〜Ⅲ-Ⅰ〜『楽園』

Blanがユーリスを連れてワープした場所は、沢山の人々で賑わう『闇世界』の七大国の一つである『楽園(らくえん)』という名前の国だった。

『楽園』はその名前の通りに暮らす人々全員が『この国は素晴らしい楽園だ!』と認める程に豊かに発展している国である。


「…やっぱり王様には話を通しておくべきかな…『人間消失事件』がまさに世界規模で起きているって仮定するなら…」

『そうだな…頑張るしか無い』


因みにBlanは角を消す事で人間に化けている。

その姿もまた新鮮でいいな、とまた寄り道しそうになる思考を振り払うと、ユーリスは国の入り口に向かって歩き出した。


「初めまして、諸事情で少しこの国を視察したいんですが…」

「こりゃ珍しいお客様だなぁ、『紫蛸の国』の王様がわざわざ視察に来てくださるとは…ゆっくり観光もしていってくれよ!」


Blanは護衛人という立場で誤魔化し、警備兵に見送られながらユーリスは『楽園』に足を踏み入れた。


「ふわぁー……凄いな……」

『エデン王の努力の結晶だからな、調査といえじっくり観察出来るのは有り難い』


どこもかしこも幸せそうな人々ばかりで、感心するユーリスと、人間が幸せに暮らすのを間近で見れて嬉しそうにするBlan。

城下町は沢山のお店が立ち並び、美味しそうな料理屋の匂いも漂ってくる。


「お腹空きそう…」

『…別に我慢する必要は無いだろう』


Blanが苦笑しながらユーリスを見つめる。

それもそうか、とユーリスは国の真ん中にそびえ立つ城へ歩みを進めて行く。


「…ん?」


城の入り口付近で、ユーリスは足を止める。


『どうした?』

「いや…あの子供、確か王子じゃ無かったっけ?」


ユーリスが指差す先に居るのは、背中まで伸ばして綺麗に切り揃えられた黒髪に緑色の瞳の一人の子供。

近くにある花壇をじっと見つめているその子供こそ、『楽園』の王子の一人である月宵(つきよ)であった。

月宵は花壇を眺めているかと思えば、花壇に手を伸ばして何かを手に乗せ、テクテクとユーリス達に向かって歩いて来る。


「…?」

「………」


ユーリスが不思議そうに首を傾げると、月宵は何処かしらぽやんとした顔でユーリスを見上げ、そっと手を差し出してきた。

何だ?とユーリスが差し出された月宵の手を見ると、そこには一匹のハムスターが乗せられている。


「ハムスター…?」

「…最近…沢山増える。踏み潰さないように…気を付けてね…」

「あ、うん。…君、月宵王子だよね?」

「……そうだよ?」


ぽやぽやした雰囲気を出したまま、月宵はコクリと頷く。


「俺、『紫蛸の国』の王をしてるユーリスって言うんだけど…」

「………パパに用事?」

「うん、エデン王が今何をしてるかわかる?」

「…こっち…」


月宵はユーリスを案内するようにまたテクテクと歩き出す。

途中、幾度か道を走るハムスターを見かけながらひたすら月宵の後を付いて行くと、立派な研究所と思われる建物に辿り着いた。

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