〜Ⅲ-Ⅱ〜『赤い悪魔』

建物の扉を開ける。

中は広い。

隅々まで手入れが行き届いている。

ユーリスはゆっくり先に進む。

そこに見えたのは、白衣を着た黒髪に青いインナーカラーのある髪を簡素に首の後ろで括った若い青年。

それから、ふわふわの長い銀髪で、アーモンド型の澄んだ緑色の瞳の男性。

右目には、眼帯が付いている。

その男性の隣に、長い黒髪の赤い瞳をした、見た目は男女どちらとも判別がつかない人物。


「?客人か?」


銀髪の男性がユーリス達に気付いて首を傾げる。

月宵が、テクテクと男性に近寄って手に乗せたハムスターを見せるが、男性は困ったように月宵に話しかける。


「月宵、うちには志那(しな)が居るから、ハムスターは飼えないぞ」

「………」


少し不服そうに月宵が男性を見つめる。

そこに、黒髪の人物が優しく諭すように言う。


「月宵、パパの言う事をちゃんと聞いてくれ」

「……わかった」


月宵は手に乗せたハムスターをそっと床に置く。

ハムスターは暫く辺りをうろうろしてから、壁にある小さな穴に潜り込み姿を消した。


―――――


ユーリスは目の前の光景をただ眺めるしか出来ない。

話しかけるタイミングがわからない。

そんなユーリスに、銀髪の男性が問いかける。


「何か俺に用事かな?」

「あ、はい…俺は『紫蛸の国』の王をしているユーリスといいます。…貴方は、エデン王で合っていますか?」


ユーリスの問いに、男性は頷く。


「ああ、確かに俺がエデンだ。…ユーリス王、噂には聞いている。双子で王をしていると」

「はい。…ただ、今は弟が居なくて俺が一人で国を統治しています」

「弟さんが居ない?」


エデンの反応に、ユーリスは少し引っかかりと確信を得る。


「弟は突然居なくなりました。まるで消失したかのように」

「…そうか、貴殿の国でも…」


エデンの言葉に、ユーリスは更に確信を得る。

今度はユーリスの方から、エデンに問いかける。


「この国でも、『人間の消失』が起きているのですか?」

「…そうだ。居なくなった人達のID情報から何かわからないかと、そこに居る月影(げつえい)という研究者に相談していたところだ」


エデンが、黒髪に青いインナーカラーの髪の青年を示す。

月影はユーリスに視線を向けてから、目の前の机に置かれたタブレットを見て口を開く。


「ID反応は何処にも無い。迷子とかなら、ID反応で直ぐにわかるように設定しているからな。だから、居なくなった人は『消失』したとしか考えられない。生きてるか、死んでるかもわからない」


眉間にシワを寄せながら、月影がタブレットを操作する。

しかし、タブレットは何も反応を示さない。

月影は小さく舌打ちする。


「…俺が知る限りの情報を伝えます、判断は各自にお任せしますが」


ユーリスは、今まで自分が集めてきた情報をエデン達に話した。


「『悪魔』の仕業、としか考えられないと…」

「はい。…何か知っている事があるなら教えて欲しいです」

「…正直、心当たりはある。恐らく俺が一時期『契約』していた奴なら何か知っているかもしれない」

「?エデン王は悪魔と契約した事が?」


ユーリスの問いに、エデンは少し思案してから答える。


「どうしても解決したかった問題があってな…今思えば血迷っていた、悪魔に願いを叶えて貰うなど、普通なら考え無いだろう」

「…エデン王は『代償』を?」

「払った。右目の眼球が『代償』だった」


エデンは、ポツポツと当時の事を語る。

エデンが召喚した『悪魔』は、例えるなら赤い色。

赤い長髪で、筋肉質で、ガタイがよくて長身。

性格はエデンからしたらかなり悪い。

唯我独尊、を形容したような『悪魔』。

自分勝手で、エデンの言う事を全く聞かなかった。

ただ、願いはちゃんと叶えてくれた、と。


「今、その『悪魔』が何処に居るか見当は付きませんか?」

「…世界は広いからな、正直わからない。…世界の情報を手に入れたいなら、『嵐の国』に行く事を進める。あの国は最先端の科学技術を誇るからな」

「『嵐の国』…貴重な情報ありがとうございます」


ユーリスはエデンに礼を言ってから、研究所を出て人気の無い場所を探してBlanに頼んだ。


「Blan、『嵐の国』に行きたい」

『わかった』


そうしてまた、ユーリスはBlanとワープする。

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