第8話 異世界の常識
一日ゴブリンを五匹狩る事を目標にしていたが、今日は倍の十匹も狩る事ができた。
記録更新に少し浮かれながら町に着くと、甲高い音で一定の間隔で五回鐘が鳴った。
「シショー、どうやら明日から雨龍様の日らしいですね」
今日は雲一つないが、どうやらもう雨龍様が来られる時期らしい。
『雨龍って何それ?』
「雨龍様を知らない?
そっか、異世界にはいないのか、各地に雨をお連れする龍です」
『雨を降らすドラゴンという事?』
「いえいえ、ドラゴンではなく龍です」
『どういう事、同じでしょ?』
シショーには龍とドラゴンが同じ認識らしい、まぁ外見は似ているから無理はないか。
「ドラゴンはモンスターの一種で、龍はドラゴンと違って、そこにいるけどヒューマンには見えない。
えっと何だっけ『界位』が違うとか言われていますけど」
界位は別の世界という意味だったと思うけれど、詳しく説明できる自信がない。
『神様という事?』
「いえ、神として崇めている種族もいるかもしれませんが、なんていうのかな」
『精霊みたいという事?』
「それです!」
シショーの的確な合いの手のおかげで何とか説明する事ができた。
「それで雨龍様が現れると、七日間ぐらいは雨が降り続けます。
毎年だいたいの時期が決まっていて、今年は明日からみたいですね」
『へぇ~ツユみたいだね』
ツユ?
また何を言っているかわからないが「そうですね」と適当に相槌を打つ。
雨龍様を見る事ができるのはエルフだけと言われている。
つまりこの知らせを伝えたのは町唯一のエルフ、ルフトだ。
七日間もの間、雨が降り続けるので仕事にも生活にも関わる為、雨龍様がいつ来られるか事前にわかるメリットは大きい。
あいつが町からギリギリ追放されないのは、これのおかげかもしれない。
雨龍様がこられる間、冒険者業は基本的にお休みだ。
雨龍様が現れると雨で視界が悪くなるのもあるが、モンスターが活発になるので危ないと言われている。
シショーとこれからどうするか相談し、とりあえず明日から休みなので今日はいつもより良い酒でも飲みながらまったりする事にした。
部屋でシショーと飲み始めていると、宿の亭主が頼んだつまみのチーズオムレツを持って来てくれた。
初めて食べたつまみだったが、あまりの美味しさにアルディア様に感謝を捧げた。
普段は所属も違うのでそこまで感謝を捧げる事はないが、このチーズオムレツは条件反射で感謝を捧げてしまう程のうまさだ。
『何これ、うま!』
どうやらシショーにも好評のようで、身体全体で美味しさを表現している。
随分食事にこだわりがあるようだけれど、もしかしてアルディア様に所属しているのだろうか?
「今更ですが、シショーはどの神に所属しているのですか?」
『どの神の所属って……信仰という事?』
「そうです、ちなみに自分はコレークに所属しています」
『ふむ、多分この世界にはいない宗教を信仰していたよ』
いつも聞いてもいない事をペラペラ喋るのに今回は歯切れが悪い。
「そうなんですか、異世界の神ですか」
『う~ん、両親と兄貴は結構真面目だったけど、自分は付き合い程度でしか一緒に教会とか行事ごとには行かなかったけどね』
「同じ教会と言う事は両親とお兄さんと同じ宗教なのですか、すごい偶然ですね」
家族四人、父親と母親と兄が同じ所属なのは結構珍しい。
確率で言うと1/6×1/6×1/6×1/6か?
異世界だから神がもっと少ないのか?
『偶然?
宗教って住んでいる地域、育ってきた環境とか親の教育で大体決まるでしょ?』
あれ、話が通じていない。
最近シショーが言うよく分からない言葉を「シショーワード」と勝手に名付けているが、それは出てきていないはずなのに話が噛み合っていない。
色々聞いてみると、どうやらシショーのいた世界ではどの神を信仰するか自分で選ぶらしい。
『信仰の自由はキホンテキジンケンの一つでしょ』とシショーワードを放っていた。
『ふ~んこっちの世界は、生まれた時にどの宗教になるかはランダムなんだ』
「ええ、誰もが六つの神の内どれかに所属する形になります」
『そっか、宗教を選ぶのではなく、既に選ばれているのかすごいな異世界は』
「そうですかね、勝手に神を決めて信仰する世界の方がすごいと思いますけど」
『なるほどね、そういう考え方もあるね。面白い、もっと教えてよ!』
「いいですよ、専攻といって神はそれぞれ属性の他に、志と大事にする物があります
属性 志 大事にする事 神名
山 平等 時間 神イズラ
海 勤勉 食、酒 神アルディア
砂漠 向上心 契約 神ラキシード
草原 自由 闘争、勝利 神ガバト
空 好奇心 名誉 神コレーク
森 自然体 家族 神ナギー
の六つです」
口頭では覚えるのが難しいと思い、連絡板を取り出してチョークで書き込み始める。
『お、クライフもコクバンを持っていたんだ!』
「コクバン?
連絡版の事ですか、冒険者の必須アイテムとまでは言わないですが便利ですからね」
自分みたいなぼっちの場合はほとんど使わないけれど、パーティーを組んでいる時にこれがあると作戦が伝えやすい。
『属性はいいとして、志と大事にする物って何?
違いが分からないんだけど』
「えっとですね、志は常に生きていく時の心がけみたいなものですかね。
大事にする事は何に一番価値を置いているかです」
『確かクライフはコレークって言ったよね?
あんまり好奇心と名誉を大事にしている感じはしないね』
連絡版を指しながらシショーが質問をしてきた。
「そこまで信仰熱心ではないので、あくまで所属しているだけです。
それぞれの神がどういうのを好むかというだけで、そうじゃなきゃ駄目という訳ではないんですよ」
『そうなんだ、神が好きなタイプみたいな感じ?』
「ざっくり言えばそういう感じですかね、所属によって人の性格が変わる訳ではありません。
ただ軽い偏見はありますよ、ガバトの負けず嫌いとかイズラの石頭とか色々あります」
『なるほど、要はケツエキガタ占いみたいなもんだな』
シショーが聞いた事のない恐ろしそうな占いを言い出した。
ケツエキって血の事だよね、血を使って占う邪法的な奴かな?
どうやら思っていたよりもシショーのいた世界は野蛮な場所なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます