第17話 閑話 失敗しても学ばないエルフ ルフト=エレノール
俺は失敗を気にしない男だ、なんか格好悪いな。
小さい事を気にしない、違うな。
失敗に挫けない男、よしこれでいこう。
どんな失敗かってまぁ色々だ、女性に手を出してはその旦那や恋人からぶん殴られるのも、女性同士が取っ組み合いの喧嘩をするのを止めるのも、女性が包丁を持って襲ってくるのもそこまで珍しい事ではない。
女性トラブルばかりではないかって?
トラブルってそういうもんだろ?
何か起きる度に町から町へと移動し、いつの間にか故郷が遥か遠いこの町までやってきてしまった。平均すると三年に一度は町を移動していると思う。
いつも今度こそは同じミスはしないと思うが、何故かいつの間にか荷造りを始めている。
だってさぁ、故郷から離れれば離れる程エルフが珍しいのか、ナンパの成功率がドンドン高くなるんだぜ、男なら行っちゃうだろ?
色々な町を転々としていると、ごくたまに昔の知り合いに出会う時がある。
再会という奴だがあまり好きな言葉ではない。こちらは覚えていないが、向こうは当時の恨みがあるのか怒鳴られたり、殴られたり、物を投げつけられたりとろくな事がない。
ただ最近再会したクロロとの時は幸いにも問題が起きなかった。
久しぶりに出会ったクロロは相変わらずのゴワゴワな髪をしている胡散臭そうな男だ。
黒髪から白髪に変わっただけなのですぐにわかった。
クロロとは彼がまだ無名時代に出会った。当時は小汚い胡散臭そうな男だなとしか思っていなかったし、お互いに名前を知っている程度の薄い関係だった。
可愛い女の子が一杯いる酒場で、クロロと酒を飲みながら近況を報告しあった。
クロロは冒険者としては引退し、故郷のこの町に戻って老後を楽しんでいるようだ。
この可愛い女の子のいる居酒屋のオーナーにもなって毎日飲んでいるらしい、いい余生を過ごしているよな。
女の子に目を奪われながらも酒を飲み、どうでもいい話をしているとふと思い出したようにクロロが紹介したい人がいると言われた。
女性ならいつでも歓迎なのだが、どうやらクロロが今育てている弟子で野郎らしい。
野郎に興味はなかったが刃物が使えない、刀使いでかなり変わっているとの事だ。変人クロロが言う変わり者という事に興味が湧いたので、一度会ってみる事にした。
会った最初の印象は落ち着いた真面目な青年だったが、何度か話すとクロロが言う普通ではない変わり者というのが徐々にわかり出した。
男はクライフと言って、他のヒューマンと明らかに違った。
エルフより群れとしての性質が高いヒューマンの割には人への興味とか関心がない、自分一人で世界が完結している変な男だ。
どうせ断るだろうと興味本位で酒を誘った所、二つ返事で来ると言った時は驚いた。
この男の行動パターンが全く読めない。
最初は友達もいなく、寂しいのだろうと思ったがそういう訳ではなさそうだ。周りの評判には気にせず、毎日休まずゴブリン狩りを行っている。飲みに誘ったらくるが、決して自分からは誘ってこない。生活は大変そうだが、辛そうではなかった。
よくわからないが、いつの間にかクライフとは飲み仲間になっていた。
性格は全く違うが、一緒に飲んでいると不思議とリラックスできた。
そんな変人クライフがある日アポなしで来やがった。
何でよりにもよって、ウォーシュ商会の女将のジュリアちゃんに理由を作って来て貰った時に来るのだ!
やはり鍵をかけるべきだったか?
鍵かけると警戒しちゃうからなぁ、ちくしょう!
怒りもあったが、途中からこの変人が尋ねにきた理由の方が気になり始めた。
酒を飲み進めても中々話をしないので仕方がないのでこちらから聞いてやった所、意を決したような顔をして精霊使いのなり方を教えて欲しいとぬかした。
何じゃそりゃ?
スライムを助けたらそのスライムが異邦人だ?
最初は腹がちぎれるかと思う程笑っていたが、最後の方はとうとう頭が逝っちまったかと疑ってしまった。
ただスライムのお師匠様とやらが鑑定を使った時はビビった。
精霊が見えないヒューマンであろうと周りに誰かいる時は、絶対使わなかった闇の精霊の事を知っていやがった。
エルフならまだしも精霊を見る事ができないヒューマンにばれようがない。
話半分だったが、精霊使いの素質があるかどうかテストしてやる事にした。
手っ取り早く精霊の種を植えてみる事にした。
正直絶対ヒューマンに埋まらないと思っていたのだが、予想以上に深く埋める事ができた。
クライフに言わなかったが、以前親戚の子に埋めた時の三倍以上種を埋める事ができた。
魔力の持って行かれ方からして恐らくもっと埋める土壌はあるが、自分の力では限界だった。
その日はクライフを疲れたと言って追い出したが、それからなんかモヤモヤした日がしばらく続いた。
ある日遠くで雨龍様が見えたので町長に伝えに行った。
町長の奥さんであるローラちゃんとの事はばれていないと思うが、緊張してしまった。
いつもより町長の言葉使いがやけに丁寧だったような気がして、逆にばれたのではないかと脂汗が出たが何事もなく戻る事ができた。
予測通り雨龍様がこられた大雨の日に、ずぶ濡れのクライフもやってきた。
珍しく興奮して最初何を言っているのか分からなかった。
落ち着かせると、精霊が見えたと騒いでいる。目を凝らすと確かに精霊の蕾が出ている。
才能があるとは思ったが、こんなに早くに蕾が出るとは思わなかった。
しかも上級の闇も芽吹いている。
上級種は最低十年は修行しないと出てこないはずなんだが。
とりあえず蕾から孵化させる為に儀式を行った。
またムカムカして来たが、精霊に失礼なのでしっかり孵化させる。
無事孵化し精霊が誕生し、同時に精霊使いのヒューマンも誕生してしまった。
まずかったかなと今更自分で思うが、まぁ精霊が決めた事だし大丈夫だろう。
とりあえず基礎だけ教えて追い出した。
一人になって店を閉めて、再びモヤモヤした気持ちを落ち着かせる。
何で俺はモヤモヤしているんだ?
しばらくモヤモヤした日が続いたがある時突然気づいた、俺はクライフに嫉妬しているんだ。
自分の何分の一しか生きていないヒューマンに嫉妬している。何十年下手したら百年近く湧いてこなかった感情なので理解するのが遅くなってしまった。
自分より才能のあるヒューマンはクロロを筆頭にたくさん見てきたが、嫉妬した事はなかった。まさかよりによってあの変人クライフに嫉妬する日が来るとは思わなかった。
一度自分の気持ちを認めてしまうと落ち着く事ができた。
いくら何でも覚えたての精霊使いにぞんざいな扱いをしてしまった。
謝るのも変だし、嫉妬したなんて絶対に言えない。
今度クライフが来た時はお詫びに精霊使いとしてキッチリ教えてやろうと決意した。
ただその決意は脆くも挫けたのはもう少し後の話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます