第6話 いざ妖精界へ

 赤ん坊の頃、私は病弱だったらしい。それも相当な。早産や難病持ちとかでなく、ただ原因不明の死に直結する謎の虚弱体質だったらしい。


 それには母や親族達は驚いた。母に至ってはショックで倒れたとか。そして親族達は不思議に思った。一体この小さな体に何が起きているのかと。


 祖父と父は医者で、なんとか私を助けようと奮闘していたらしいが、私はみるみる弱まる一方だったらしい。それはもういつ死を受け入れてもおかしくはない状態だったとか。


 でもある日、私は回復した。それはもう電撃のような話で親族達はそれはもうありえない話だと驚いていた。


 そして当時のことを親族の大人達は冠婚葬祭、正月やお盆で会う度、よく私に話す。


 ある者は今でも信じられないような目で私を見つめ、またある者は奇跡だと称え、私に神秘的な何かを見出そうとしていた。


 でも赤ん坊の頃の話なので私は何も覚えてはいなし、私の反応を期待されても困るものだった。


 ただ一つ気になるのはそれらは親族からであり、親や祖父母からは聞いたことはない。勿論、私から問うときちんと答えてくれるがどこか淡白であった。


 一体助かる見込みのない赤ん坊がどのようにして助かったのか、それは私にも不思議であった。


 その謎が判明したのは物置部屋から腕輪を見つけた時だった。その腕輪に嵌められた宝石から謎のがあった。


 私は元々、普通とは違い質量とは別のを感じ取っていた。


 それは物心ついた時からずっとであった。

 そして周りと違うことに気付いたのは幼稚園に入った頃。4歳の時だ。


 おやつで同じ大きさのクラッカーを渡された時、私は重さが違うと感じた。大きさは同じでも乗っているフルーツが違っていた。大人や周りはそれで違う様に見えるのだろうと言う。


 でも私にはフルーツがどうのではなく、違う様に見えた。幼いながらも、なんとかそれを告げると皆は不思議がった。


 それが初めて私と皆で何かが違うと感じた時だ。


 次におかしいと感じたのは6歳の頃だ。

 お盆の時、コーヒーゼリーのおやつが出た。

 でも私には何か得体の知れない黒い重さを感じた。


 それを説明しようにも、周りからはコーヒーゼリーは黒いからそう感じるだの、私がコーヒーゼリーが嫌いだからそんなことを言うのだと馬鹿にする。


 結局、私は食べなかった。


 皆は私を変なやつだと言い、コーヒーゼリーを食べた。私の分のコーヒーゼリーは三つ上の従兄弟が食べた。


 そしてコーヒーゼリーを食べた皆は食あたりで倒れた。


 それから私は皆と違うと意識し始めた。それに気付いた母は私に周りと同じ様に生きること。そして人と違うことを言ってはいけないと私に強く叩き込んだ。


 私もなぜ他人と自分がどう違うのか分からないのが怖くもあり、母の言うことを素直に飲み込んだ。


 そして今年、私はあの腕輪を見つけたのだ。

 それは物置部屋に置いてあった謎の模様が彫られた小箱の中に入っていた。


 私は模様に興味を注がれたわけではなく、小箱から不思議な重さを感じのだ。小箱を開けると腕輪と地図、そして手紙が入ってました。


 手紙3枚あり、どれもみっしりと文章が書かれています。


 あまり読むのは苦手なのですが、ざっと目を通すと互いに交換した子はきちんと責任を持って育てること。お互いの子はそちら側にいる限り助かること。そしてもし私が大人になり、血の繋がりがないとバレたらチェンジリングのことを話すようにとのこと。最後に私がもし妖精界に来る気があるならばと、妖精界の地図とアイテムを残す旨が書かれていた。


 初めは知らない単語が多く、ちんぷんかんぷんだったけど、血の繋がりという単語が頭に強く残っていた。


 いや、どこかで理解していたのかもしれない。


 私は小箱を手に母に問いただした。しかし、母は劇の小道具だと言った。手紙の内容も出鱈目に書いたのだと。

 でも、母が昔、演劇やっていたなんて聞いたことがありません。


 実はショック内容であったこともあり、私は途中からはきちんと手紙を読めなかったのです。地図もぼんやりとしか覚えていません。


 確認のため私はもう一度、手紙を読みたかったのですが、小箱ごと母に没収され、さらにどこかへと隠されてしまったのです。


  ◇ ◇ ◇ 


 その後、私は父のタブレットを使い、ネットで手紙に書かれていた単語を調べました。


 まずはチェンジリング。


 チェンジリング、それは妖精が人間の子と自分の子を入れ替えること。もしくは人間の子を盗むこと。


 もうこれであの手紙の内容がわかりました。

 つまり私は妖精の子と入れ替えられたのでしょう。


 本来、私は妖精の子で人間界に。そして親の本当の子は妖精界に。


 ──でも、まさか? 本当に? 妖精界は本当にあるのか?


 次に私は妖精界を調べました。


 しかし、ネットでは妖精の住む世界だので具体的にどこにあるのかとは書かれていません。


 妖精界の次にユーリヤの森を調べました。

 けど、何もヒットしませんでした。


 その後、手紙に書かれていた本当の親の名前を検索しても無理でした。


 手詰まりです。やはり妖精界なんてないのでしょうか。私はぼんやりとタブレットを操作して画面を見ていると先程のチェンジリングで検索ページで指を止めました。チェンジリングの検索結果はたくさんあり、その中で「チェンジリングは責任回避」という文字に惹かれました。


 タップして私はそのホームページに入りました。そこには生まれた子が病弱であった場合、親の体に責任を向けられるため、それを回避するために妖精に取り替えられたという話が生まれたと書かれてあった。


「……病弱。でも、それってその病弱の子は妖精の子っこと? それとも戻ってきて病弱?」


 その問いは別のホームページにあった。なんでも取り替えられた子は妖精世界ですくすく育ち、取り替えられた子は早死になると。


「でも私は生きてるから? ……ううん? 一度妖精世界に行って戻ってきた? いや、手紙にはお互いの子は助かると書いてたはず」


 疑問を解決しようとする度、別の疑問が生まれる。一つ案に当て嵌めると問題があり、それを無くすために別の案を当て嵌めると先の案との間に矛盾が生まれる。


 手紙には互いに交換した子は育てるとあった。

 なら私は妖精。でも普通は妖精の子は人間界では生きられないとある。


「そもそも妖精界でなく妖精世界でしょ? もしくは別ってこと? それとも実際は全然違う? もしくは一部が違うの? ……ううん?」


 自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。頭がパンクして、破裂しそう。


「よし!」


 私は紙とペンを出して、考えを纏める。


「とにかく私は交換された子とする。そして本当の一ノ瀬凛は妖精界に。私は病弱だった。でもある日、突然回復した。それは……お互いの子が助かる……から」


 ……もしかして妖精の私も病弱だった?

 それで病弱の一ノ瀬凛と交換した。交換したわけはお互い子が助かるため。


 つまりチェンジリングは子供を助けるため。


 …………いやいや、チェンジリングについて、そんなことは書かれていない。


「でも、それが1番しっくりくる」


  ◇ ◇ ◇


 もう一度、あの手紙を読みたいのだが、母がどうやら別の場所に隠してしまったらしい。


 さらに私が父のタブレットで妖精、チェンジリングのことを調べたことがバレてしまった。そのことについて私はこっぴどく怒られた。


「もう! 何なのよ! 私はただ……真実を……本当の親について知りたいだけ……なのに」


 いえ、違います。

 私はチェンジリングがと信じたいのだ。


 取り替えられた?

 本当の親?

 妖精の子?


 そんなの全部嘘だと。

 嘘であると。


 それなのにどうして私はチェンジリングを求めるのか。

 私はかぶりを振る。


 少し頭を冷やそうかなと私は縁側に向かった。外の空気に触れれば少しは頭の靄も晴れるだろうと考えて。そして縁側で私は祖母が何か大きな白い布に包まれた長い何かとシャベルを持って庭へ入るのを見つけました。


 私は戸を開き、サンダルを履いて祖母の後ろを追いかけました。


 庭には生垣や松の木、梅の木、薔薇の木などの植物、そして岩のオブジェ、信楽焼の狸、蛙の石像、石灯籠などがあります。


 そして祖母は庭の奥にある薔薇の木で止まりました。

 私は生垣の後ろに屈み、祖母の動向を窺います。


 祖母は薔薇の木の前で土を掘ります。そして横長に掘った地面に白い布に包まれた長い何かを埋めます。


 土を被せて祖母はシャベルを持ってその場を去ります。

 少しの間じっとしてから、私は薔薇の木の前に向かいます。


 私は掘り返すと道具を持っていないので、片方のサンダルで地面を掘り返しました。するとすぐに祖母が埋めたものが出てきました。

 布を外してみるとそれは槍でした。


「本物?」


 先を指先でツンツンして、本物と確認しました。


「なんでこんなところに?」


 私は穴を見下ろすと、何かの一部が穴の隅に見えました。


 サンダルを使い、もっと掘ってみます。

 するとあの小箱が出てきたのです。


  ◇ ◇ ◇


 あれから私は小箱から手紙と地図だけを取って、今は自室で椅子に座り、机の上に手紙と地図を広げて読み取っています。


「……ええと、ここに穴があって、特定の時期に穴が緩くなって、そこから妖精界に行けると」


 よく分からないけど、あの槍と腕輪を使えば妖精界に行けるということは分かった。


「よし! 行ってみるか!」

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