第12話変なスキル ( 8/31公開)
『次はレベル5ね』
「はぁ、はぁ、はい」
スライムを背負い息を切らしながら、日が出る前の一番寒い時間帯をひたすら走る。
ごく一部の働いている人達に見つからないようにコソコソと走る。
見つかると泥棒か何かだと勘違いされかねない、人の気配がないか窺いながら走る。
おっかなびっくり走っているので余計に怪しく見えるかもしれない。
別に何か悪い事をしている訳ではない。
何故こんな早朝から怪しい事をしているかと言うと、原因は絶好調だった精霊にある。
『お、レベルアップしたね、おめでとう!』
モンスターを狩っていると、シショーがいつものごとくヘンテコな事を言い出した。
「レベルアップって何の事ですか?」
最近はシショーワードが出てきても、スルーしていいのかどうかわかるようになり、ストレスなく普通に会話する事ができるようになった。
レベルが上がったという事は、何かしらが上達したと言う事なのだろう。
『え、何のってクライフの、というか自分のレベルを知らないの?』
自分のレベル?
そういえばギルドのスタッフが他の冒険者に「レベルの低い人にはまだこの案件は紹介できない」とか言ったのを聞いた気がする。
『レベルとはなんて言えばいいのかな?
戦闘力とか生命力の基準となる物かな、普通に暮らしている人は高くてもレベル10ぐらいで、冒険者だと12~20ぐらいの間が多そう。
ちなみにクライフはレベル18→19になりました。パチパチ』
口(思念)でいいながら両手を作って叩いている。
「レベルが上がったといわれても、あまり実感がないですけど?」
『今回は力が+1、素早さが+1、賢さ+2、器用さ+1だよ』
「力+1?」
具体的すぎて逆にわからない、特に力が強くなった感覚はない。
『どうやらクライフは魔法剣士系みたいだね、もしくはバランス重視の勇者系かな』
「いやいやいや、勇者な訳ないでしょ」
シショーと同じ異邦人ならまだしも、万年Dクラスの自分が勇者ではないと断言できる。
『後、精霊が新しいスキルを覚えたね』
「はぁ?」
さらっと爆弾発言を混ぜないで欲しい。
よくわからないレベルなんかより断然重要だろう。
スキルの有無で戦い方が大きく変わってくる。
刀術のスキルを会得した直後から、動きが明らかに変わったのを鮮明に覚えている。
劇的な変化だったので鑑定して貰うまでもなくスキルを取得した事に気づいた。
今回スキルを獲得したと言っているが全く実感がない。
『クライフ、コクバン貸して』
持ち歩いている連絡板をシショーに渡した。
『覚えたスキルは次の通り。
火 ヒートアップ、水 キープレベル2、風 風の囁きレベル2、土 シークレットブーツ、闇 インザダークネスこの五つです。テストに出すからよく覚えておくように!』
チョークで連絡板を叩きながら元教師らしい冗談を飛ばす。
スキルは聞き覚えのある物と、初めて聞いた物が交じっている。
「あのどういう効果が?」
『まぁ落ち着きたまえ、ゆっくり解説、あ、間違えた』
近くの岩へ飛び乗り、人差し指らしき物を上に向けた。
『説明しよう!』
説明する時は毎回このポーズをとる決まりなのだろうか?
『まずわかりやすいものから。水のキープはいきなりレベル2から取得できたね。
レベル2になる事によって持続時間が大幅に向上する』
キープは戦闘中にいつ切れるかわからないので、持続時間が延びるのは大変ありがたい。
『次に風の囁き、これもレベル2からの取得。
レベル2になる事によって、近くにモンスターがいる時に教えてくれる確率が少し増えたのと、頼めば特定のモンスターを探して貰う事もできるようになったよ』
「特定のモンスターを探せるんですか、すごく便利そうですね」
『ただ魔力の消費が多いから、あまり乱用しないようにだって。
ご利用はご計画的にという事だね』
「だって?」
『鑑定スキルの解説をそのまま読んでいるからね。そこにそう書いてある』
シショーの鑑定はスキルにも適用できるらしい。
『ヒートアップは自身にかける事によって、力や素早さ耐久力が少しだけ上がるらしいよ。それと自然治癒能力もあがるみたい』
「使い勝手良さそうですね、特に自然治癒能力があがるならポーションの消費量が減りますね」
『ケチ臭いね』
「ポーションは高いんですから」
安いポーションでもゴブリン三十匹は狩らないといけない。
『まぁクライフらしいか。話を戻しまして、シークレットブーツだけど……足長効果により、スタイルがよく見える?』
「え、それだけ?」
明らかに今までのスキルの説明文と違い、戦闘に使う為の物ではない。
『それだけしか書いてないね、よくわからないや』
どうやらシショーの鑑定も万能ではないらしい。
『最後に、インザダークネス…………暗闇を支配し、闇に生きる』
「へ?」
さらに訳がわからない、もはや説明文にすらなっていない。
『スキル名の時にも感じていたけど、明らかにチュウニ病だね』
「チュウニ病ってどこか悪いんですか?」
『うむ、大丈夫。男の子なら誰もが一度はかかる病気だよ。人によって症状の重さは違うけど人体に影響はない』
人体に影響がない病気?
異世界の病気なのか?
「誰もがという事は、シショーもなったんですか?」
『先生も例に漏れず子供の頃かかったけど、その時重症になってまだ完治していない
んだ』
「……で、結局何ができるんですか?」
何だかよくわからないけれど、これ以上突っ込んではいけない気がしたので話を戻した。
「何だろね、わからないや。試してみたら?」
スキルが使えるようになったと言われたけれど、肝心のスキルが何だかわからない。
とりあえず新しく取得したスキルを一通り唱えてみたが、キープと風の囁き以外は何も変化は起こらなかった。
仕方がない、また適当にあしらわれるかもしれないがルフトの元へ向かおう。
郊外にあるルフトの家にたどり着いた、定休日だったが店側に人の気配を感じた
「ルフト入るぞ」
「おぅ、今調合中なんだ。手離せないからそのまま入れ」
ドアノブに触れる前にノックして声をかけた。
前回の反省を生かしルフトの返事を貰ってから店に入る。
店の中ではなにやら調合中なのか薬品臭い匂いが充満していた
「何だ、凡才の貴様が天才ルフト様の力が必要になったか?」
「そうなんだよ天才様にスキルの使い方を教えて欲しくて」
「もうスキルゲットしたか、やっぱヒューマンは寿命が短いだけあって成長が早いな。
使い方がわからないのか、しょうがねぇな。
よしここは、偉大な先輩として胸を貸してやろう、どの属性の奴だ」
明らかに機嫌が良さそうだ、少しだけホッとした。
「まず土の属性のシークレットブーツなんだけど」
「土ねって、え、シークレットブーツ?
アースバレット、バレット系じゃないの?」
「バレット系?
それは多分取っていないと思うよ。覚えたのがヒートアップ、インザダークネス。キープと風の囁きがそれぞれレベル2で取得したよ」
「バレット系なしって事あるのか、キープってスキルあったか?
インザダークネス?
熱、あーあ入れすぎた」
とりあえず調合を辞めて席について貰った。
ルフトによると最初に覚えるスキルは火の精霊であればファイアーバレットと言い、小さい火の弾を飛ばす遠距離用の攻撃魔法に決まっているらしい。
「まずはバレット、されどバレッド、最後にバレット。
これがエルフの格言だ、バレット以外にも色々スキルはあるがバレッドを極めない一流の精霊使いはほとんどいない。
お前が覚えたスキルはほとんどの精霊使いが使わない、使えない物ばかりではないか」
「確かにバレットはないけど、でもルフトだってキープできるでしょ?」
「だからキープは基礎的な訓練法だって言ったろ。
お前だって走ったり、腕立て伏せしたりできるけどそういうスキルはないだろ?」
「ああ、なるほど」
「そういう事だ。まぁバレットがないのはとりあえず置いといて、風の囁きは取得したんだよな。便利なのを取得したな、あれを使えば獲物を探すのが楽になるんだよな」
「ルフトも使えるの?」
「いや使えないけど、お前が取得したスキルの中では比較的有名」
「何かコツは?」
「確か風の精霊が近くにいる他の風の精霊にモンスターを探して貰うとしか聞いてないな。
強いて言えば魔力の消費が多いらしいから、ここ一番でしか使ってなかったと思う。連発は避けた方がいいな」
「そっか、わかった」
シショーの鑑定結果と同じような事を言っている。
「次にわかるのがヒートアップだけど、ほとんど使い手のいないマニアックなスキルだな。
エルフは弓かバレットを使って戦う遠距離タイプが多いけど、たまに接近戦を得意とする奴がいて、そいつらが主に使っていたな。
火の精霊を体に宿して通常時以上に力が強くなる便利なスキルだ。
結局使えなかったけど、昔ダチから教わった事があるから、多少教えられると思うぞ」
接近戦用なら、今の自分にもってこいのスキルだ。
「ただな土と闇は全く聞いた事ないな」
「そうなんだ、早く使ってみたいな」
「というかさぁ、お前発動もできないのに、どうやってスキル取得したのがわかったんだ」
「シショーが鑑定してくれて」
「そっか、お前にはお師匠様がいたな」
「だから師匠じゃないって、普通違うの?」
「普通は戦闘中とかに勝手に精霊がスキルを使って、それで初めて取得した事がわかる」
『ロ◯サガだ!
ヒラメキシステムだ!』
わけのわからない事をシショーが喚いている。
「スキル名はどうやってわかるの?」
「普通はわかる物がほとんどだからな。
わからない時はスキル書を見るか、それを見てもわからなければお師匠様みたいな高名な鑑定士に依頼する」
「スキル書?」
「ああ、今も持ってきてやるよ」
ルフトは隣の自宅に行き、拳二つ分はある分厚い本を持ってきた。
「すごいだろ、うちの一族で代々引き継いでいる由緒正しき本だぜ。
これ特殊な魔法を編み込んだ紙で作られていて、これに何か書き写すと親父の持っている原本や他の写しに自動的に書かれるんだ」
写しが別の本に反映されるのか、原理が全くわからないがすごいな。
『バックアップだ、ドウキだ、クラウドだ!』
シショーワードを連発して興奮しているシショーを再び無視する。
「えっとまずインザダークネス。闇の精霊だけあって使い手が少ないな。
今まで取得できたエルフは五人だね、ひい爺様も使っているみたいだね」
「使い手の名前が載るの?」
「珍しいのはね、バレットみたいに誰もが使えるのは一々書かないよ」
「そのバレットがないのですけど」
「安心しろ、お前は精霊使いになる前から変わっていたから」
全くフォーローになっていないというかする気がないな。
「本によると闇の精霊を纏わせて夜の闇に同化できるみたいだな。
闇の精霊の視覚しずらくなる能力を詠唱者に宿すんだな。
良かったな、これで女子の家へ忍びやすくなるな」
「そんな事しないって」
「まぁヘタレなお前には無理か。
えっとそしてだ、シークレットブーツだが、足や靴の裏に土の精霊が土を盛る事によって身長を誤魔化す事ができるだって」
シショーの説明と似ているが、より具体的でイメージはしやすくなった。
「今までの使い手は三人これまたひい爺様と……グレッグ、お前急に身長が伸びたと思ったがそういう事だったのか」
ルフトが小さくため息を吐くと、スキルブックに何かを書き込もうとしている。
「何やってんの?」
「ああ、一応お前の名前も刻んどこうと思ってな」
「いやいやいや、部外者の名前を書いたらまずいんじゃない」
ルフトの本だけならまだしも、ルフトの一族中に自分の名前が刻まれてしまう。
「あ~そっか、わかんないか。
そうだな、ヒューマンは血の繋がりが重要だからな、言ってなかったかもしんないけどお前もう、うちの一族だぞ」
「一族、エルフの?」
いつの間にエルフの一族になったのだ。
「精霊の種がお前に移った時から、もうお前はうちの一族だ」
「ヒューマンなのにいいの?」
エルフとヒューマンは身体的には大きく違うし、寿命や文化も滅茶苦茶違う。
それなのに一族入りしたら問題になると思うが。
「さぁな、どうだろ?」
「おい」
「いいじゃない、精霊様がOKと言ったらOKなんだよ」
「え、そうなの?」
エルフにとって精霊が重要だと知っていたが、そこまでの決定権があったとは思わなかった。
「そうだ、エルフにとって血の繋がりも大事だけど、それ以上に誰からどのような精霊を宿したのかという流れの方が重要だ。
自分の子供でも精霊の種が入らなくて、別の一族の一員になるなんて事も普通にある」
スキルの説明以上に衝撃の展開だった。
とりあえずルフトの父親の族長に手紙を書いて貰い、一族に属していいかどうか判断して貰う事にした。
気を取り直して、土の精霊のシークレットブーツを使ってみた。
靴の裏に土を盛るイメージで魔力を込めると目線が僅かに上がった。
靴の裏を見ると土が靴にくっ付いている、激しく動かしてもしっかりくっ付いたままだ。
シークレットブーツを解除すると靴の裏の土は風化して消えていった。
「魔力で土を作っているんだ。面白いけどこれで終わり?
これいつ使うの?」
「……すまん、俺様にもどうすればいいかわからん」
どうやらルフトはろくにアドバイスできなかった事が悔しかったらしく、その後エルフの戦い方をいくつか教えてくれた。
精霊を使って大気や光に干渉し、遠くの物を見たり、暗い所で見えるようになったりする森の狩人らしい技だ。訓練すれば遠目、遠当て、夜目の等のスキルとして取得できるらしい。
いつ必要になるかわからないから、練習だけはした方がいいかもしれない。
しかしルフトが全く知らないスキルなんてもっと普通のスキルが欲しかった。
まぁヒューマンで精霊のスキルを取得した時点で普通ではないんだけどね。
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本当にごめんなさい、一度頭からチェックしていたらこの話が抜けていたのに気づきました。
途中で間違えて消してしまったようです。
話が噛み合わないなか続きを読んで頂いた懐の深い皆様に感謝しかありません。
また同じようなミスをしないように気をつけます。
この度本当に申し訳ありません。
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