕事を貰うようになった。
子供のふりをして、あれこれ聞いたりしながら若人を査定していく。
完璧にこちらを侮っていて、正体を教える時の驚いた顔を見るのが好きで毎年楽しみにしている。
今年はバックス達ジャイアントストライカーズが絡んでいるらしいのが若干心配であるが、いくらなんでもC級試験でそこまで大きな問題が起きる事がないだろう。
「今年は面白そうなのいるの?」
「そうだな、一人面白そうなのがいるよ。
ジュゼットさんのお気に入りだ」
「嘘!」
「本当、あたいも最初はびっくりしたよ。
ほらちょうどあそこで話している青年だ」
そう言って指差す方を見ると、ジュゼットさんが青年と話をしている。
確かに、よくみて見るとジュゼットさんの険しい顔の目尻がいつもよりわずかに下がっているように見える。
ジュゼットさんと言えばこの街に限らず、ある程度冒険者をやっていれば知る実力者だ。
元凄腕の冒険家というだけでなく、ギルト員になってからも様々な問題を解決したり、凄腕の冒険者を発掘したりした伝説の人だ。
基本的に人と関わりを持たないタイプと持っていたがお気に入りがいるというのは初めて聞いたこあもしれない。
その伝説の人のお気に入りか、興味を持つなという方が難しい。
「そっか、楽しみだね」
次の試験のターゲットが決まった。
きっと面白い事になるはずだ。
この時の決断を後悔する事になったのは、もう少し後の話である。
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