〜Ⅰ-Ⅱ〜事件

「…リス。……ユーリス、朝だぞ、いい加減起きろ」


ベッドで眠る一人の青年を、顔立ちのよく似た青年が揺さぶり起こす。

双子だろうか。

揺さぶられる青年は、薄っすらと目を開ける。

同時に、深い溜息。


「…もっと寝ていたかったのに。シェズのせいでまた彼を眺める時間が短くなった…」

「相変わらず、あの『悪魔』とやらの夢を見たのかよ…つか、夢の中の悪魔に執着するお前が心配だわ」

「煩い。シェズは俺じゃ無いんだから俺の気持ちはわからないだろ」

「うわ酷。双子なんだからある程度わかり合えると思ってるんだけど」


夢から起こされた青年…ユーリスは、双子の弟のシェズを軽く睨め付けてからまた布団に潜ろうとする。

その布団をシェズが剥ぎ取る。

これが、ユーリスがある『夢』を見た時のやり取りだ。


「妄想かもしれないものに焦がれる兄貴を心配する弟の気持ちはわかってくれないのかよ…」

「これだけは譲れないよ。それに彼は妄想なんかじゃない」

「何で断言出来るんだよ…」


そのシェズの問いには答えず、ユーリスはベッドからのろのろと起き上がる。

寝間着から普段着に着替えて、軽く伸びをする。

シェズはそんなユーリスを眺めて小さく溜息を吐く。

この双子の兄は、ある『夢』を見た後の扱いが難しいのだ。


「兎に角。今日も仕事が沢山あるんだから、急げよ」

「…わかった」


ユーリスとシェズは『紫蛸(むらさきだこ)の国』を統治する双子の王である。

本来ならば国の為に早起きし、仕事を済ませるのが当たり前なのだが。

シェズの唯一の悩みは、『夢』を見た時の兄に仕事をさせる時の効率の悪さであった。


「ほら、仕事するぞ」

「…はいはい」


何処か上の空でシェズの後を付いて行くユーリスに、シェズはまた溜息を吐いた。


―――――


その日も、何時ものように執務室で仕事を続けていた。

何ら変わり無い日常。

ただ、何時もと異なるのは一枚の書類に記された『事件』だった。


「人がいきなり消える事件が相次いでる、だと」

「…信憑性は?」

「目撃情報が他にも寄せられてる」


その書類には、『突然家族が居なくなった』『突然友人が消えた』『突然近くに居た人が消えた』と記されていた。

その内容を訝しげに見るシェズに、ユーリスは言う。


「兎に角、先ずは調査をしないと」

「…そうだな」


ユーリス達は何人か配下を執務室に呼び出し、その『事件』の詳細を目撃者に詳しく聞くように指示した。


――その『事件』が、ユーリスの未来を左右する事に繋がるとはまだ知らないまま…

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