第37話 おまけ① 出来の悪い弟子程可愛い師範代 クロロ=バイト=イヤー


 私は才能がある人、センスがある人が好きじゃないし好みではないですね。


 元々持たざる者だったせいなのか、才能ある人に嫉妬して妬んでいるのかもしれませんね。


 他の人からどのように私の事を思っているか評価されているかわかりませけどね。

 私は生まれつき足の長さも違う事や心臓が強くなった事もあって他の人が出来て当然、当たり前に出来る事が簡単には当たり前には出来ない、持たざる者側に所属していましたよ。


 たまたま居合い切りに出会って縮地のスキルを偶然取得して今の戦闘スタイルが確立しました。


 皆さん一概に才能豊かとかセンス抜群とか言っていいらっしゃいますけど、はたして才能というものをちゃんと理解してわかっているんでしょうか。


 才能があるというのは最適解にどれか短い時間、最小の労力で行けたかたどり着けるかという事ですよ。


 その最適解を掴める取得するのに長い時間と手間がかかる人と、瞬時に一瞬で済む人がいますね。

 だから極論時間さえ条件さえ揃えば、どんな人でもどんな凡人でも他の人ができた事はできるようになるんですよ。


 だだし残念ながら人は、そこまで出来ない事をやり続ける事ができない。

 途中で辞めるように、心が折れるように生まれ、設計されています。


 肉体、年齢、環境、様々ないいわけを積極的に探しだし、見つけ、クリエティブに作りだし辞めてしまう。


 だから私が弟子を取る時、何かを教えてもいいと思う人か価値があるか判断する時は今まで出来ない事をどれだけチャレンジしてきたか、無駄にあがいていたかを見る事にしています。


 できない事に時間と労力を捧げた事がある人の、持たざる者の持つ飢え、渇き、憧れ、執念というのは実に恐ろしい。


 持たざる者が何かを掴んだ時の成長、そしてその掴んだ物を離すまいとする握力、執着心は才能、センスがある人とはレベル、次元が違う。


 だから天才さんを見た時は宝物を掘り当てたと思いました。


 パーティーメンバーにおいて行かれも、冒険者を続け切れない刀を振るってひたすらゴブリンだけを殺し続けている。

 これはうまくいけば大化けすると思っていましたが、中々うまくいかないですね。

 

 遠くでジャグリングをしている天才さんを見ながら、この後どうすればいいのか悩んでいた。


「クロロ師範代、ご無沙汰しています」


「おやおや、これはこれは誰かとどなたかと思ったら愚直さんじゃないですか、失礼、失敬双盾さんでしたね」


「やめてください、今までの愚直でいいです」


 いつものにっこり笑っている日焼けしこんがり焼けたスキンヘッドの男は、元弟子で私から卒業したジーダだ。


 力もスピードもある身体能力が高い武道家で皆に期待されていたが、不器用で何をやらせてもうまくいかず私が拾い上げた。


 愚直さんは型稽古は得意だったが咄嗟の機転、応用、思考の瞬発力、柔軟性があまりないタイプで、相手が予想外の時にあたふたしてしまっていました。


 そこで盾を持たせ攻撃させず、守るガードするだけという選択肢を絞らせました。


 相手の攻撃に対して守るという事だけの精度、練度を著しく上げる事によってうまくいき、卒業させて最近二つ名を手に入れたみたいですね。


「聞きましたよ、そろそろ近々王都に行くみたいですね」


「はい、その前にご挨拶をしようと思って」


「そうですか、気をつけてください。

 王都は人々、ヒューマン達が集まる魔窟です。

 私なんかが可愛くみえるぐらいモンスター以上に獰猛な冒険者がうようよとわんさかいますから」


「いくら何でもそれはないでしょ。

 でもありがとうございます」


 律儀に私に別れの挨拶をしている。


 私の修行はどうやら苛烈で、何度か町を巡回していた衛兵達に通報された事もある。


 どこを見ているですかね、ちゃんと肉体と心が折れる一歩手前でしっかり止めているのですがどうやらそれがつらくトラウマになる事が多く、卒業した後でもちゃんと交流を持とうとする愚直さんみたいなタイプは珍しい。


「新弟子ですか?」


「そうです、天才さん、クライフさんです」


「クライフですか。

 すごいっすね、もうあれ路上でお金を貰えるレベルじゃないですか?」


 ナイフ、ボール、リンゴ、酒が入った瓶等の形状も重さも違うものを同時にジャグリングしている。


 様々な物、形、重心などを瞬時に理解する空間認知能力、処理する思考力の瞬発力は十二分にあるようです。


「そうですね愚直さんあれ苦手でしたからね。

 愚直さんが学びたがっていた私の歩術もマスターしましたよ」


「マジですか、すごいですねこれは期待できそうですね」


「それがですね、ただ誠に残念で遺憾ながら、そうでもないんですよ」


「なんでですか?」


「出来る事と出来ない事がはっきりしすぎて、才能のグラフがあるとしたらとがりすぎ歪すぎるんですよ。

 何かにはまれば成長し化けると思うんですけど中々見つけられず、うまくいきませんね。

 誠に申し訳ないですけど、未完のまま卒業して終わってしまうかもしれませんね」


「そうなんですか、師範代でもそんな事があるんですね」


 元弟子と共に天才さんを見つめる。

 とりあえず天才さんには申し訳ないので、今のままである程度稼げるよう生きて生きていけるように仕込むだけ仕込んどこう。


 

 結局天才さんの歪な形に合う、ピースが見つける事はできなかった。


 久しぶりに感じる挫折感、虚無感に酒を飲んでごまかす。


 石になったかのように動かなくなっていく体で、このまま死んでいくのかという悟りを得たかのような、穏やかで刺激の無い日々を過ごしていた。


 そう思っていた時、可愛らしい可憐な女子が弟子入りを志願しお願いしてきた。


 暇つぶしがてたら話を聞き、試しに動きを見たが生憎な事に才能、センスがあるタイプだ。


 これなら私の元にいなくても普通に成長できるだろうし、私の求める、好きなタイプではない。


 弟子入りを断ったにも関わらず、それからしつこく弟子入りを願う女子を無視し、相手にしなかった。


 ただある日、しつこく付きまとう女子を無視している時に気がついた。


 この女子は無理だと、無駄だと思う事に何年も続けているのではないか。


 そう考えると彼女も持たざる者が持つ力、握力も兼ね備えているのかもしれないと考えた。


 そこで試してみる事、試験をする事にした。


「何故私に弟子いりしたいのかね、学べる相手はいくらでもいるでしょ」


 この問いに私の想像を超える回答が来たら弟子入りを認めよう。


 ここで私を無駄に褒めたり、自分の不幸語りをして同情を引こうとしたら、力尽くで二度と私の前に現れないようにしよう。


「はじめて、人に興味を持ちました」


 全くもって予想外の回答だ。


 興味、はじめて?


 百万歩譲って私に惚れたとかならわかるが、この女子は今まで人に興味を持った事がないのか?


 成る程、つまりこの女子も中々歪で育てれば面白くなるかもしれない。


 そう言えば今までセンスなく、くすぶっている者しかろくに教えた事が無い。

 最後にセンスがあり才気溢れる者を育てた場合、どこまでできるかというのも面白いかもしれない。


 弟子入りさせてみると女子は予想通り、十を教えたら瞬時に八まで理解し、少しの反復で十以上できる女子だった。

 苦手な事が特になく、なんでもそつなくこなしてしまう。


 中々愉快で楽しい性格をしているがその反面、戦闘面では面白みがない。


 天才さんがいびつな形だとするとこの女子のグラフは綺麗なまん丸、なんの特徴もないのでシッソさんと名付ける事にした。


 何でも器用にこなすシッソさんに、何か苦手な物はないかと、刀を持たしてすぐに居合い切りを取得した時はあせった。

 

 まずいこのままだと、本当になんでもできるだけのつまらない者になってしまう。

 

 とりあえず剣と刀の二刀流という、私でもできない変わった剣術を取得させて無理矢理個性を出させた。

 

 天才さんと違う新たな悩みを感じていたが、最近になって良い傾向が見られた。

 

 どうやら、シッソさんも天才さんの特殊性に異質さ気づき良い刺激を貰っているようです。


 天才さんに居合い切りを躱されてから、新しいオリジナルの技を開発している。


 シッソさんの必殺技が形になりはじめた時、久しぶりに指名依頼が入りました。

 依頼人は冒険者ギルトと領主の連名だった。


「頼むぞクロロ」


「頼まれました、お任せを」


 馴染みのギルドマスターと打ち合わせをすませた。


 今回の依頼は東の森、浅瀬の調査だ。

 ちょうどいいのでレベッカを連れて行く事にしました。


 上級冒険者ばかりが森の深部から帰り道、東の森の浅瀬でいなくなる異変を町の領主様は軍を調査に向かわせ、それの一部が消息不明になったらしい。


 そこでこの老体に、指名依頼する事になったようだ。


 もし何かやばい事を見つけた場合、遊ばないですぐに救助依頼をするように、念入りにギルドマスターに言われた。


 確かに私の長年の勘も告げている、今回の依頼は中々やばそうで楽しめそうだと。


 久々に体がみなぎり、気合いがはいる。


 中々尻尾を見せないゴブリン達でしたが、それでもゴブリンの巣を見つかる事ができました。


 ゴブリンジェネラルを倒す所まではうまくいったんですが、まさかあそこで魔法を喰らい、持病で弱っている心臓が止まるとは思いませんでした。


 歳ですね耄碌しました、咄嗟に発動しようとした縮地のスキルが発動、実行されずに、もろに魔法を喰らってしまいました。


 それからゴブリンキングと契約されて、愚直さんと戦っていたぐらいは何となく覚えていますが、その後から記憶が途切れ途切れになっていますね。


 月を眺めている時、少しだけ意識が戻る事があります。


 おや、見知った顔だと思ったら私の弟子の未完の二人、天才さんとシッソさんじゃありませんか。


 二人が私のテリトリーに入り、自動的に体が動き戦いが始まった。


 居合い切りの斬撃を飛ばすシッソさんの攻撃を刀で捌く。


 居合い切りが上手になり成長を感じ取れるますが、それ以上にシッソさんの息づかいの少なさに変化を感じた。


 どうやら私と同じくアンデットになったようですね。


 ちゃんとオリジナリティーを確保して良かったですね、ちゃんと歪になってほっとしています。


 そして天才さんなんですかその戦い方は、普通の精霊使いにはならないと断言しましたがこれは想像をはるかに超えましたよ。


 死んだ後も楽しませてくれるのは中々良い弟子達ですね。


 ただ私は皆様がご存じの通り、ここで若者に道を譲るような、物わかりのいい聖人君子ではありません。



 最後に死んでも諦めない持たざる者だった私の、老害の恐ろしさを執念、醜悪さを教えてあげましょう。

 

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