第3話 虫干しと掃除
今日は
虫干しとは神殿内の神器や神具を外に出すことです。貴重品ゆえ虫干しは大人が担当し、子供達は境内の掃除を言いつけられます。
掃除は箒で境内を掃除する班と火バサミで枝木を取る班に別れます
私は箒で境内の祭殿を掃除する班にあてがわれました。
「まずは祭殿の最上段の舞台から掃除するよ」
班長であるセリーヌさんが命じます。
「うへー
チノが嫌そうな顔をします。
「文句言わない。行くよ。チノはちりとりも持ってきてね」
セリーヌさんが箒とゴミ箱を持って雛壇型の祭殿を上ります。
◇ ◇ ◇
普段、祭殿を上ることはないので最上段からの景色に驚きました。
「い、意外に……高いのね」
セイラが怯えて言います。
対してチノは、「絶景だな」と臆びもなく言います。
「ほら、掃除だよ。皆、ゴミを中央に集めて」
セリーヌさんの指示で私達はゴミを中央へとかき集めます。
◇ ◇ ◇
計八人の子供達がいるので最上段の舞台はすんなりとゴミを中央にかき集めました。
基本的にゴミは葉っぱや枝、虫の死骸です。
集めたゴミをちりとりに入れて、ゴミ箱へと移します。
「それじゃあ、次は段のゴミよ。一段一段集めるんでなく、ゴミを下の段へと落としなさい。ここにいる子はカエデ以外は分かってると思うけど、ゴミを大きく飛ばさないこと。箒をゴルフクラブのようにスイングしてゴミを飛ばすのは禁止だからね」
『はーい』
皆、元気よく返事します。
「本当に?」
セリーヌさんはチノに疑いの目を向けます。
「も、もう、しないよ」
「ならよし。それじゃあ、東西南北に二人一組で別けるよ」
◇ ◇ ◇
私はカエデと一緒に東側の段を箒で掃いています。
セリーヌさんは一度、ゴミ箱とちりとりを一つを持って祭殿を下りて、地面にゴミ箱とちりとりを置き、また最上段まで上って東西南北の段を見回りをして、落とし損ねたゴミを箒ともう一つのちりとりで拾っています。
「ふー、結構キツイわね」
カエデが額の汗を拭って言います。
祭殿は高く、そして敷地面積も広く、段も多いので箒で掃くのは一苦労です。
「こけないようにな」
上段にいるセリーヌさんが私達に向かって言います。
『はーい』
◇ ◇ ◇
地面まで落としたゴミは南の段前で集められます。
「うちらが一番だぜ」
とチノが誇らしげに言います。チノと一緒に西の段を担当していた子がうんうんと頷きます。
「どうして一番だって分かるのよ?」
カエデが聞きます。
「祭殿を下りた時、ちりとりを取りに行くついでに周りを見に行ったからな」
「そう言えば来てたね」
「だろ?」
「でも雑だったぞ。一番残しが多かったのはチノ達だからな」
セリーヌさんがチノ達の頭を小突きます。
『あ、いたっ!』
「きちんやらないと、もう一回上がらせるぞ」
セリーヌさんが凄んで言います。
『ご、ごめんなさい』
チノ達は縮み、すぐに謝ります。
「……まったく。それじゃあ、皆、集めたゴミをちりとりでゴミ箱に入れてね」
◇ ◇ ◇
ゴミ掃除の後は皆で食事です。皆と言っても全ての森の住民と一緒ではありせん。各々の森で別れての食事です。ただ長老や一部大人達は社務所で食事だそうです。
私達はユーリヤの森の集会所で食事となっています。
「何かな? 何かな?」
チノがワクワクしながら言います。
「この前と同じじゃない?」
「この前って?」
「カエデの歓迎会よ」
「ああ! ……あん時か。どんなんだっけ? 憶えてないや」
チノはどこか白々しく明後日を見て言います。
「ハンバーグをあげたでしょ?」
「そうだっけ? いやあ、忘れたなー」
「どうして?」
カエデが聞きます。その問いに、
「……怒られたから」
と、ネネカが答えます。
「ネネカ!」
「ああ! そう言えば人間界に行きたいかで怒られてたわね」
「ううっ、もう忘れろよ」
チノが情けない声を出します。チノにとって恥ずかしい思い出なのでしょう。
「今、思うと何であんなに怒ったのか分かるわね」
カエデがうんうんと頷きます。
「さっさと集会所行くぞ」
耐え切れなくチノが集会所へと駆け足で向かいます。
◇ ◇ ◇
集会所に着き、ドアを開けると食指を動かす香りが。それを嗅ぐと無意識に口の中で唾液がいっぱい。
掃除でたくさん体力を使ったので食欲はあります。
「おお!」
セイラが用意された食事を見て感嘆の声を出します。
「やっと来た。早く集まれよ!」
チノが早くと手招きします。
どうやら皆が集まってから食事が集まるのでしょう。
私達子供が集まると食事が始まりました。
大人達はまだ集まっていませんが子供達は先にということで私達は食事を始めます。
…………なんか視線を感じます。
その視線を探すとセリーヌがこちらに羨ましそうに見てました。
私と目が合うとセリーヌさんは顔を背けます。
そこへネネカのお母さんがセリーヌさんに寄ります。そして私達の方へ手を差し向け、あれこれセリーヌさんに言っています。それにセリーヌさんは手と顔を横に振っています。
さらに私の母が子供達のテーブルに食事の乗った皿を置きます。そしてセリーヌを呼びます。
セリーヌさんは私達のテーブルに来て母に、
「なんかすみません。私だけ先に」
「いいのよ。子供達の面倒を見てくれたんだから」
そして私達はセリーヌさんを含めて食事をしました。
「おいしいな。この
セリーヌさんがイタリアンを食べて、私に感想を言います。
「……イタリアンですよ」
「え? ナポリタンだろ?」
「……」
私は隣のセイラに「イタリアンだよね?」と尋ねます。
セイラは頷きましたがチノが、「ナポリタンだろ」と言います。
けれどカエデが「イタリアン」と言い、他の子も頷きます。
しかし、頷いたのは一部で残りはナポリタン派でした。
「どっちなんだ?」
セリーヌさんが丁度、集会所に入ってきたスピカお姉さんを呼び、「これ何て呼ぶ?」とイタリアンを指して聞きます。
「イタリアンでは?」
「ナポリタンじゃないのか?」
「ああ! 確かに時々ナポリタンとも呼びますね」
「おいおい、どっちなんだよ」
そこでネネカが手を挙げ、
「この料理は日本では西がイタリアンで東がナポリタンと呼ぶ」
『へえー』
「というかこれ、人間界もとい日本の料理なのか。ネネカは色んなこと知ってるな」
セリーヌさんが手を叩き褒めると、周りの子達も一緒に手を叩きました。
『すごーい』
「お、親が人間界の研究者だから……」
ネネカは珍しく恥ずかしがりました。
「ネネカ、顔がナポリタンみたいになってるぞ」
とチノが笑います。
「もーうるさい!」
これまた珍しくネネカが怒ります。
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