第8話 雨

 今日は朝からずっと雨が降っていた。


 空は雨雲で覆われ鼠色。

 雨風は森の木々を叩き、枝葉を揺らす。


「暇だなー」


 ベッドの上で本を読んでいた私は本から、ふと窓を見つめて呟きます。


 雨は窓にぶつかり、流れ落ちます。たくさんの水滴が窓に付いています。

 水滴は雨に当てられ、弾かれたり、流れ落ちる水滴と合体して速度を上げて流れ落ちたりと様々。


 私は窓から本へと目を戻します。でも、すぐに読むのをやめてしまいます。


 元々外で遊ぶのが好きというわけではありませんが、なぜか家に閉じ込められているとなると心がむずむずします。

 好きな本もなぜだか今は読みたくありません。


 こういうときは隣のネネカのおうちに遊びに行くのですが、昨日から少し遠くの町へと出かけていてお留守です。帰ってくるのは明日とか。


 ミウのお家にでも行きましょうか? しかし、ミウのお家は少し遠いですし、わざわざ雨の中、傘さして遊びに行くというのもどうでしょうか?


 集会所ならここから近いですし、子供達がいるかもしれません。集会所は大人達が話し合いで集まるだけの施設ではなく、子供達の室内用のゲームや遊具のある施設でもあるのです。


「よし! 行ってみようかな?」


 私は自室を出て、階段を下りてリビングに。そこで母に集会所に向かうことを告げました。


「珍しいわね。あなたが雨の日に出かけるなんて」

「う〜ん。なんか今日は外に出たい気分なの」

「そう。出て行くなら、少し厚着の服を着ていきなさい」

「はーい」


 私は厚着のコートを羽織ります。


「行ってきまーす」

「気をつけてね」

「はーい」


 ピンク色の長靴と同じ色の傘をさして私は外に出ました。


 外はいつもより気温が低いです。厚着のコートを着て正解です。


 傘に雨が当たり、パラパラと音が生まれます。


 私は雨でぬかるんだ道を歩きます。

 ぐちゅぐちゅ、ぐにゅぐにゅしています。


 しっかり踏まないと転んでしまいます。特に下り坂は危険。


 集会所に着いて、ドアをノックしてからドアを開けます。本当は玄関口ではノックの必要はないのですが、つい体が反射的に動いてしまうのです。


 玄関には長靴がたくさんあります。しかし、ほとんどが大人のものばかり。

 これは誰も来ていないのかも。


 私は傘を傘立てに差し、長靴を脱いでスリッパを履きます。

 そして遊戯室を伺いました。やはり子供の姿はありません。


「あらセイラちゃん、どうしたの?」


 声をかけられて振り向くとサシャおばさんが後ろにいました。


「ううん。なんでもないよ」

「あら? 誰もいないわね」


 サシャおばさんは遊戯室を見て言いました。


「そうだ。おばさんとトランプゲームでもしましょうか?」

「ううん。ちょっと近くを寄っただけだから」


 私は両手を振ります。


「あら、そうなの」

「それじゃあ」


 と言って頭を下げ、そして私はそそくさと玄関へと向かいます。


 トランプゲームは嫌いではありません。


 でも、二人でするトランプゲームは面白くないのです。よくネネカと二人っきりで遊ぶので、そこのとこはよく知っています。


 二人だけのババ抜きなんて、自分がジョーカーを持っているとそれは相手に筒抜けだし、逆に持っていないなら相手が持っているということ。

 さらにジョーカー以外はカードを引き抜くとペア確定。二人だけなので頑張って避けつつも、最後にジョーカーを引くかもしれないのです。でもそれって、途中までのカード引きが不要なのではと思っちゃいます。


 7並べも二人だと、基本的に持っているカード枚数で、すでに勝敗は出てるし。


 神経衰弱も中々前に進みませんし。


 二人で楽しく遊べるトランプゲームはスピードくらいでしょうか。


  ◇ ◇ ◇


 外に出ると雨はまだ降っていました。


 私は傘をさして家に戻ります。


 それにしても誰もいないなんて不思議です。

 そりゃあ、雨だから人は少ないなと思っていましたが、まさかの0人。なぜでしょうか。


 私はドロドロの土の上を歩きます。


 家に着く頃には雨足は弱りました。家の前で私は雨が止むのを待ちました。少しして雨が止み、空には虹が現れました。


 綺麗な七色です。くっきりとした色です。私はこれをなんらかの形で残したくて、すぐに家に入り、父の部屋へ向かいます。


 目的の物を見つけ、私はまた外へ出ます。

 父の部屋から取ってきたのはカメラです。


 私は虹に向けてシャッターを切ります。


 家に戻ると母が、


「さっきのバタバタはあんた? 何? 忘れ物?」

「カメラを取りに」

「カメラ?」

「綺麗な虹が出てたので」

「そう。それより集会所は? 遊びに行ってたんじゃないの?」

「それが誰もいなかったの。大人はいたんだけど」

「…………ああ! そうだったわ!」


 母が思い出したかのように大きな声を出した。急なことで私はびっくり。


「今日は宝探しの打ち合わせがあったのよ!」

「……宝探し」


 宝探し、それはユーリヤの森のどこかに宝を隠して、子供達がヒントを頼りに宝を探すゲームです。


「そう。だから子供達はなるべく集会所には寄らせないようにだったわ」


 そして母は笑いました。


「もー! それ早く言ってよ。これじゃあ、私がこっそり宝の場所を盗み見みしようとしたみたいじゃない!」


 はっ!!


 もしかしてサシャおばさんが一緒に遊ぼうと誘ってきたのは私を宝探しの話し合いに近づかせないため?

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