第9話 予期せぬ覚醒

 変な想像を膨らませていると、ごく一部の例外が脳裏をよぎった。


「あ~ただ聖職者や神殿騎士団は話が別です。神の望む性格であるべき、と考える人が多いので、自然と同じ性格の人ばかり集まります」


『神殿騎士団なんかあるんだ。

 でも組織のみんな同じ性格なのってちょっと気持ち悪くない?』


 シショーの言う通りで聖職者や神殿騎士は皆同じような性格をしているので、人によっては毛嫌いされる。

 特に自分が所属しているコレークの神殿騎士は、変人集団として有名で自分も苦手意識がある。


『宗教によって性格が違うという事は、仲のいい所、悪い所とかありそうだね』


「よくわかりましたね、所属によって仲の良い所と悪い所がありますよ。

 ラキシードとガバトなんかは仲が悪くて有名ですね」


 厳格なラキシードと自由を愛するガバトは、よくもめるという意味でラキガバという略語がある程仲が悪い。


『でも、宗教で仲が悪いのってやばくない? 

 最悪戦争とかにならないの?』


「所属間での戦争ですか?

 ないですよ、ただ昔はあったみたいですけど」


『何で無くなったの?』


「ちょっと待ってください、確かここにあったはず」


 ベッドの横にある引き出しから聖書を取りだした。

 中級以上の宿には大体聖書が備え付けてある。


「聖書によりますと、昔ヒューマンはモンスターが蔓延る中で肩身の狭い思いをしながら何とか生きていました。

 その中、ヒューマン達の願いの中で六人の神が生まれました」


 聖書を見ながらなるべく、重要な部分だけをかいつまんで説明してみる。


『へぇ~そこで生まれたという事は神がヒューマンを作ったわけじゃないんだ?』


 説明するのに慣れていないので、途中で止めないで欲しい。


「神がヒューマンをですか? 

 いえ確かヒューマンはどこか別の星からやってきたと言われていますね、この聖書には書いてなさそうなので詳しくはわかんないですが」


 聖書をめくって目次を見てみるが、ヒューマンの起源については明記がなさそうだ。


『おお、そっちか!』


 それ以外に何があるのだろうか、聞いてみたいが話がさらに脱線しそうなので話を戻す。


「六カ所の地域の人々はそれぞれの神に所属しました。

 そこで神の力により、ヒューマンはスキルや魔法を取得する事ができ、モンスターに対抗する事ができました」


『なるほど、神の恩恵で魔法やスキルを取得できたのか。

 誰もが神へ信仰する訳だ』


「はぁ、そうですか」


 うまく表現出来ないが、何かシショーの神への認識が違う気がする。


「神のおかげでモンスターに対抗できるようになり、人口が徐々に増えてきました。

 そのうち各宗教事にまとまり、国ができ神は地上を去りました。

 神がいなくなった後、時間がたつにつれて徐々に宗教を理由で争い始め、最終的に大きな戦争になりました。

 争いが激しくなったある時、今までと違い親と違う所属の子があちらこちらで生まれました。それを神の戒めとしたヒューマン達は、宗教間の戦争を禁止しました」


『なるほどね、昔は親と同じ所属だったけどそれからランダムになったんだ。

 神様って今は地上を干渉してこないの?』


「基本的には干渉しないみたいです。たまに神殿を通じて助言を頂く事や、神に直接呼ばれ聖地でお会いできるようです」


『ほぉ、この世界では会いに行ける神様がいらっしゃる訳か!』


「会いに行ける? 

 まぁそうですけど、会える人はかなり限られますよ。

 王族や貴族でもまず会えず、会う事ができるのは神殿騎士や司祭など宗教関係者だけですよ」


『そっか、いつか会ってみたいね。

 さっきさぁ、ヒューマン達と言っていたと思うけど、エルフとかは神が違うの?』


「種族事に神はそれぞれ違います、エルフにはエルフのドワーフにはドワーフの神がいます」


 エルフは神というより精霊の一番上の存在的なものが、ヒューマンでいう神に近いとルフトに説明されたがいまいち違いがわからなかった。


 それから、今度は逆にシショーの世界の神についても教えて貰った。

 シショーのいた世界は神を途中で変えてもいいし、神を信仰しない人達すらいる聞いた事も想像した事もない世界だ。


 改めてシショーが、異邦人であるという事を認識する事ができた。


 連絡版が気に入ったみたいで、シショーが絵などを書いて説明をしている。

 元教師らしく書いて人に説明するのが上手だった。


 シショーのいた異世界の話を聞きながら、酒が珍しく進んだ。


「あれ……目が霞むというかチカチカするな」


 二本目のワインが空になる頃、酔ってしまった所為なのか視界の一部に何かが写り時たま光って見える。

 何度か目を凝らすと、ぼやけていた物が徐々に鮮明になり球体状に見えてきた。


「シショーなんか動いていない、そことか。

 あ、消えた」


 色はかなり薄く途中で消えてしまう為、自信を持って言う事ができない。


『いや何も見えないけど、酔った?』


「そうかも知れないですね」


 確かに今日はシショーとの話が面白く、いつもより飲むペースが速かったかもしれない。


『わかった!』


 シショーが突然大きな声を出した。


「びっくりした、どうしたんですか?」


『それ、精霊だよ。クライフの指差している辺りを鑑定したら、精霊の蕾みだって!』


「精霊?」


 口にした瞬間にモヤがかかっていた何かが急に色が濃くなり、輪郭がはっきりした。


 光は自分の周りをくるくる回り、まるで喜びを表すように一通り踊った後、自分の胸元に吸い込まれ消えていった。


「光が……消えた」


『ちょっと待って……やっぱりおめでとう!

 精霊使いになっているよ』


「え、本当に?」


 何の努力もせずに精霊使いになった。


 全くという程達成感がない。絵本に描かれているような戦闘中とかに覚醒するのではなく、酒を飲んで寛いでいる時に願いがかなって良かったのだろうか、うっすら罪悪感すら感じた。



 今すぐルフトに話を聞きにいきたいが、夜も遅い為モヤモヤしたまま眠る事になった。


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