第34話 親子対決


 ゴブリンキングとの戦いは思いの外、実に単調な戦いになっていた。


 ゴブリンキングは見た目通り力は強く、まともな攻撃を食らえば一発であの世に行く自信があったが幸いにもスピードは遅く、そして特別なスキルを持っていないのか近づいて殴ってくる事しかしない。


 ただこちらも遠距離攻撃がなくあの巨体にノコノコとと近づく勇気がわかず、ひたすら距離をとり続けた。

 精霊魔法の基本的技のバレットがないのが本当に辛い。


 ゴブリンキングは鬼ごっこに飽きたのか追いかけるのを辞めて、天井からぶら下っている鍾乳石を折り、振りかぶって恐ろしい早さで投げてきた。


 風切り音を立てながら迫ってくる鍾乳石を寸前で避ける事はできた。


 まともに食らえば自分が着ている安物の革の防具では防ぐ事ができない。

 

 それからゴブリンキングが鍾乳石を壊す→投げる→それを避ける→距離を取る→鍾乳石を壊す→投げる。これをひたすら続いていた


 ゴブリンキングの投擲を避け続ける事ができたのは、恐らく持っているゴブリン関連の称号の恩恵だろう。


 どの称号かわからないが称号の力でゴブリンキングの動きを先読みする事ができた。


 それにより圧倒的な強者相手に何とか生き繋ぐ事ができている。


 ゴブリンキングは中々攻撃が当たらない事に苛ついたのか、大きく吠えると近くにある大きな鍾乳石を折った。

 そして鍾乳石を大きく振りかぶって投げようとしている。


 投げてくる方向を予測し全力で逃げる。


 しかしゴブリンキングは自分の逃げる様を見てニヤリと笑った。


 ゴブリンキングは上投げで鍾乳石を投げる仕草をしたが、鍾乳石をまだ手に持っていた。

 そして強引に下投げで、自分の逃げている方向に向かって投げてきた。

 

 しまった称号の力に過信してしまい、フェイントにまんまとかかってしまった。

 

 手首の力だけで下投げした為、鍾乳石は今までよりもスピード感はなく軌道がフワッとしている。


 鍾乳石が挟まれないように飛び込み、何とか避ける事ができた。


 立ち上がろうと思った視線の先に先に大きな影が映る、見上げるとゴブリンキングと目が合った。

 ゴブリンキングが醜い笑みを浮かべ、叫びながら殴りかかってくる。



 突如間近で聞こえていたゴブリンキングの雄叫びが聞こえなくなった。

 慌てて立ち上がって逃げようと思うが体が重く、素早く動けない。


 

 いつの間にか静の間に入っていた。


 

 ゆっくりと向かってくるゴブリンキングの大きな拳を見ながら頭をフル稼働で働かせる。

 

 何とか立ち上がって避けられないか?

 いや難しそうだ、目の前までに来ている拳はどう動いても当たる未来しか見えない。

 

 ならいっそ刀で迎え撃つか。

 それは無理だ、力が違いすぎる。

 多少ダメージを与えられるだろうがゴブリンキングの拳を止める事はできそうない。

 間違いなく割を食うのは自分だ。


 着々とゴブリンキングの拳が迫ってくる中、冷静に状況を判断できた。 

 何故か死ぬ気が、ここで終わってしまうかもという焦りが一切湧いてこない。



 何かを忘れている、何かできる事は、何かスキルはないか?


 

 以前同じような窮地に出会わなかっただろうか?



 その時自分の中で、何かが一本の線で繋がるような感覚が走った。


「シークレットブーツ!!」


 考えがまとまるより先に大きな声を出していた。


 足の裏から出た土の塊が勢いよく体を押し出しゴブリンキングから離れていく。


 壁際まで飛んで、軽く頭を打ってしまった。


 後頭部に痛みを感じながらも、立ち上がりゴブリンキングを見つめる。


 王は突然自分がいなくなった事に目が点になって驚いている。


 そうか、妹弟子のレベッカに居合い斬りで襲われたあの時このスキルのおかげで逃げる事ができたのだ。

 多分あの時は、土の精霊の硬が勝手にスキルを発動してくれたのだろう。


 ただスタイルがよく見せられるだけのスキルと思い込んでいたシークレットブーツの思わぬ使い道に興奮してきた。


 軽くジャンプした後、足首を軽く曲げシークレットブーツを瞬間的に出し、すぐに解除する。

 土の塊に押し出され、イメージした場所へ高速で向かう事ができた。


 それを前後左右の方向で様々な長さで試してみる。


 足の裏を無理矢理押し出される感覚に慣れないが、うまく使えれば擬似的にクロロ師範代が使っていた「縮地」のスキルのように急加速して相手を翻弄する事ができる。


 思わず楽しくなってしまい、ゴブリンキングがいる事を忘れ何度も繰り返した。


 ゴブリンキングが今まで一番の音量で吠えてきた。


 遊んでいる、もしくは挑発でもしているように見えたのかもしれない。


 ゴブリンキングは再び天上にぶら下がっている鍾乳石を折り、こちらに向かって投げてくる。


 今まで通り避ける事もできたがシークレットブーツで急加速し、ゴブリンキングに近づく。

 

 そして隙だらけのゴブリンキングの脇腹目がけて刀を振るった。


 ゴブリンキングは初めて攻撃を受け、ギロリと怖い顔でこちらを睨んでいる。


 ゴブリンキングの巨体にはたいしてダメージを与えられていないかもしれない。

 それでも攻撃ができる、僅かだが生き残る希望が見えてきた。


 先程までの悲壮感はもう完全に無くなった。


 ようやくまともに勝負ができる。



 いや違う勝負ではない、これから行うのは狩りだ。



 毎日飽きる程やった、ルーティーンワークの一種だ。

 ゴブリン相手に自分が負ける訳がないのだ。



 ただいつもの狩りと違って、大声で少々大きいだけだと自分に言い聞かせた。


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