第2話 風邪

 風邪をひきました。


 思い返すと最初の異変は昨夜の口の奥に違和感を感じた時からでしょう。


 口の奥に何かがくっついたかのような違和感があったのです。舌の奥でこすり付けても何もありません。気のせいかなと思い、その日は深く考えず寝ました。そして朝になると口の奥と喉が痛かったのです。


  ◇ ◇ ◇


 ベッドから降り立つと体が変にだるいです。体を動かすのも億劫です。


 先日のパークゴルフの筋肉痛かな? にしてはおかしいような。痛いというより怠いです。


 あと口の奥や喉が痛いのは何故でしょう。


 いつもはなんともない階段も今日は鬱陶しく感じます。


「ふう〜、ケホケホッ」


 階段を下りて一息すると咳が。

 じっとしているとなんか足の付け根がむずむずします。

 そこへ母がやってきました。


「ミウ、どうしたの? トイレ? お父さん、先に入っちゃったの……って! アンタ、顔赤いわよ!」


 母が私の額に手を当てます。


「あら熱いわ」

「そうかな?」


 私は頬に手を当てます。

 あ、本当だ。熱い。


「これは風邪かしら?」

「そういえば喉も痛い。ケホッ」

「咳もあるわね。これは診療所へ行かないとね。その前に体温を測らないとね」


 母が体温計を棚から取ってきて私に、


「スイッチを押して、腋に挟むの」

「それくらい知ってる」


 体温計を受け取って、スイッチを押して腋に挟みます。挟んで1分弱でピピッと音が鳴りました。

 取り出して確認。画面には38.4℃と。


「どうだった?」


 私は体温計を母に渡します。


「38.4℃。あらあら、これはもう風邪ね」


 その後、私と母は森の診療所に。先生に診てもらうとやはり風邪と診断されました。


  ◇ ◇ ◇


 それから1日経って今日、風邪も大分だいぶ治りました。体温計で体温を測ると微熱でした。

 でも安静にということでベッドに寝かされています。


「こんにちはー」


 と外から声が聞こえてきました。

 この声はセイラでしょうか。


 ドアを開ける音、母が応対している声が聞こえます。


 耳を澄ませて二人の声を聞き取ります。

 どうやらセイラは見舞いに来たようです。

 それから「お邪魔します」とセイラが家に入ったのを確認しました。


 私は上半身を起き上がらさせ、手櫛で髪を整えます。

 ドアがノックされました。


「はーい」


 母がまず部屋に入ってきました。


「セイラちゃんが見舞いに来たわよ」


 そして母に続いてセイラがなぜかおずおずと入室します。


「こんにちはミウ」

「うん、こんちにちは。お見舞いありがとう。といっても風邪なんだけどね」


 私は肩をすくめて言います。

 そして母が部屋を出て二人っきりになります。

 しかし、どうしてかセイラは俯いています。


「どうしたの?」

「……その、ごめんね」

「どういうこと?」

「私が移したんだよね? この前、風邪ひいて、それでミウ達に」

「そんなこと……ないよ」


 けれど言われて今、セイラのお見舞いで移された可能性がと考えちゃいました。


「ネネカも風邪になったし」

「ネネカも!?」

「うん。一昨日から風邪だって。昨日、お見舞いに行ったときは微熱だった」


 一昨日はパークゴルフの日です。そう言えばギャラリーにはいなかった。なるほど風邪をひいていたのね。


「もしセイラのせいならネネカと同じ日に風邪になるでしょ? でも私は昨日からだから、決してセイラからというわけでもないでしょ?」

「そうなの……かな?」

「そうだよ」


 私はセイラを安心させるためニッとみを向けます。

 しかし、まだセイラの顔は暗いです。


「ほらこれ見て、この前のパークゴルフ大会で特別賞貰ったんだよ」


 話題を変えようと私はベッドから降りて壁に飾られた表彰状をセイラに見せます。


「聞いたよ。ホールインワンだってね。……でもパークゴルフも私のせいで」

「もー。せいじゃなくておかげ。お・か・げ。セイラが風邪ひいたから私が参加できて、特別賞を取れたんだよ」

「そ……そう?」

「そうよ」


 と言葉を投げたのは私ではなく母でした。セイラも私も突然の声にびっくりしました。


 母は茶菓子をお盆に載せて戻ってきてたのです。そしてお盆をテーブルに置き、


「それに風邪を移される方にも問題があったのよ」

「え?」


 思わぬ言葉に私は疑問の声を漏らしました。


「本当はお見舞いはよしなさいって言ったのに大丈夫って言って言うことを聞かなかったんだから。それにパークゴルフ大会の後、汗かいてたのに、すぐにお風呂に入らなかったのよ」

「うっ!」

「だから気にしなくていいからね」


 と母はセイラの頭を撫でました。


「ほらミウ、セイラちゃんが手土産にゼリーを持ってきてくれたわ」

「ありがとうセイラ」

「お口にあえば良いのだけど」


 セイラは気恥ずかしく笑いました。


「そうだ。これも紙袋に入っていたんだけど」


 と母が封筒をセイラに見せます。


「それは父がパークゴルフ大会の時に写した写真だって」


 母は封筒を開けて写真を見ます。

 そして吹きました。


「何?」

「これよ」


 と母は写真をテーブルの上に並べます。


「にゃ!」と私は驚き、セイラは「ほへー」と声を出して興味深く写真を覗き込みます。


 その写真は全て私が写ったもの。

 ホールインワンを取ったけど……それ以外は。


「すごい顔だね。ミウ」

「うっ!」


 それは私がガチガチで緊張してた時の顔。


「これは練習?」


 別の写真を見てセイラが聞きます。


「空振りよ」


 私の代わりに母がおかしそうに答えます。


「これとかも面白いわね」

「やーめーてー」

「アハハハ。良い写真ね。生き生きしてるわ」

「もー!」


 笑う母を私は赤面して睨みます。

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