〜Ⅱ-Ⅱ〜白と紫

不意に、Blanが何かに反応したかのように見えた。

難しい顔をして、何かを探るように瞑想しているようにも見える。


「…Blan?どうしたの?」

『……駄目だ、逃した…』

「何を?」


悔しそうに唇を噛み締めるBlanを見つめる。

ああ、駄目だよ、血が出ちゃうよ。

あ、でも血が出たら、Blanの『血の味』を知れるかな?

心の中でそんな事を悶々とユーリスが考えていると、漸くBlanが口を開いた。


『今、地上に干渉していた悪魔の気配を感じたんだが…逃がしてしまった…』


何処かしょんぼりと肩を落とすBlan。

ユーリスは少し腕を伸ばしてBlanの頭を優しく撫ぜた。

Blanの白い瞳が、ユーリスを映す。


「地上に干渉って事は…やっぱり黒幕は悪魔なのかな…?」

『その可能性が高い』


まだ緩やかに頭を撫ぜながら、ユーリスはBlanの瞳をそっと覗き込む。

Blanは少し困惑してユーリスを見つめ返す。


『ユーリス…?』

「悪魔なら、Blanの方が有利だよね…でもやっぱり沢山居そうだし絞り込むの難しいかな…」


少し視線を下に向けてブツブツ呟くユーリスを、Blanはじっと見つめる。

紫。

視界に映るユーリスの柔らかそうな紫の髪に、Blanは何故か触れてみたい、と思うが直ぐに思考を切り替える。


(大切な契約者に対して、何を失礼な事をしようと考えたんだ、俺は……)


ユーリスは大切な契約者だ。

悪魔は主人を『契約』が終わるまで護り抜くものだ。

例え間違えても髪一本すら傷付けてはならない。

自分の鋭い爪で触れてしまったら、髪を傷めてしまう可能性がある。


「……Blan?」


ユーリスに呼ばれたBlanはハッとする。

ユーリスを見ると、不安げに自分を見つめている。


『…何でも無い、大丈夫だ』

「本当に?」


怪訝そうに見てくるユーリスの視線がチクチクして、Blanは困ったように忙しなく辺りに視線を向ける。


「Blan」

『…何だいユーリス?』


視界に映る、端正な顔と綺麗な瞳が、Blanの思考をじわじわと蝕んでいく。

見て、いたい。

心に溢れる初めての感覚。

Blanの白い頰に淡く朱が差す。


――それを見逃すユーリスでは無かった。


一瞬。

Blanの頰にユーリスの唇が触れた。

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