第53話 風変わりな試験内容
「よし、じゃ今日も頑張ろう!」
御者に戻ったカイルの可愛らしい号令の元、馬車が走り出した。
あの紫の悪魔を退治した後、皆も緊張の糸がきれてしまい近くでキャンプする事にした。
カイルを含め皆、疲れ切っていたので終始言葉少な目だった。
夜番の間に皆交代で紫の悪魔の巨体を丁寧に解体をした。
硬い悪魔を解体するのに苦労したが皮が高値で買って貰えるようだ。
肉や骨や内蔵等もそれなりに金になるとカイルがいっていたので解体した紫の悪魔をほぼ丸ごと馬車に積む事にした。
重たい紫の悪魔の遺体を積んだ為、馬がきつそうだったので自分達の荷物は自分達で担いで歩く事になった。
5~6時間ほどゆっくり雑魚モンスターに絡まれながら進むと街が見えてきた。
「目的地の街につきましたよ、あの街スロネです」
「やはりスロネじゃったか」
「ショーンさんは来た事あるんですか?」
昨日の悪魔との戦いで何もできなかったショックを、他の人に悟られないように、積極的に会話に参加する。
「子供が小さかった時に家族旅行で来たの、クライフ君は初めてかい?」
「住んでいる街ヒュータスから出るのも初めてです」
「マスターは初めてなんですね、ここは活火山の近くにあるんで、そのおかげで温泉がわく観光地、保養地として有名ですよ。
後お土産のタヌキの彫り物がかわいいんですよ」
「そっかレベッカも来た事あるんだ」
「ええ、生きてた頃はよく温泉目的で遊びにきました、ここはタヌキの寝床と言われていて、泥温泉が美肌にいいって言われて密かにブームですよ」
「せっかくだけど、時間的にすぐにミーティングだから観光してる時間はないよ」
「了解しました」
別に観光する為にきたわけではないので、誰も気に知っていなかった。
ふと、『お風呂は魂の洗濯だよ』と熱弁するスライムがいたら、ガッカリしただろうなと思った。
ミーティングは人数も多いので、観光地の名物の一つであるパーン劇場を借りて行うことになったらしい。
300人程入れる大きな劇場で主に貴族や金持ちの為、一番安い席でも数時間座るだけで普段泊まっている宿代の三倍は払わなければならない。
恐る恐る劇場に入り、細部にこだわりのある椅子に座ってミーティングが始まるのを待つ。
ドラム音と共にゆっくりカーテンが開いて行くとそこにスポットライトが巨人殺しのバックス一人を写す。
すり鉢状になっているので、ギルトとの時と逆でバッカスが全体を見あげている。
「勇敢なる後輩達よ、随分遅かったじゃないか」
巨人殺しは芝居がかったオーバーリアクションの台詞から始まり、その後巨人殺しの自慢話が始まった。
巨人殺しが最後のグループ分けができたのを見届けたのち、急いで町に向かい翌日の朝にはスロネに到着したと「こんな事ができるのはA級でもなかなかいないぞ」と自画自賛している。
どうやら公道ではなく、モンスターはびこる暗闇の山の中を文字通り一直線に向かいショートカットしたようだ。
さすが名の知れたA級の冒険者だ、ふざけた態度とは裏腹に恐ろしい男だ。
「では今回の試験のテーマを言う前に、君達のチームの真のリーダーを紹介しよう」
そういうと、劇場の脇からカイルを含めて10人以上の男女が現れた。
周りががやがやと騒ぎ出す。
「そう、君たちをこの街まで連れてきた御者、彼らは皆Cランク以上の猛者だったんだよ。
見た目にだまされただろ。良かったな、人は見た目でわからないという良い勉強になっただろう」
「ええ、マジかよ」
「やべ、俺偉そうに冒険者について語っちまった」
「俺なんかナンパしちゃったよ」
他のグループから驚きの声が聞こえてきた。
どうやら正体を見破れたのは我々を含め、わずかだったようだ。
本当は見破れたので大きなアドバンテージになるはずだったが、真相を突き止めたノーマのおかげで評価プラスマイナス0。
いや、プラス0のマイナス目の評価と、思っていた方がいいかもしれない。
「はい、静粛に。
予定通り驚いてくれてありがとう。
今後のテスト中も彼らと行動してもらうよう、真のリーダーである彼らが命令をした場合それは絶対に従ってくれ。
いいか、絶対に従ってくれ。
大事な事なので二回言ったからな。
従わないと罰金、降格だけでなく最悪解雇もありえるからな」
柔らかい口調で恐ろしい事を言い始めた。
あたりがさらにざわつく。
冒険者の罰則は口頭注意、ペナルティー、解雇の三種類だ。
口頭注意は次やったらペナルティーをかしますという注意で、はっきりいって日常茶飯事だ。
ルーキーだった頃に出来もしない依頼を無理やりやって失敗したり、依頼をこなしたけれど長い間報告しなかったりした時にもらった事がある。
ペナルティーの中で次に多いのが罰金だ。
依頼内容によっては達成できなかった場合つくことがある。
降格も派手にケンカした場合や、他の一般人に害を与えた場合見せしめとしてなったのを見た事がある。
しかし、解雇になると途端に聞かなくなる。
普通は法に触れるような、しかも人を殺したみたいな重罪を犯さない限り解雇はない。
冒険者はどこにも行く場がない人達の集まる場だ。
次に行くところなんてない。
だからどんな冒険者も、解雇をほのめかせばおとなしく言うことを聞く。
まさか昇格する為にテストを受けに来て、降格どころか解雇もあると言われるとは思っていなかった。
「わかってくれたみたいだね、そう今回の試験は普通ではない、それだけ今回はヤバいのだよ」
バックスは周りをゆっくり見渡し、にやっと笑った。
「では今回の試験内容を発表する、今回の試験のテーマは、キノコ狩りだ」
ドラムロールに合わせて巨人殺しが今回の試験内容を発表した。
舞台を意識したのか、役者に憧れているのだろうか、ドヤ顔でかっこつけて指を指しながら言うバックスを見て、非常に不安な気持ちになった。
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