第54話 キノコ狩り
後は真のリーダーから話を聞くようにといわれ客席にいた我々の所にカイルがやってきた。
「結局カイルが説明するなら、こんな立派な舞台でやる必要あったの?」
「それは……聞かないでください。
では気を取り直して説明します、まずこれを見てください」
カイルはうんざりした顔から真剣な顔に切り替え、小さな手の上に乗っかっている紫色のキノコを見せてきた。
「その色からしてバリキノコかね」
「さすがショーンさん、そうですこれはバリキノコ。
このスロネ森に生えている毒にも薬にもならないキノコです。
染色目的に一部使われたりします」
「そのキノコが何だって言うんだ」
「だからそれを今から説明するんだろうが、トカゲ」
「お前には聞いてないぞ死人」
「レベッカもノーマも頼むから、いちいちつまらない事で喧嘩しないで」
うんざりしながら二人の喧嘩を仲裁する。
「試験官が大勢いる中で堂々と喧嘩するのは、やっぱり大物だね」
あきれた顔をしたカイルが、改めて今回の試験の内容を説明してくれた。
バックスの試験の説明では冗談かと感じてしまったが、事態はかなり深刻のようだ。
このスロネの地域で類を見ない程、豊作が何年か続いた。
麦が実り、森の中も果実ができ、獲物も猟師が抱えきれない程確保できていた。
しかしこの恩恵をうけるのは人間だけではない。
モンスター爆発的に増えてしまった。
ここ大群をもってスタンピードが起きて、スロネに押し攻めてくるという事は幸いにもおきなかった。
この山岳地域だけに住むと言われている、特有のモンスターが三種いる。
温泉好きで有名なハイゴブリンのスチームゴブリン、二足歩行で雨に活発になる灰色の犬型のコボルトのシャワーラッシュ、そしてヒューマンより少し大きく、苗木を植える事から森の管理人とも言われる大猿のブラウンシールドエイプ。
彼らは非常に中が悪く、三つ巴になり人に被害が及ぶ前に森の覇権をかけて抗争になった。
そしてこの戦いの勝者がこのバリキノコだった。
このキノコは木の根っこの他にも死体に生えるのを好んだ。
抗争のおかげで大量の死体があるので、着々と数を伸ばした。
そしてある奇妙な変異種のキノコが生まれてしまった。
死にかけのモンスターの脳に入り込み、体を操り外へ外へと生息範囲を広めようとする変種だ。
当初はこの変種に操られたモンスターをゾンビだと思われた。
しかし聖水や神聖魔法の効果がない事から調査し、今回の事件が発覚した。
ここでさらに問題は起きた、実に幸運で厄介な事に街での人的被害が全くなかった。
そして街に被害が無い事によって、ケチな領主が軍を派遣するのを嫌った。
軍も動かないとなるとギルトに頼るしかない。
しかしギルドも依頼を出したが一向に人が集まらない。
すでに人にも感染するのではないかという噂が広がり、疑心暗鬼になったのだ。
どうするか悩んだ時に、この金にがめつい領主がこの試験に目をつけた。
巨人殺しのバックスは元貴族で今の領主と顔見知りだったので、ギルト側の代表として色々交渉をして今回の話になった。
一応合格者には少しだがお金がでるようになったし、試験中は無料で有名な宿に泊めてもらえるようにも交渉したらしい。
「とにかく、今回の試験は色々わけありで問題がある。
今なら、ペナルティーなしで断ってもいいよ。
本当は言ってはいけないのだけど、君達なら次回の試験を受ければ普通に受かると思うし、ここで無理する必要性はないよ。
ちなみにもう一回ここでチームを組み直すのは有りだから、周りを気にしないで決めてね」
カイルが喋りながら、一人一人に今回の試験の詳細が書いた資料を配る。
「拘束時間は一週間から十日ぐらいを予定。
C級への合格だけでなく、成績に合わせてボーナスも出る、詳しくは資料に書いているからじっくり考えて」
「俺は受けたいが、一人なら諦める。
他のヒューマン達と組めねぇだろうし」
ノーマがもらった資料を見もしないで、いちはやく自分の意見を伝えた。
「儂はどっちでもいいぞ、皆には悪いが今回の試験は老後の暇つぶしの一環じゃからな。
何が何でもというものはない。
ただレベッカ君の前で言うのは何だが、元聖職者としてはモンスターとはいえ操られているのは不憫とは思うがな」
ショーンさんも資料をサラッと見て意見を固めた。
「僕もどっちでもいいですよ、マスターに任せます」
レベッカは資料を興味なさそうにめくりながら自分に任せた。
「カイル、やばそうなら途中で辞めるのはあり?」
「もちろんです、それによるペナルティーはありません」
「それなら自分も……受けたいと思います」
資料を全部隅から隅まで読んでから意見を決めた。
バリキノコがどのぐらい危ないかわからないが、本当に危険だとわかってから辞めても遅くないだろう。
それにこのまま終わってはダメだと思った。
このまま帰ったら、あの悪魔に対して何もできなかったという事実しか残らない。
「わかりました、では四人はこちらで用意した宿に泊まってください。
他に質問がなければここで終わりですが」
にっこり笑うカイルに向かってショーンさんが手をあげた。
「たいした事ではないのじゃが、冒険者の数がちと少ないかい?」
ショーンさんに言われて、舞台会場を見渡すと確かに最初にギルトで説明を聞いていた時よりも一割から二割ほど少なく感じる。
「ええ、一応試験ですからね。実力が伴わない人や、素行が悪くて今回の任務に適さないと判断された人がいたみたいです」
全員思わずノーマを見つめる。
「な、何だよ」
ノーマも悪いことをしたという意識はあるようで、そっぽを向いた。
「トカゲが試験官を槍で刺そうとする事より、悪い素行って何ですか?」
レベッカが皆の気持ちをストレートに代弁してくれた。
カイルの温情がなければ、試験は受けられなかったのだろうなと改めて感謝をした。
「うるせぇ、死人には関係ないだろ」
「まぁまぁ、ノーマ君もレベッカ君も武器に手をかけない。
どうせやるなら外でやりなさい」
「君たちいい加減にしないと、本当に試験から落とすよ」
再びノーマとレベッカが喧嘩しそうになっているのをショーンさんは楽しそうに、カイルは疲れ切った顔で窘めている。
一人資料をもう一度読み返しながら、このメンバーで本当に試験を受けて大丈夫なのかと大きなため息が出てしまった。
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