第13話 変な修行
翌日ルフトから唯一ちゃんとしたアドバイスしてくれたヒートアップを唱える。
アドバイス通り、自分の心臓を中心に温めるイメージでヒートアップを行う。
体の中心が熱く、力が湧いている感じがする。試しにゴブリン狩りしてみた所、汗をやたらかくがそれさえ気にしなければいい感じ力が入る。思いの外すごいスキルをゲットした。
ただ次の日の朝、ベッドから出る時に宿中に響くような悲鳴を発してしまった。
少しでも動くとあちこちが痛い。
ルフト、これは聞いていないぞ!
『あ~完全に筋肉痛だね。今日はお休みだね』
「嫌、痛いけど別に休まなくても」
『駄目だよ、ドクター~ストップ。
君は肉体でお金を稼ぐプロアスリートでしょ、体が資本、もっと体を大事にしなくちゃ』
手の平らしきものをこちらに見せながら色々なシショーワードを放つ。
『だいたい君は働き過ぎだよ、自由業の象徴的な職業の冒険者なのに週七で働いているじゃないか、どんだけブラックなんだよ。自由を履き違えていないか?
君以外の冒険者もちゃんと休みは取っているでしょ』
「でも、休むと色々不安で」
最初に習った剣術の師範代が、一日休むと取り返すのみ三日かかると教わった。
『完璧なワーカホリックだね、君はまず休み方を学ぶ必要があるな』
「はぁ、休み方ですか?」
『よしこれから言う提案をよく聞いてくれ。
まず休みを強制的に入るようにしよう。
そうだね、基本的に二日働いて一日休む。
これを基本としよう』
「…………はい」
『まぁ聞きたまえ、兄ちゃんにだけいい話があるさかい』
説得しようとしているのだろうが、話し方が急に胡散臭くなってきた。
『一日目は普通に働いて、二日目にヒートアップをたくさん使って三日目は完全に休日にする。
毎日タンパクシツ、お肉をたくさん食べる事としっかり睡眠をとる事、これにより丈夫で頑丈な体が作れるようになるって寸法だわさ』
「つまりヒートアップして、肉を食べると良いという事ですよね?
よくわからないけど、だったら動ける程度に毎日ヒートアップした方が良くないですか?」
『それが今回のミソじゃ、毎日じゃ駄目なのだよ、毎日じゃ』
「……どういう事ですか?」
先程からシショーワード連発だけれど綺麗に流している。
重要性の有無だけでなく、何となくだが意味がわかるようになった自分が怖い。
マイナーな調味料が出てきた時は突っ込みそうになったが、何とかスルーする事ができた。
『ちょっとそこどいて……説明しよう!』
体をどかすとシショーが机の上に飛び乗り、いつもポーズにいつもの台詞を発する。
『一定の筋肉を使うと筋肉の中にある繊維が傷つく、この傷を回復する為にタンパクシツ、お肉を取ると筋肉は回復するだけでなく以前よりも強くなる。
これをチョウカイフクという。
回復するまでにおおよそ丸二日間かかると言われているのだよ』
シショーは近くにあった連絡板に簡単な絵を描きながら新たなシショーワードの説明している。
『このチョウカイフクの性質をうまく利用してヒートアップを使うんだ。
まずヒートアップは通常より強い力つまり多くの筋肉を使えるわけだ。
けど無償という訳ではなく筋肉は傷つい為、翌日筋肉痛になった。
そこで定期的にヒートアップして筋肉を適度に傷つけた後にチョウカイフクすれば、理想的なボディーが手に入るっていうわけだ。理想の体を手に入れたらこっちのもんだ。
健全なる精神は、健全な身体に宿るって有名な錬金術師さんも言ってたよ』
正直ずっと何を言っているのかわからないが、シショーが幸せそうなので突っ込むのをよした。
「でも、いくら何でも三日に一回は休み過ぎなのでは」
『待てよ、回復しきるのに丸二日間だから一日働いて二日休みが理想的か』
「三日に一回休みでお願いします」
まさかさらに休めと言ってくるとは思わず、即座に提案を受け入れてしまった。
シショーは思ったより交渉上手なのかもしれない。
とりあえず次の日からヒートアップをどれくらいで使うと、どれくらいの筋肉痛がくるか実験をしてみる事にした。
当初は加減が分からず帰り道で足をつってしまう事もあったが、ヒートアップの感覚と翌日くる筋肉痛にも慣れてきた。
問題はシークレットブーツとインザダークネスだ。
両方ともすんなり使う事はできたけれど、未だに使い道がわからない。
インザダークネスは発動すると自分の周りが闇に囲まれて見つかりづらくなるが、明るい所だと何ら効果がない。
では夜に狩りへ行けばいいと思ったが、夜の狩りはそもそもリスクが高すぎる。
さらにどう使えばいいのかがわからないのが、シークレットブーツだ。
足の裏に土を盛る事ができて、最大で腕の長さぐらいまで盛る事ができるようになった。
しかし、その高さまで盛ったら、バランスが悪くなってしまい歩くのもおぼつかない。
「とりあえず、使えるようになるまで後回しにしますか?」
『引き出しの数は大いに越した事がない、両方ともやった方がいいと思うよ』
「そうですか?」
『習うより、慣れろという言葉がある。
今は使えなくても、いずれ使えるようになるかもしれないよ』
「でもどうやるんですか?」
正直使い道がわからないのに訓練のしようがない。
『先生に任せない、君にピッタリの特訓法を思いつきました』
そういって楽しそうにしているシショーを見た時、何だか嫌な予感がした。
提案されたのが、朝日が出る前の暗い時間帯にスライムを背負いながらのランニングだ。
インザダークネスを使って闇に紛れながら、シークレットブーツで足の裏に土を盛って町中走る。
マックスをレベル10としてシショーがランダムに数字を言い、その高さまで土を盛って走る事にしている。
早朝ランニングも体調と予定に合わせて内容を変えている。短い距離をダッシュしたり、筋肉痛がひどい時はスキルの夜目や遠目を意識しながらゆっくり歩いたりしている。
シークレットブーツに少しでも慣れるように、戦闘中も含めて常にレベル1の土を僅かに盛った状態にしている。
しばらくシークレットブーツを使い続けているとコツを掴む事ができ、地面を素足で歩くようにしっかり感じる事ができるようになった。
特に砂場等の地面が柔らかい場所でも地面を噛み締める事ができ踏ん張りやすくなり、咄嗟の動きの出だしが速くなったような気がする。
ただインザダークネスは実戦ではまだ使えていない。
悪い事をする事以外で使い道が未だに思い浮かばない。
そういえばシショーに鑑定でアサシンの適性があるとか言われたな……。
『クライフ、何ぼけっとしてんの、次はレベル10だよ』
変な事を考えていると、背負っているシショーが檄を飛ばす。
最大限まで足の裏に土を盛って走る。
高いレベルが辛いのは、もちろん走りづらいというのもあるが、暗闇を走っていたらモンスターと間違われるかもしれない事だ。
今まで以上にインザダークネスに力を込め、誰にも見つからないように祈るような気持ちでひたすら早朝の町を走っていった。
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