第3話

★ ★ ★



 パーティーの翌日。

 わたくしは普段通り、レッドダイヤモンド商会で事務作業をしていました。


 時々好奇の目を向けられているような気がしますが、一体どうしたのでしょうか。

 首元のネックレスに注目してもらえているのならありがたいことです。


 午前業務が終了したところで、レッドダイヤモンド商会へ駆け込んできたのは――


「シャーロット!!」


 わたくしの友人であるアイヴィー・ラッセル子爵令嬢でした。


 濃いめの金髪を流行の巻き髪にしているのですが、今日は、どことなく乱れています。

 アイヴィーは王立学院を卒業して、現在は夫人教育の最終段階。まもなく結婚を控えているところです。

 そんなアイヴィーが、突然どうしたのでしょうか。


「大丈夫ですのっ!?」


 ちょうど受付にいたわたくしへ、アイヴィーがいきなり詰め寄ってきました。


 大丈夫、とは?

 さっぱり訳が分かりません。

 わたくしが首をかしげていると、アイヴィーが令嬢らしからぬ仕草でまくしたてます。


「昨日のパーティーのことですわ! 挨拶しようと思ったらもうお帰りになったと聞いて、あたくしはいてもたってもいられなくて……」


 アイヴィーの、澄んだピンク色の瞳が潤んでいます。


「ごめんなさい、アイヴィー。あなたはノア様といらっしゃったし、お声がけするのも無粋かと思いましたの。それに、新しいビジネスを早く形にしたくてたまらなくて」

「……新しい、ビジネス?」


 今度はアイヴィーがきょとんとしました。


「……ジョシュア様のことが、ショックだったのではなくて?」

「ジョシュア様? 一体何のことかしら」


 アイヴィーはきょろきょろと辺りを見渡してから(アイヴィーが大声を出したおかげで、既にわたくしたちは注目の的ですが)わたくしへ耳打ちしてきます。


「ジョシュア様が、その……ヴァレンティナ王女と恋仲だという噂を聞いて……ショックを受けて悲しみに暮れているかと思っていましたのよ」

「まさか」


 わたくしは笑って答えます。


「むしろ、お似合いだと思いますわ」

「シャ、シャーロット……? あなたは何をおっしゃっているの……? しかも何故そんなにきらきらとお顔が輝いていらっしゃるの……?」


 アイヴィーの顔がみるみる青ざめていきます。

 わたくしはぐっと拳を握ってみせました。


「わたくし、全力でおふたりを応援するつもりです!! わたくしという恋の障害を乗り越えて幸せになっていただきたいですわ!!」


 そうすれば、わたくしもより一層、仕事に打ち込めますからね!


「……それに、早速申し込みましたの」

「何を?」

「ヴァレンティナ王女の公式ファンクラブですわ。わたくし、これからは騎士姫様を全力で応援します」

「公式? ファンクラブ?」


 アイヴィーが目を丸くしています。

 それから、真面目な表情に切り替わりました。


「お待ちください。その話、あたくしにも詳しく聞かせてくださるかしら」

「ええ、もちろんです。もしよろしければ、ランチをしながら話しませんか?」

「よろしくお願いしますわ」


 カフェテリアにて、わたくしは申し込みを終えたばかりの、ヴァレンティナ王女の公式ファンクラブ情報をアイヴィーへ説明するのでした。


「ありがとうございます。あたくしも早速申し込みをしますわ」

「えぇ、一緒に会員になりましょう♪」


 ……余談ですが。


 昨晩ひとりで帰宅したわたくしを見た家族の反応。

 お父様はいろんな意味で落胆していたようですが、お母様は。


【仕事一筋の人生も楽しいものよ。シャーロットの好きなようにしなさい♪】


 そう言って、笑っていました。


「ところでシャーロット。気になっていたんですが、そのネックレスは何の宝石なのかしら?」

「アイヴィー。それを訊いてもらえるのを、待っていたんです!」


 わたくしは、魔物の骨製アクセサリーについても熱く語ります。


「と、いうことですの」

「発想がシャーロットらしくてすてきですわ」


 アイヴィーがいっそう瞳を輝かせました。


 魔物の骨でできた美しいアクセサリーは、営業のおかげで貴族令嬢からの問い合わせが今日も届いています。

 まずは紹介制で購入できるようにして、希少性と話題性を高めます。

 そこから、貴族に憧れる平民の方々へ向けてセカンドラインを展開する予定です。

 事業計画はお父様に提出済。承認を得られたら、どんどん進めていきましょう。


 そろそろブランド名も決めないといけませんね!

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