〜Ⅱ-Ⅰ〜悪魔と天使と神様と

「…いきなり呼んでも怪しく思われるかな」


右手の甲の魔法陣を見つめながらユーリスは独りごちる。

本当なら、直ぐにでも呼び出したい。

Blanに会いたい。

正直、シェズへの心配よりもBlanに会いたい気持ちが強い。

こんな自分は醜いだろうか、とユーリスは考え込む。


取り敢えず、残った仕事を片付けてしまおうとユーリスは黙々と執務を続ける。


――シェズ王が消えた――


その話はユーリスが仕事を終えてから国民全員に伝えた。

ユーリスの城の周りには人集りが出来、警備兵達がてんやわんやで人々を宥めている。

ユーリスは窓からそれを見下ろし、それから部屋の奥に向かい言葉を紡ぐ。


「Blan」

『何だいユーリス?』


Blanの名を呼んで直ぐに、ユーリスの目の前にBlanが現れる。

うっとりと見惚れてしまいそうになるが、ぐっと堪えてユーリスはBlanに今国で起きている『事件』について説明した。


『…ふむ…ユーリスの弟の消失も『事件』に関わる可能性が高い、というのがユーリスの見解かな?』

「…うん。だってそれ以外に説明がつかないし」


腕を組んで考え込むBlanの姿もカッコいいとユーリスはちらりとBlanに視線をやり、思う。


『『悪魔召喚』で召喚された悪魔達の居る場所は、人間のいう『地獄』に似たような場所でね、悪魔達は好き勝手にそこで過ごしているんだ』

「Blanも?」


ユーリスの問いに、Blanはちょっと間をおいて答える。


『俺は基本的、人間の世界に近い場所に居るな。そうしたら何時でも召喚に応じやすいから』


そのBlanの言葉に、ユーリスの心が嫉妬を覚えユーリスは無意識に不機嫌そうな顔をした。

そんなユーリスを見て、Blanは小首を傾げる。


『ユーリス?』

「…何でも無い、ごめん変な態度しちゃって」


ユーリスが慌てて取り繕うと、Blanは不思議そうに瞬きをしてユーリスを見つめる。


――ああ、そんな風に見ないで。


じわじわと身体が熱を持つ。

もっと、映りたい。

その澄み渡る白の綺麗な瞳に。

俺だけを、映して欲しい。

気付けば、ユーリスはBlanの髪を手に取り、手櫛で梳いていた。


『?何かついてるか?』

「いや…綺麗な髪だなぁって」


キョトンとユーリスの行動を観察していたBlanは、理解し難い、という風に首を傾げる。


『ユーリスは変わってるな』

「そう?」

『ああ、見ていて飽きない』


Blanのその言葉に、少し満たされた気持ちでユーリスはまた『事件』の事に話題を持ち替えた。


「悪魔が人間を攫ってく、とか…あるのかな?」

『…正直難しい質問だな…悪魔は大抵が人間を惑わせて愉しむものだから』

「……悪魔にとって人間との『契約』って何のメリットがあるの?」


ユーリスの質問に、Blanは暫し思案してから答える。


『悪魔としての『格』を上げる為、かな』

「『格』…?」


首を傾げるユーリスを見て、Blanはまた口を開く。


『悪魔社会にも上下関係があるからな、偉い悪魔程、貰えるものが多くなる』

「…貰えるものって何?」

『…余り俺は言いたくないんだが、人間の魂、だな。悪人の、だが。善人の魂は天使の管轄だからね』


天使も存在するのか、とユーリスはぼんやり考え、ふとした疑問を口にした。


「じゃあ神様って居る?」

『居ない』


断言するBlanに、ユーリスは少し目を見開く。

Blanは少し視線を上向け、呟くように言う。


『神様が居たら、産まれ落ちる前に死んでしまう魂は居ない』


そう言うBlanの瞳は、何処かしら悲しみを含んでいた。


「…じゃあBlanが俺の神様だ」

『?』


いきなり何を言い出すのか、とBlanがユーリスを見つめてくる。

その澄み渡る白の瞳を見つめ返しながら、ユーリスは言った。


「死ぬ運命だった俺を助けてくれたから、Blanは俺の神様」

『…ユーリス』


少し困惑に揺れるBlanの瞳を覗き込むように、ユーリスは微笑む。

Blanの頬が、ほんの少し赤みを帯びたように見えた。

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