第4話 意外な転職先
『了解~ちょっと待っててね!』
元気よく宣言した後、突然スライムがピタリと動きを止めた。
動かなくなるとその辺にいる普通のスライムに見える。
微動だにしないスライムを見つめていると、何か今までの事が嘘だったのか幻ではないかと思ってしまう。
『終了!
ごめん今鑑定が終わったから、もう少し待ってね、鑑定結果を読んで分析してみるから』
大きな声と共に再び『ふむふむ』とか『えー!』とか独り言を良いながら、スライムらしからぬ奇妙に動きをし始めた。
『結果発表ぉ~!』
突然頭の中に爆音が響いた。
「ちょっと、うるさい」
急に響いた大きな声に苦情を入れる。
反射的に耳を塞いだが、音は頭の中で出ている為全く意味がない。
『ごめん、ごめん。この台詞一度は言ってみたかったんだよね!
ほら意外と言うチャンスないじゃん』
何でこんな事言いたかったのだろうか、今まで一度も言ってみたいと思った事はない。
『結論から言うと君は間違いなくUR、素質があるのは間違いない。
ただ今のままだと、これ以上の成長は望めないのは分かっているよね?』
「……はい」
刃物との相性の事を言っていると思う、どうやら少しは信じてみてもいいみたいだ。
『君の今まで努力はすごいと思うよ、本当に尊敬に値する。
持論だけどね、どんな努力も無駄な努力はないと思っているんだ。
ただ努力すれば必ず実る訳ではない、というか期待通り実のならない方が多い。
そんなに世の中甘くない。
でもね、うまくいかなくても努力はいずれ直接的でなくても何か他で、間接的に生きてくるんだよ。
君の場合方向性を変えれば、今までの努力も生きてくると思うだよね』
「ありがとうございます」
元教師らしい素晴らしい台詞に素直にお礼を言った。
『そこで、提案です。転職しませんか?』
「転職ですか、冒険者を辞めるんですか?」
刃物との相性が悪いとわかった時点で、冒険者を辞める事は考えた。
しかし他に行く当てがないから冒険者になったので、辞めた所で行く当てがない。
『ごめん、ごめん言い方が悪かった。
そうだね、転職はゲーム的だったね。これから言う職業の中にも冒険者を辞めて転職できる職業もあるけど、正確に言うと冒険者を続けながら、戦闘スタイルを変えるというのが一番の言い方かな』
何がゲーム的なのかは分からないが、戦闘スタイルを変えるというのはとても魅力的な提案だ。念願だった木刀を主力したスタイルからようやく抜けられるかもしれない。
『では、発表します、せっかくだからランキング形式で発表したいのだけどいいかな?』
「別に構いませんけど」
『ではクライフ君の適正ランキングをカウントダウン!』
カウントダウンという言い方が妙に気持ち悪い。
スライムが体の一部をつきだしている、指のつもりか?
『第三位にテイマー職がランクイン!
先生をテイムしたから気づいていたかもしれないが、君はテイマーの能力、何かを使役する力がかなり高い。特にゴブリン等の妖精族、先生みたいなスライム族、そして最強と言われているドラゴン族との相性は抜群だ。
それ以外にも鳥類、昆虫類、哺乳類も高い適性を持っている。テイマーとして一流になれる素質を持っているのは間違いない』
スライムの言い方や揺れ方が気持ち悪いが、それがどうでもよくなる程の嬉しい情報だ。
テイマーは冒険者としては人気がないが、テイマーになればテイムモンスターを使った輸送業の仕事がいくらでもある。
冒険者を辞めても安定した生活が望めそうだ。
『ちなみに先生の声、正確には念話が聞こえるのは、テイマーとしてスライムの適正レベルが高いおかげだね』
この頭に響くのは念話というのか。ようやく謎が一つ減った。
『続いての適正ランキングをカウントダウン!
第二位に召喚士がランクイン!
さっきも言った通り君には使役の能力が高いが、それ以外にも魔術の素養も高い。
魔術をコントロールして、放出するセンスはないけど召喚なら問題なし。
君の馬鹿でかい魔力キャパシティーで扉さえ開いてしまえば、異界から必要な時にモンスターを呼んで使役するだけ。えさ代もかからないからテイマーよりコスパがいいね』
思いもしない職業が発表された、召喚士なんて使い手がいるのか?
最低限この町では聞いた事がない、王都に行けばいるかもしれない。
『ただし条件として、召喚士として導いてくれる人が見つかればという条件付きだよ。
これがネックになり二位になりました。
ちなみにネクロマンサーも同じくらい素質があるけど、これは召喚士より使い手はいないし色々リスクがありそうなのでランキングから除外しました』
スライムが恐ろしい事をさらっと言っている。
ネクロマンサーは見つかり次第、即逮捕、処刑だったと思う。
素質があるなんて不吉な事を聞きたくなかった。
『ランキング一位の前に、惜しくもランキングを逃した番外編を紹介します。
ランキング四位に鍛治士がランクイン!
君は刃物との相性が悪いのではなく、厳密に言うと刃物で何かを切るという行為が悪いのであって、刃物との相性はむしろいい。
君がその気になれば、今からでも一流の職人になれると思うよ。
ただ鍛治は下積みが長そうだから、メンテナンスとか趣味程度に留めといた方がいいかもね』
確かに刃物を手入れしたり、研いだりするのは嫌いじゃない。
あの何も他の事を考えずに無心になれる感じが好きだ。
『ちなみにアサシンとか、暗器使いとかもそれなりに素質高そうだけど、ネクロマンサーと同じくリスクが高そうなのでランク外になりました』
さらっとおまけ感覚で、やばい職業を続けて発表しないでくれ。
先程からやばそうな職業に適性がある自分の事を疑ってしまう。
『さぁいよいよランキング一位の発表です、一位は二位大きく離してのランクイン、転職すれば戦闘が激変するのは間違いなし!』
不覚にも興奮してきた。
全面的には信じる事ができないが、それでも何故か辻褄が合っているような感じがした。
話半分で聞いていたのに、いつの間にか前のめりで話を聞いている。
『それでは適正ランキングをカウントダウン!
第一位に精霊使いがランクイン!
おっめでとうございま~す』
「えっ」
興奮していて頭にたまっていた血が、一気に元の場所に戻る音が聞こえた気がした。
『今まで何故精霊使いにならなかったのか、不思議に思えるぐらい素質がある。
使役のセンス、魔法キャパシティーは抜群だし、精霊自体が魔法を唱えるから苦手な魔法をコントロールする必要性がない。
使い手も召喚士に比べれば多いみたいだし、一流になる可能性も大と言うか特大だ!
どうだい、精霊使いにならないかい?』
「…………精霊使い?」
『うむ、先生が一流の精霊使いになれる素質がある事を保証しよう!』
どうやら聞き間違いではないようだ。
「いや…………無理」
血が元に戻った反動なのか、気持ちが悪い。
『え、何で!』
断れる事を想定していなかったのか、スライムが全身を使って驚きを表している。
「だって……精霊使いはエルフだけがなれる、ヒューマンはなれない」
精霊使いはエルフ固有の職だ、誰もが知っている常識だ。
『え、え~!
で、でも、やっぱり間違いないって。
やってみよう精霊使い。先生ともう一度頑張ってみよう!』
あらゆる事が起きすぎて、もう脳が動かなくなってしまった。
どこで道を間違えたのだろうか?
スライムを助けて。
スライムとしゃべれて。
スライムが異邦者で。
スライムの鑑定を受けて。
スライムに精霊使いになるように言われる。
ただなされるがまま、スライムから思いつく限りの口説き文句を日が暮れるまで浴び続けた。
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