第41話 C級試験
「ありがとうございました」
「待て、まだ別の話がある」
お礼を言って部屋から出ようとすると、ジュゼットさんが引き留めた。
「来月の昇格試験を受けてみないかね」
「昇格ってCランク昇格ですか?」
話を聞くと以前討伐したスモールヒールッファローのおかげで、Cランクへの昇格試験への挑戦権を得たらしい。
冒険者のランクわけはFランクからSランクまで七つある。
今自分がいるDランクはルーキーまたは半人前と言われ、Cランクになってようやく一人前扱いを受ける。
一般的にCランクになって初めて冒険者と堂々と名乗る事ができる。
Cランクにならないと世間からろくに信用されず、家は借りられないし、ちゃんとした所から借金もできない。
他にも専用の担当がついたり、冒険者ギルトの施設の一部が使えたりする事ができる為DランクとCランクの境界はかなり大きい。
誰もが一日でも早くなりたいCランク試験は皆張り切ってしまう為、怪我や死亡するリスクもそれなりに高い。
その為受けるかどうか迷う気持ちも少しだけあったが、二度と資格がない事によって何もできない、惨めな気持ちにならない為に試験を受ける事にした。
昇格試験は年二回、毎回試験内容、合格基準、合格人数は大きく変わる。
上級冒険者が審査員になる事もある為、毎年試験内容を予想するのは難しいようだ。
地域事に交代制で試験を行い、今回はこの町が会場のようだ。
試験は一日で終わる事もあれば、長いと数週間かかる事もある。
一人で受けるものからチームを組む物まで様々だ。
どのような試験になるかは当日まで発表できないとの事だ。
ジュゼットさんから渡された試験の同意書にサインして、ギルトを後にした。
どんな試験なのかわからないが、できる限りの準備を始めよう。
ポーションの補充や、師範代に壊された防具の修理だけでなく、思い切ってサブの武具を木刀からアップグレードする事にした。
以前刀を購入した店へ、サブの武器を新調しに向かった。
久しぶりに出会った店長は何故か店の前で別の商人らしき人と取っ組み合いの喧嘩をしていた、喧嘩が終わると目が合い何故か怒りながら店に入れといわれた。
怒っていた店長だが、途中から親切に色々とアドバイスをくれた。
何故か最終的には武具というより、生活用品よりの鉈を勧められるとは思わなかったが説明を聞くと納得できた。
切れ味や耐久力もいいし、いざという時は投げて使える。
価格的にも最悪諦めがつくという納得の説明だ。
何度か試しにゴブリンを狩ってみたが、ちょうどいい重量感とサイズで、手になじみ使い勝手が良さそうだ。
新しく手に入れた武具に、テンションが上がる。
「マスター、もしかして一人で行くつもりじゃないですよね?
もちろん、ボクも連れて行ってくれますよね」
宿の庭で投げ鉈の練習をしていると、レベッカから意表のついた質問をしてきた。
「え、レベッカも?」
実力は十分あるだろうが、残念ながら死んでしまったレベッカは、試験を受けられない。
ただ、テイムモンスターとしてだったら連れていけるのか?
「ボク、マスターと離れたら、アンデットになってマスターと戦った時みたいに、理性がなくなって暴れ出すかもしれませんよ」
悩んでいると、可愛らしい笑顔で脅して来やがった。
レベッカはどこからどう見ても可憐な女性だが、歴としたモンスターだ。
ないとは思うが、自分から離れたら暴れ出す可能性もあるかもしれない。
怖すぎて少しだけ試す事もできない。
とりあえず、連れて行けるかどうかジュゼットさんに確認しに行った。
ジュゼットさんが今回の試験の責任者に確認をしてもらい、規則上はテイマーギルトで登録しているので問題はないらしいとの事だ。
ただアンデットを連れて回る事は、それなりにリスクがあるので覚悟した方がいいと言われた。
「シショーはどう思います?」
レベッカはすでに行く気マンマンで、鼻歌を歌いながら試験受ける為の準備していたので、こっそりシショーに相談する。
『連れて行った方がいいんじゃない、どんな試験かはわからないけど二人で受けた方が有利なんじゃない?』
「そうですかね、でもちょっとずるくないですか?」
二人がかりで試験を受けるのはずるいというか、せこい気がした。
『ずるい、そうかな?
じゃあ生まれ持って力が強い人や、脚が速い人はずるい人?』
「いえ、そんな事はないです」
『じゃあ、友達がいっぱいいて、色んな人に質問できる人はずるい人は?』
「うーんどうでしょう、事前に答えを聞くとかじゃなければ別にずるくはないのかな?」
人脈という奴で、自分が一番持っていないものだ。
羨ましいとは思うが、ずるいとは少し違う。
『そうだよ。
レベッカと一緒にいられるのも、クライフの才能と考えていいんだよ。
ルールの範囲内なら、人とは違う才能や能力を使う事に躊躇しなくていいんだよ。
違うという事で疎まれる事もあるけど、同時に違うという事は武器にもなるんだ。
短所と長所は裏と表、どの角度で物事をみるかによって変わる。
なら自分にとって都合のいい方から見ようよ』
「そうですかね、じゃあレベッカは連れて行こうかと思います」
正直言うとまだ気が引けるが、異世界で元教師だったシショーの説明にそんなものなのかなと思い始めた。
『うん、でも先生は今回残った方がいいかもね』
「え?」
衝撃的なシショーの発言に、思わず間抜けな声がでた。
『他の人とチーム組みながら、スライムを持ち歩ける?』
「それは…………確かに」
今回の試験は長時間拘束される可能性があるので、シショーは置いていった方がいいのかもしれない。
個人戦ならごまかせるが、もしチーム戦になったら隠しながら持ち歩くのは限界がある。
堂々と持ち歩くとしたら、何でスライムを連れ回しているか説明をしないといけない。
初対面の人にこのスライムは異世界からきた異邦者であると説明をして、はたして信じてもらえるだろうか。
それに今まではなんとかなっていたが、そもそも防御力が極端に低いスライムのシショーを、連れて回るのはリスクが大きい。
そもそも本来は街の外に、連れて行くべきでない。
シショーを誰か信頼できる人に、お願いすべきなのかもしれない。
シショーの事を知っている人物とするとルフトか?
「あの女将さん、今いいですか?」
「大丈夫よ、どうしたの」
「実は今度冒険者ギルドの試験を受ける事になりまして」
「あら、おめでとう」
「ありがとうございます、それでこのスライムを預かって貰えないかなと思いまして」
仕事と女の事以外はいい加減なルフトではなく、女将さんにシショーを預け有られないか相談してみる事にした。
「その、スライムを私に?」
女将さんがびっくりしている、普通こういう場合はプロであるテイマーギルドにお願いするのが一般的だ。
ただどのように管理しているかわからないが、他のスライムと一緒に雑に管理されたらシショーが可愛そうだ。
「ええ、実はこのスライム、シショーと言いまして、異邦人でしゃべれませんがこちらの言っている事を理解してくれます」
「言葉がわかるの?」
「わかります、ねシショー」
シショーは大げさに頷いて見せた。
「この連絡板を使えばシショーと会話もできます」
文字一覧の書いた連絡板をとり出し、シショーの前に置くとお、ね、が、い、し、ま、すと順にシショーが指さした。
「あら、すごいわね。
だからいつも一緒にいたのね、それならもっと早く言ってよ。
そうだ、ちょうど掃除をしたかった場所あるから、頼んでもいいかしら」
正直信じて貰えるかどうか自信がなかったが、女将さんは一切疑う素振りを見せなかった。
レベッカを泊めて貰う時にも感じたが、女将さんの器の大きさに驚く。
「掃除ですか?」
「そうよ、毎年手が届かない所はね、テイマーギルトに言ってスライムを使って掃除をお願いしているの」
「そうなんですか」
「そうよ、結構便利なのよ。
貴族なんかになるとわざわざスライムテイマーを雇って、スライムを放って毎日掃除しているみたいよ」
スライムは戦闘面では役に立たないかもしれないが、壁を登る事ができ、柔軟な体なら手の届かない場所や隙間に入って掃除するのに最適かもしれない。
最悪冒険者を辞めて、そちらの道でも生きていけるかもしれない。
女将さんとの会話の途中でシショーが『俺はル○バか!』といつもの謎のシショーワードを放っていたが、いつものようにスルーした。
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