第29話 小鬼の巣窟
ゴブリンの巣は予想通り広く暗い、常に濡れた雑巾のようなゴブリンの匂いが充満している。
地面はボコボコしていて歩きづらく、ゴブリンはいないがネズミやゴキブリなどがわんさかいた。
慎重に歩いていると足元からパッキと何かが折れる音がした。
ゴブリンの残飯を踏んでしまったようだ。
よく見ると何かの骨を踏んでしまったようだ。
何の骨かは考えてはいけない。
この巣はゴブリンに慣れた自分でも不快で仕方がない。
暗闇の中を慎重に進む。
スキルの夜目を練習した成果なのか足元は何とかわかるが、1m先になるともう暗闇で何も見えない。
奇襲が得意なゴブリンが襲ってきたら対応のしようがない。
こちらもインザダークネスを使うが、暗闇の中で暮らすゴブリンにどこまで効果があるかはわからない。
あの大量のゴブリンが戻ってくるかもしれないし、早く師範代の元に行きたいがどうしても歩くスピードは遅くなってしまう。
『クライフ、降ろして』
慎重に歩いていると、シショーが突然鞄の中から念話を飛ばしてきた。
「ここでですか?」
『ここで私の出番だ!』
よくわからないが、言われた通りシショーを鞄から出した。
『よし、ここから先生が道を先導するよ』
「先導って、この暗さで見えるんですか?」
『スライムは目がないけど、体全体で見る事ができるんだよ。
どういう原理かわからないけど、暗かったりしてもあまり関係ないみたいだね。
ちなみに360度全方位で見れるから、後ろからの奇襲とかにも対応できると思うよ』
どうやって見えていると思っていたが、また一つスライムについて詳しくなった。
『最初は慣れなくてさぁ、ずっと酔っていたよ、何度も吐きそうになった。
何酔いっていうのかな? 3D酔いじゃないし、全方位酔いかな?』
『見えるぞ、私にも敵が見える!』
『邪眼の力を舐めるなよ!』
『見るんじゃない、感じるんだ』
シショーはわけのわからない事を連発している。
よくわからないが、シショーはこの状況下でも通常運転のようだ。
シショーに先導されながら、洞窟に残っているゴブリンに見つからないように少しずつ進む。
スライムの移動するスピードだが先程より早く、ストレスなく歩ける。
『クライフ、あそこ』
シショーに言われた方向を見ると、僅かに光が漏れている。
慎重に光の方へ進むと、歪な形の松明が壁にさしてあり、その近くの壁に両手を蔦で吊し無理矢理立たせられている人がいた。
鎧を着て腰に剣を二つ、いや違う剣と刀を一つずつ差している。
随分変わった武器の組み合わせだ。
武具と防具の統一感がないので、恐らく冒険者か傭兵だろう。
「え、レベッカ?」
鎧を着ているのを初めて見たので気がつかなかったが、間違いなくあの可憐な妹弟子のレベッカだ。
慌てて妹弟子の両腕の蔦を切る、倒れ込みそうになる妹弟子を慌てて抱える。
全く生気のない顔、そして鎧越しに伝わる冷たい感触が絶望を与える。
「…………センパイ?」
手の中で抱えている妹弟子が僅かに動く。
「レベッカ!
はぁ、良かった」
思わず深い息が出て全身の力が抜ける。
「クライフ先輩、何でここに?」
妹弟子の目の焦点が合っていない、まだ意識がはっきりしないようだ。
「クロロ師範代が救助依頼を出して」
「そうですか……いけない!
クロロ師範代を助けに行かないと!」
そう言うと妹弟子は起き上がり、自分の腕から抜けて走り出した。
「こっちです先輩、急ぎましょう!」
妹弟子が手招きしながら先導している、先程までぐったりしていたのが不思議なぐらい、キビキビ動けている。
「え、待って!」
落ち着いて色々聞きたいが、慌ててシショーを拾い上げて鞄にしまう。
暗闇の中、迷わず真っ直ぐに走るレベッカを見失わないように追いかける。
何かがおかしい、いや色々おかしい。
妹弟子を追いながら頭に疑問が湧き出てくる。
何故、妹弟子はこの暗闇の中で真っ直ぐに目的地に向かえるのか?
目に焦点が合っていなかったが、目覚めたばかりで混乱しているのか?
早く追いついて妹弟子を引き留めたいがなかなか追いつかない。
それに何か見逃している気がする。
何だ、このもやもやした感覚は?
この違和感は何だ?
あの部屋もおかしくないか、何で松明がついていたのだ?
暗闇を好むゴブリンがわざわざ松明をつける理由はなんだ。
洞窟の中で唯一松明がついてた。
あれじゃ妹弟子を見つけてくれと言っているようなものだ。
妹弟子の為につけたのか?
大体救助依頼はクロロ師範代が出したものだ。
ドワーフが別嬪な子と一緒と言っていたので、妹弟子のレベッカの事だと思っていた。
ただクロロ師範代がピンチで二度も救助を求めたくらいだ。
正直妹弟子は助かるのは難しいと思っていた。
ちょっと待て。
クロロ師範代が救助依頼?
二度も?
危機的状況とかトラブルが大好きなあの人が、助けて欲しいと二度も依頼するだろうか?
弟子のレベッカだけでも助けたかったのか?
あの人が死ぬ直前にそんな愁傷な気持ちを抱くだろうか?
全くイメージが湧かない。
救助依頼は何かのサインなのか?
「先輩、ここです」
考えが整理つかないまま、妹弟子に導かれた小さな部屋についた。
「レベッカ?」
先に部屋に入っていった妹弟子が見当たらない。
『クライフ後ろ!』
シショーの声と共に後頭部に衝撃が伝わり、前のめりに倒れた。
衝撃のせいで視界が薄れてゆく。
意識が無くなる最後に見たのは、無表情な妹弟子が鞘のついた剣を握っている姿だ。
そうだ、何で捕まっていたのに武器を持っているんだ…………。
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