〜Ⅱ-Ⅲ~理解

『っ〜〜…』


塞がれた唇から反射的に逃れようと身を捩るBlan。

だが、Blanの背には既にユーリスの腕が回されており、思うように身体が動かせない。

契約者を大切に扱うBlanからすれば、暴れて逃げる事も出来ない。


「、はぁ…ん、」

『っんぅ…っ』


暫く塞がれた唇が解放されたかと思えば、また角度を変えてユーリスが唇を塞いでくる。

強引にユーリスが舌を捩じ込み、Blanの口内を好き勝手に舐め回す。

互いの唾液が口内で混ざり合って、思わずそれを飲み込むしか無い。

飲み込み切れない唾液は口の端から流れ落ちる。

Blanは悪魔だから、呼吸が出来ずとも死ぬ事は無い。

しかし、呼吸出来ない苦しみはある。


『〜〜〜…っ、ん、ぅっ』

「………ん」


酸欠の苦しみにBlanの瞳に生理的な涙が溜まる。

それを見つめているユーリスの表情は、うっとりとBlanの反応を堪能しているかのように見える。

グイ、と身体が押し倒され、背後にあったベッドに身体の半分が沈む。

ユーリスの舌がBlanの上顎をなぞった時に、Blanはピクリと小さく身体を跳ねさせた。


――何だ、今の感覚は…


妙な感覚に思考回路が蝕まれ、何故かユーリスはしつこくそこを舐めてくる。

その度に、自然と身体が反応する。

じわじわと下腹部に熱が籠もり始め、その初めての感覚にBlanは戸惑う。


――熱い…


下腹部に籠もる熱はやがて形容し難い疼きに変わり、纏まらない思考を更に乱していく。

下腹部だけでなく頭にも熱が籠もる。

訳がわからないまま、Blanは次第に瞳を蕩けさせていた。

それを確認したユーリスは漸くBlanの唇から自分の唇を離す。

その瞬間に一筋の唾液の銀糸が視認出来、ふつりと切れたそれにBlanは本能的に物足りなさを感じた。

それが表情に出ていたのか、Blanを見つめるユーリスは何処か愉しそうな笑みを浮かべていた。


「…Blanって、本当に何もかも真っ白なんだね」

『………、』


ユーリスの言葉に何と返せばいいのかわからず、Blanはただ困惑と頭を蝕む熱に瞳を蕩けさせるしか出来ない。

真っ白な自分にユーリスを刻み込むような、そういう表現が当て嵌まる気がした。


「…本当可愛い。Blan……」

『っ、ユーリス、待ってくれ、』


ユーリスの手が何時の間にかBlanの下腹部に触れようとしている。

流石にここまでされたら先の展開がBlanにも認識出来て、慌ててBlanはユーリスを静止させようとする。


『ユーリスの願いはシェズを探し出す事だろう…?それを叶える前にこういう事をするのはシェズに申し訳ないと思わないのか…?』


熱い息を吐きながら、Blanはユーリスを見つめ問う。


「…じゃあ、願いが叶った後ならしてもいいの?」

『……、願いを叶えたら、俺は俺の居場所に帰らないと、』

「それって、時間制限付き?」

『………それは、』


じわじわと、ユーリスはBlanを追い詰める。

Blanを見つめ、ユーリスは言う。


「…俺は、ずっとBlanを求めてたよ。夢の中だけど、Blanがずっと欲しくて堪らなかった」

『………』


Blanの白い瞳に溜まった涙をそっと指で拭いながら、ユーリスはBlanに刻み込むように告げ続ける。


「ずっと欲しくて堪らなかったBlanが、今俺の前に居る。…我慢なんか出来ない、少なくとも願いが叶う頃までは我慢するけど」

『………』


黙ったままユーリスを見つめるBlanに、ユーリスは更に刻み込む。


「欲しくて苦しい。Blanは俺を苦しめたまま自分の世界に帰っちゃうの?」

『……ユーリス、』


戸惑うように白い瞳が揺れる。


「ねぇ、Blan…人間が好きなら、俺を苦しめないでよ。Blanの全てを俺に頂戴。くれないなら、俺は死んだ方がマシだよ」

『…狡い、ユーリス…』


Blanはボソボソと言葉を紡ぐ。


『ユーリスは狡い、その言葉まで出されたら、俺はユーリスに従うしか無いじゃないか』

「なら、くれるよね?」


ユーリスがじっとBlanの瞳を覗き込む。

否定は許さない、という強い意思がそこに見て取れた。

Blanは遂に、抵抗する意思を投げ出した。


『…ユーリスが望むなら』

「………言質は取ったからね。破ったら俺は死を選ぶよ?」

『、わかった…だから、今は辞めてくれないか?』

「…いいよ」


漸くユーリスはBlanを解放する。

Blanは深呼吸してから、改めてユーリスを見つめた。

ユーリスが見せた自分への想いや執着心。

これまで『そういう事』を知らなかった自分でさえ、今なら理解出来る。


『…ユーリス、一つだけ聞かせてくれないか?』

「何?」

『………ユーリスが俺に向けているものは、人間の世界でいう『恋愛感情』か?』


Blanの問いにユーリスはハッキリと答える。


「その通りだよ、Blan。…俺はBlanを『愛してる』」

『……そう、か』


何故か、心の中にストンと満ち足りた感覚をBlanは覚えた。


『…ユーリス』

「ん?」


ユーリスがBlanを見つめる。

暫し間をおいて、Blanは告げる。


『ユーリスの望みは、叶えるのは難しい。何故ならユーリスは人間で、俺は悪魔だからだ。…それでも、ユーリスは満足するのか?俺を満足させてくれるのか?』

「勿論。望みを叶える方法を俺は必ず見付け出すよ」

『………そうか』


ゆるゆると、Blanがユーリスに腕を伸ばす。

ユーリスは、(もう少し俺に身長があればなぁ…)と何処か場違いな事を考えながら、Blanの胸元に甘えるように頭を擦り付けた。

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