第44話 新たな相棒


 キニーと別れ、気を取り直してどこかのグループに入れて貰おう。

 今度は自分達の事を知らない、他所から来た人達を中心に声をかける。

 たまに感触良く決まりそうになるが、やはりレベッカの事を話すと、色よい返事は頂けない。

 一番良い返事は「他が見つからなかったらね」という保険扱いだ。


 自分みたいにどこにも入る事ができない人もいれば、争奪戦になる人もいる。


 一番の争奪戦が白熱している注目の人物は、大きな盾に頬杖して勧誘の話を聞いていた。

 銀色に輝く鎧に大きな狼の模様が左胸にある、六神の一人イズラの神官騎士だ。


 白髪に白ひげなのでかなりの年配だと思われるが、自分よりも背も高く、肉体的にもたくましい。

 多分腕相撲では勝てないだろう。


 近くで話をしていた人の話を盗み聞きすると、どうやら元神殿騎士の師団長まで上り詰めた人らしく、最近ギルトに入って冒険者歴は浅いらしい。

 冒険者は現役神殿騎士が副業もしくはリタイア後に就く事は多いが、イズラは規律や規則を重視する組織なので、自由奔放な人が多い冒険者になるのはかなり珍しい。

 神官騎士の元師団長であれば実力は間違いなくトップクラス、神殿関係だから貴重な回復魔法も使えるだろうし、大盾を持っているので恐らくタンク役だろう。


 癖が強い神官騎士達の中でも、イズラの神官は誰よりも規律を重んじるので今回みたいな短期間チームを組むときにはもってこいだ。

 どの冒険者も喉から手が出るほど欲しいだろう。

 自分達の事を保険扱いした奴も、一生懸命チームをアピールしている。

 自分はきっとあの団長の争奪戦に負けた時の保険、もしくはさらにその先の保険なのだろうな。


「痛ぇな」


 師団長を見ながら歩いていた為、何かを踏んでしまったようだ。


「すみません」


 慌てて踏んだ何かから足を離し、謝罪する。


 振り返った大男と目が合う。

 この大男は見覚えがあった、知り合いではないが二階から観察した時に特徴的で目についていた。


 先ほどの団長よりもさらに大きく、自分より二回りは大きいので見上げないと目が合わない。

 外見が自分と大きく違う。

 瞳の瞳孔が少しだけ細長く、そして口先が長く、皮膚は緑色の鱗で覆われている。

 先ほど踏んでしまったのが我々ヒューマンには無い尻尾の先端だ。

 つまりヒューマンではなく、亜人のリザードマンだ。


「ああ、気をつけろよ。

 なんだ、リザードマンを見るのは初めてか?」


 初めて間近でみるリザードマンの迫力に、思わず凝視してしまった。


「はい、すみません」


 慌てて頭を下げる。

 リザードマンは亜人の中で、トカゲ等の爬虫類にとヒューマンが混ざった種族だ、主に湖や山で暮らす事が多く、街で見かけるのは稀だ。


「まぁしゃーねえー、この辺にはいないみたいだからな」


「あの……お一人ですか?」


 断られ続けたせいか、声が少し小さくなってしまった。


「見りゃわかんだろう」


「そうですか、もし良かったら組みませんか?」


「なんだ、お前も決まっていないのか」


「はい、あいにくまだ決まっていないんです」


 そう言って自分の事とレベッカの事を話す。


「何だそれ、お前モンスターなのか、おもしれぇ」


 先端がだけ二つに裂けた、長い舌を出して笑いだした。


「何ですか、喧嘩を売っているんですか」


 レベッカが珍しく感情的になっている。

 今まで怖がられたり、気味が悪がられたりする事には平然としていたが、このリザードマンには何故か喧嘩腰だ。


「特に売ってねぇが、そっちが売るならこっちは買うぜ」


「ちょっと落ち着いて、レベッカがすみません」


 慌ててレベッカとの間に入ってリザードマンに謝る。


「別にいいぜ、オレはノーマ。

 見ての通りのリザードマンだ」


 改めてお互いを自己紹介し合う。


 ノーマは腕に自信があるので、生まれた村を飛び出した。


 最初に入った村でリザードマンだからという理由で、差別を受けていた。

 ランクをあげて偏見の少ない都会に引っ越そうと画策していたが、ここでも偏見にあいチームを組めず困っていたらしい。


「で、いいのか? 

 俺と組んだら、ますます他のやつらと組みづらくなるぞ」


 ノーマはバカ正直に、リザードマンと一緒にいる事によるデメリットを提示してくれた。

 ノーマの言う通ヒューマンの中には見た目や考え方、所属する神が違う等の理由でリザードマン達のような亜人は差別する人も一定数いる。


 その為ノーマと組んだらメンバーが集まりにくくなるかもしれない。


「いえ、それを言うならこちらと組んでも他の人と組めなくなるかもしれませんよ」


「別にいいぜ、お前に会うまで一人で挑戦するつもりだったし」


「では是非、レベッカもいいかな?」


「マスターがいいなら別にいいですよ」


「じゃあ決まりだな」


 レベッカは不貞腐れながらも、了承してくれた。


 ノーマが言うようにただでさえアンデットがいるのに、リザードマンと組んだらもう誰もパーティーに入ってくれないだろう。


 ただそれでも、自分を保険扱いにしていた人と組むよりはずっと良い。


 それに先程キニーが言っていたように、今回落ちても次回合格すればいという楽観的な気持ちにもなっていた。


「是非お願いします」


 軽く頭を下げてこちらからお願いした。


 下げた頭の前にノーマの大きな右手が降りてきた、人よりすこし固い皮の彼の手を握り返すと、満面の笑みを浮かべてくれた。

 子供だったら泣きたくなるような、迫力のある笑みだ。


「五人までって言ってたけ剣士、ああ刀使いだっけ? 

 リザードマン一人と死人が一人か。

 何とかなるか?」


「そうですね、このトカゲの言う通りじゃないですかマスター。

 贅沢を言えば、後遠距離アタッカーの魔法使いか盾使いのタンク役とかいれば最高でしたけど」


「おい待て死人、誰がトカゲだ」


「何ですか、そちらこそ誰が死人ですか」


 レベッカとノーマが口喧嘩をし始めた。


 どうやらレベッカとノーマの相性はよろしくないようだ、パーティーを組んだのは早計だったかも知れない。


「どうだい、爺でよければわしと組まないかね、老体だが体の丈夫さなら自信はあるし、回復魔法なら下手くそじゃが使えるぞ」


 頭を悩ませていると、最高の人材と思われる人から声をかけられた。

 先ほど取り合いになっていた、神官騎士の元師団長だ。


「何故?」


 何か裏があるのではないかと、思わず距離をとってしまう。


「なんだジジイ、からかってんのか」


 先程の争奪戦をノーマも見たのか、からかわれていると思ったのだろう。

 自分が咄嗟に空けたスペースにノーマが入り込んで、元師団長に対して至近距離でメンチを切っている。


「ちょ、ちょっとノーマ失礼だよ」


 慌ててノーマの腕を引っ張り止めさせるが、びくともしない。


「元気が有ってよいの、決してふざけているわけではないんじゃ、真剣に仲間に入れて欲しいのだよ」


 笑いながらノーマの迫力満点のメンチを平然といなしている。

 さすが元師団長、只者ではないな。


「えっと、理由を伺ってもよろしいでしょうか? 

 師団長まで上り詰めたあなたが何故自分達と?」


「ふむ、理由か……しいてあげれば宗教上、信仰上というのが理由じゃな。

 儂は見ての通り神イズラに所属している。

 知っていると思うがイズラ様の所属は、山、平等、時間。

 わしは特に平等に重きを置いている。

 この中で一番平等から遠いのは、おぬし達ではないかと思ってな」


「なんじゃそりゃ、ようは同情か? 

 意味わかんねぇ」


 ヒューマンとは違う神を持つリザードマンのノーマにはわからなかったみたいだが、イズラの所属している人は知的で博愛主義と言われている。

 イズラの神殿騎士であれば、平等の名のもと慈愛的な行為をしてもおかしくないが、命がかかるチーム選びを慈愛精神から選ぶのはどうだろうか?


「お爺さん、こう見えてボクはアンデットだよ、一緒にいて大丈夫?」


「うむ、思う事がないわけじゃないが、テイムできたという事は世界がお主を認めたという事でもある。

 ただもし解放されたいと思ったら、いつでも言ってくれ」


「絶対にやだ。やっと面白くなってきたのに」


「うむ、そうか。

 それで、どうじゃい爺はいやかい?

 どうしてもやだというなら諦めるがどうじゃ?」


「いえ、是非お願いします。

 元師団長のあなたがいれば大変心強いです。 

 ノーマ、レベッカ、いいよね?」


 気まぐれか、信念か、同情かわからないが元師団長の神官騎士が入れば生存率も合格率もぐっとあがる。


「そうか、こちらこそよろしく、名はショーン、ちなみに元師団長ではなく元師団長候補じゃ」


 右手を差し出すショーンさんと握手をし、ノーマにも右手を差し出した。


「あ~まぁよろしく、ジジイ」


 ノーマはばつが悪そうに、そっぽ向きながら握手をしている。


「お爺さんよろしくお願いします」


 レベッカはいつもの子犬スマイルを向けて握手している。

 ショーンさんは失礼な態度にも、ジジイやお爺さんと言われた事にも、笑ってむしろ喜んでいるように見える。


「どうするんだ、もうこのメンバーでいいよな」


「爺もそう思うぞ、戦力的にはなんとかなるのではないかな?」


「そうですかね?」


 辺りを見回すと元神殿騎士とリザードマンとアンデットいう変わった組み合わせに周りの人は興味があるようだが、目線を送るとスッと別の方向を向いて声をかけるなオーラを発している。


 無理にメンバーを増やしても余計なトラブルが増えそうだし、このままで良いかもしれない。


「なぁあんちゃん、チームが決まったらどうすればいいんだ」


 ノーマが近くにいたギルト員に詰め寄った。


「グ、グループの構成とリーダーを報告して頂いたら、西門の広場に向かってください」


 ギルト員がノーマの迫力に少しビビらせてしまったようだ、こっそり心の中で謝る。


「ではショーンさんに」


「断る」


 お願いする前にくい気味に断られた。


「へ?」


「だから断るといったのだ」


 能力、経験、肩書き、年齢どれをとってもこのチームのリーダーに相応しいと思うのだが、まさか一蹴されるとは思わなかった。


 先程までの優しい好々爺という雰囲気から一点、威圧感を出しながら断固たる態度で拒絶された。


「宗教上の理由でお断りする。

 リーダーや偉い立場になったりすると、平等な判断ができないことがある。

 じゃから断る」


 真っ直ぐこちらを見る目はよく言えば信念、悪く言えば頑固爺いに感じた。


「言っておくけど、俺もやだぞ。

 リザードマンがリーダーになったら後で何を言われるかわかんない。

 ヒューマンはこえーからな」


 危険を察知したのか、こちらがお願いする前に断ってきた。

 これはわからないでもない、偏見や差別は目立つ場所ほどかかりやすい。

 それにまだ知り合ったばかりで断定するのは申し訳ないが、ノーマがリーダーになったら余計なトラブルが増える予感がする。


「え、ボクですか。

 もういくらマスターでも、まさかテイムモンスターにリーダーを押し付けないですよね?」


 助けを求めてレベッカを見たが、正論で絶望に落とされた。

 確かに能力はともかくとして、アンデットにリーダーを任すのはまずい。


「クライフ君、君がやりなさい」


 人とあまり関わらないように生きてきた自分が、いきなりリーダーなんて出来るわけがないと思う。

 宗教上、種族上の上回る理由を思いつけず、リーダーをやるはめになった。

 リーダ役なんてやりたくない。

 本当にできるのだろうか、不安で仕方がない。



 まだ別れて数時間だが「異世界から来たスライムがいたらな」と早くも思ってしまう弱気な自分がいた。


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