第59話(続)扱いに困るスキル
羨ましがられて以降、コレークの神殿騎士はモンスターの死骸の分析に夢中で特に何も言ってこない。
どこからか持ってきた実験器具で、野外にも関わらず実験をしている。
何かあってもすぐに駆けつけられ、かつ声をかけられない絶妙な距離を取りながら、コレークの神殿騎士を見つめる。
昔からコレークの神殿騎士への苦手意識がまだ拭えていない。
コレークの孤児院で育ったおかげで変な格好の神殿騎士がよくやってきた。
中には比較的マシな人や恩人と言っていい人もいたが、本当に理解に苦しむような神殿騎士も多く、慣れる事もなく小さい頃からできる限り距離をとっていた。
見た感じスランディーさんは、格好だけ奇抜な比較的マシな方だと思う。
「あれ、雨でしぃね」
時間が過ぎるのを待っていると、雨が額に当たった。
最初はパラパラと降っていたが、徐々に音を立てて急激に強くなっていく。
ここは山の上という事もあって天気が変わりやすいとは聞いていたが、先程まで雲一つ無かった。
ここまで急激に変わるとは思わなかった。
実験器具が濡れないようにしている、コレークの騎士を自分も手伝う。
あの器具一つで、下手したら自分の年収よりも高いものもあるかもしれない。
どこを持てばいいのかわからにような、繊細そうな変わった形状の器具に、どうしてもまごついてしまう。
二人で慌ただしく片付けていると、突然雨に当たらなくなった。
コレークの神殿騎士と共に天を仰ぐ。
雨が止んでいるわけではない、相変わらずすぐ隣ではどす黒い雲から雨がザーザー音を立てて降り続いているが何故か自分達に雨があたらない。
「どういう事でしぃか、まるで雨が避けているみたいでしぃね。
何をしたんですかクライフっち」
「え、自分なの」
何故かコレークの騎士の中で、自分がやっているのが確定している。
周りを伺うと水の精霊の滴が一生懸命魔力を発していった。
「水の精霊が、新しいスキルを発動しているみたいです」
「精霊でしぃか、すごいスキルでしぃね!」
「すごいスキルですか?」
よくわかっていないが、雨に当たらないというかなり地味なスキルじゃないかと思う。
「クライフっちは事の重大さがわかってないでしぃね。
天候というのはどんな冒険者や魔法使い、王様だってコントロールできないものでしぃよ。
それを一部とはいえ、コントロールしているなんて本当にすごい事でしぃ」
「そうなんですか?」
「そうでしぃ、雨季の時にどれだけの農家の人が苦労しているか。
クライフっちは土壌を耕すスキルといい、もう農家の憧れの的でしぃ」
「いや農家に憧れられましても」
よくわからないが、雨を避けられるスキルをゲットしたようだ。
試しにイメージしながら雨をコントロールしてみる。
自分を中心として、雨がそれている。
微妙なスキルかもと思っていたが、考え方によって中々いいスキルなのかも知れない。
雨が降ると視界が悪くなるし、荷物は重くなり、武器は滑りやすくなる。
今後は天候をあまり気にしなくていいのは、アドバンテージになるかもしれない。
自分の周りを漂っている精霊を見つめる。
火、風、闇もスキルを取得できたのだろうか?
土と水のスキルが取得できたのは比較的よく使っているからなのかもしれない。
シショーがいないのでわからない。
今まで取得した地味なものではなく、もっと派手な技をすでに覚えているかもしれない。
少しだけ精霊達に期待してしまう。
水の新たなスキルはとりあえず雨よけ(仮)と名付けた。
何故かコレークの騎士も検証を手伝ってくれて、雨よけ(仮)は雨以外にも液体であれば移動できる事が判明した。
ただゆっくりとしか移動できず、液体をゆっくり動かすか雨を避けるみたいに水の流れの方向性を少し変える事しかできないので攻撃の手段としては使えそうにない。
「ちょうどいいでしぃ、そこの溶媒の液体だけこっちのフラスコに移動して欲しいでしぃ」
雨がすぐに止み、晴れて木の下に隠した実験器具を元の場所に戻した際、何故か練習がてら実験の手伝いをする事になった。
スポンサーの機嫌を損ねるのはまずいので、言われるがまま実験を手伝う事にした。
何をやっているかは全くわからないが、言われる通り指示に従う。
ただスポンサーの指示ははスキルの練習にはちょうど良かった。
途中からコツを掴み、フラスコからフラスコに液体を運ぶぐらいなら問題なくできるようになった。
実験が捗ると神殿騎士に感謝された。
「よし今日はここまでにしよう、お疲れ様」
日が落ち始めた頃に皆が戻ってきた。
「じゃあ宿に泊まって明日も頑張ろう」
カイルが真のリーダーらしく、皆の成績を確認した後解散を伝える。
ノーマやショーンさんも疲れた顔をしている、特に雨に打たれて泥だらけになっていて皆早く風呂に入りたそうにしている。
それなのに自分は気苦労はあったかもしれないが雨にもあたらず、全く体力が余っている。
「カイル、あの自分はこれでいいの?」
「何が?」
カイルがあざとく首をかしげる。
いや、自分より年上だという事を知っているのだから、そういうのを辞めて欲しい。
「いや、みんな頑張っているのに、何もしていないんだけど」
「何言ってんだよ、クライフのおかげでここまで多く狩る事ができたんじゃん」
「おかげ?」
「僕達リーダー役に言われているのは、最低30体、目標50体と言われていたけど、今日は83体も狩れたのはひとえにクライフのおかげだよ」
「ただモンスターを処理しただけですよ?」
「クライフ君、想像してみて欲しい、もし83体分のモンスターを埋める為の土を掘り起こして、そしてそれを埋めるとなると大変だよ」
「そうでしぃ、クライフっちのおかげで雨が降ってきても研究もしっかりできたおかげで、かなり研究が進んだしぃ」
カイルだけでなく、二人の神殿騎士に説得されてしまった。
「おい、早く帰るんじゃないのか!」
「マスター、トカゲの言う通り早く帰りましょ」
自分が一人楽をしていると咎める人は誰もいない。
結局次の日もそして次の日も同じようにただモンスター処理と実験の手伝いに専念する事になってしまった。
本当にこんな楽をしていて試験を合格できるのだろうか、不安な気持ちと皆に申し訳ない罪悪感が湧きながら、夜を過ごす日が続いた。
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