第58話 扱いに困るスキル
山の景色という本当によく変わり、様々な雲が現れては消えていく。
そんな変わる景色を暇な時間を、試験中にも関わらず、ボーッと誰かやってくるまでただ眺めていた。
C急試験は時には死者も出る程苛烈と聞いていたが、こんなにも暇になってしまうなんて夢にも思わなかった。
「おい、んかおかしくないか?」
暇になったのはノーマのこの指摘から始まった。
「え?」
シャベルで掘っている手を止める。
山に入ってすぐに出会った菌に犯されたモンスターはゴブリン、コボルトが多く時たま自分より少しだけ大きな全身茶色の毛色のエイプという猿型のモンスターだ。
とにかく数が多く、倒しても次々とどこからか湧いてくる。
目の焦点があっていない、足取りが定かでないモンスターの群れは滅茶苦茶不気味だ。
ただどれも動きが単純で鈍くたいして強くない。
どちらかというと倒すよりも、その後の処理に時間がかかった。
コレークの神殿騎士曰く今回のキノコ狩りは倒す事よりも、これ以上増やさないようにしっかり処理する方が大事だと言っていた。
キノコの菌は火に弱いらしいので、死骸を焼いてその後地面に埋めればそれ以上繁殖する心配はないとの事だ。
その穴を掘っている時にノーマが手を止めて地面を見つめていた。
ノーマの視線の先には倒したモンスターを焼いて重ねて置いてたが、確かにおかしな現象が起きている。
死骸の山が徐々に低くなっている。
「皆さん、離れてください」
真のリーダーであるカイルの指示通り、慌てて死骸から距離を取って刀に手をかざす。
張り詰めた空気が流れる。
「大丈夫ですよ。
ね、マスター」
皆が警戒している中、レベッカがツカツカと平然と死体の山へ近づき上から覗く。
「え、何で?」
「何でって、マスターの土の精霊がやっているんでしょ?」
慌てて土の精霊の硬を見ると、一生懸命魔力を放っていた。
「本当だ、新しいスキルと言う事?」
土の精霊の硬が覚えているスキルは足の裏から土を盛る事ができるシークレットブーツだが、目の前で起きている現象とは明らかに違う。
「わかんないけど、そうなんじゃないですか?」
「あれ、レベッカ精霊見えるの?」
「はい、死んだ直後はなんとなくでしたけど、今はくっきり見えます」
いつの間にかレベッカが精霊を見えるようなった。
そう言えばシショーも最初は見えなかったけれど、今では普通に見えていたし、テイムした影響で見えるようになるのかな。
「おい、クライフどうなってんだ」
レベッカと話が脱線したのをノーマが咎めてくる。
「ごめん、どうやら新しく取得したスキルを、精霊が勝手に発動したみたいです」
「クライフ、大丈夫なんだね」
「多分ですけど、大丈夫です」
カイルが再確認し、各々武器をしまった。
いつの間にかモンスターの死骸は、もうほとんどなくなっていた。
「クライフ君、どんなスキルなのかな?」
「それは……何でしょう、死体を処理するスキルとかですかね」
ショーンさんの質問に当てず方で答えてみた。
「マジですかマスター絶対、絶対にボクに向けて発動しないでね」
レベッカが慌てて死体の山から遠ざかる。
「多分違うでしぃよ」
死体の山があった土をコレークの神殿騎士が触り始めた。
「どうやら土を耕すスキルみたいでしぃね」
「はぁ?」
コレークの神殿騎士が皆にわかるように土を持ち上げ、手を放つときめの細かい土が落ちていく。
「ほぉ確かに見事だね、いい土壌じゃな」
「ふわふわしていますね」
ショーンさんとレベッカも土を触って褒める。
「見事でしね、土にしっかりと空気が入ったいい土壌でしぃ。
どうでしぃか、もしよければ冒険者を辞めて、私の実家で大豆畑の土壌を管理してみないでしぃか?」
コレークの神殿騎士に至っては何故か農家としてスカウトしてきた。
「いや農家には興味ないです」
「そうなんでしぃか、残念でしぃ」
「クライフ、なんでそんなスキルを手に入れたんだ」
「いやノーマ、どんなスキルを手に入れるかはこっちはコントロールできないんだよ」
精霊のスキルはこちらが望んだものが手に入らず、各精霊が勝手にスキルを学んでいく。
本当は精霊使いが初期に覚えるバレットみたいな遠距離攻撃が欲しい。
「なんだそれ、本当にヒューマンはよくわかんないな」
「トカゲ、それは違います。
マスターを、普通のヒューマンなんかと一緒にしちゃいけません」
「ああ、確かに」
ノーマが納得すると皆が笑い出した。
「クライフこれ、使えるかも」
皆が笑っている中、カイルが土を触りながら一人真剣な顔をしていた。
カイルの言われた通り、適当なモンスターを狩って実験した所、新しいスキルはモンスターの死体を処理するのに最適なスキルだという事が判明した。
モンスターの死体はできる限り燃やして、土に掘って戻すのが討伐した後のマナーと言われている。
それをしないと他のモンスターの餌になったり、変な病気が流行ったり、最悪の場合アンデットとして復活してしまう。
この処理は地味に時間がかかるので、便利なスキルをゲットしたと言ってもいいのかもしれない。
「よし、みんなの実力なら、バラバラで行動して狩った方が効率が良さそうだね。
僕とショーンさんとノーマとレベッカの四人で別々で狩りをして、ここへ死体を持ってこよう」
カイルの発言に三人が無言で頷く。
「スラディーさんはキノコの研究を好きなだけやって、ただ焼却処理を手伝ってもらえると助かるな」
「わかったでしぃ」
「クライフはスラディーさんの警護と、モンスターの処理をよろしくね」
「わ、わかりました」
「では頑張ってくるでしぃ」
コレークの神殿騎士と共に皆がモンスターの死骸を持ってくるのをただ待つ。
生きている人には恐らく移らないと言われているが、直接手で触らないようにギルドが用意した雑な作りの台車を使って死体を持ってきて貰う。
ある程度穴の中モンスターの山が貯まったら、奇抜な神殿騎士にリトルファイヤーで燃やしてもらう。
火が完全に消えたのを確認し、新しいスキルを発動する。
あの奇抜な神殿騎士ですらモンスターの死骸を解剖したり、何かサンプルを保管したりしながら忙しそうに作業をしているのに、護衛という名目でただと突っ立っているだけだ。
皆が汗水垂らしている中、こんなに楽をしていいのだろうか?
新しいスキルは魔力の消費も少なく、全く疲れない。
本当にこれで良いのだろうかあまりにも暇だったので疲れない程度に、新しく取得したスキルの練習や分析をしていた。
色々と試してみたが地面に手をかざして埋まっている土がぐるぐると回るイメージすると魔力がよく通りよく混ざっている気がする。
シショーがいないので、スキル名がわからないがとりあえず土起こし(仮)と名付けた。
多少離れていても効果があるようで、目に見える範囲であればどこでもできそうだ。
そして直接地面に触って、唱えた方が早く土が耕されている気がする。
「クライフっちはいつから精霊を使えるようになったの?」
スキルの練習に夢中になっていると、神殿騎士から呼ばれた事のない名称で呼ばれてしまった。
「えっと、最近です」
「へぇー、それ私にも教える事できるでしぃかぁ?」
「多分無理だと思います」
シショーに鑑定してもらわないと断定できないが、シショーは今まで色々な人を鑑定したきたけれど、未だに精霊使いになれそうな人は見たことがないと言っていた。
「そうでしか。
いいでしぃね、生まれ持って変わっている人は」
「はぁ」
貴族かつ神殿騎士、ゴールド認定、スポンサーという名誉も地位も金もある人に羨ましがられる物なんてないはずだ。
やはりコレークの神殿騎士の思考回路は理解できないと改め認識した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます