妖精少女物語・番外編
赤城ハル
第1話 パークゴルフ
「次、ミウちゃん、どうぞ」
「は、はい」
私はボールを打ちにクラブを持って所定の打席へ向かいます。
今日はカンナ村主催のパークゴルフ大会に参加しています。参加者は村と近隣の森の住民からそれぞれ2名。全部で3ホール。私はユーリヤの森から子供部門の代表として参加しています。いえ、
本来はセイラが参加する予定だったのですが、昨日から風邪で寝込んでしまい、私が代わりに参加するということになったのです。
「一巡目ラストはユーリヤの森代表のミウちゃんです」
司会者が拡声器を使って私を紹介します。
『ミウー、いけー、頑張れー』
少し離れたギャラリーから声援がかけられます。
私はぎこちない笑顔で手を振り、そして打席へ進みます。
「大丈夫か?」
私と同じユーリヤの森から代表として参加しているチノが言葉をかけます。
私は振り向かず、「大丈夫!」と返事をします。
でも本当はガチガチに緊張しています。
打席に立ち、クラブをボールに触れないよう構えます。パークゴルフはゴルフ白くてボコボコした玉ではなく、手の平サイズの赤色のボールです。しかも妖精界特注で軽くて飛びやすい仕様となっています。
「どうぞ」
と進行担当の方が言うので私は二、三回横へクラブをぶらぶら動かして、
「えい!」
おもいっきりスイングしてボールを打ちます。
ボールは弧を描き、右斜め五メートルほど飛び、そしてバウンドして最後はコロコロと転がります。
「うう!」
ボールが止まってギャラリーからパチパチと慰めの拍手が。
凡打だー。
恥ずかしい。
司会者が、
「距離にして十メートル弱」
と告げるとまたギャラリーから拍手が。
そして進行の方が、
「もう一回あそこから打って」
あまりにも凡打だったので連続で打つように言われました。
十メートル先のボールへ向かい、もう一度フルスイングして飛ばします。
またしても凡打でしたがなんとか一巡目の皆が飛ばした距離までボールが飛びました。
そして私達はコースの奥へと動きます。
「何やってんだよ」
チノが呆れて言います。
「う、うるさいわね。パークゴルフなんてあんまりやったことないんだから」
三回ほどパークゴルフは経験はしています。
しかし、一回目は幼少期で記憶にありません。母曰く庭でパターを使ったもので、最終的には私は手でボールをカップに入れてたとか。
そして二回目と三回目はちっちゃいエリアでのパークゴルフでした。クラブも本物でなくおもちゃでした。
だから本格的なパークゴルフはこれが初めてです。
ではなぜ私がと思われるでしょう。
それはパークゴルフ経験数がユーリヤの森の子供達の中で3番目に多かったからです。
上手とか関係なしに経験数ですよ。しかも実質二回なのに三回扱いされて。
これも全部母が思い出話をしたせいです。
「ではチノちゃんから」
と進行の方が告げ、
「私のをしっかり見てな!」
と言ってチノは打席に向かいます。
チノはしっかりとした立ち振る舞いで打席に立ちます。
そして見事なスイングでボールを飛ばしました。
『おお!』
ギャラリーから歓声が上がります。
悔しいですが上手です。
「見たか?」
「ああ、うん。ナイスショットね」
私はそっぽを向いて拍手します。
「でも、やっぱカンナ村のには勝てねえな」
「チノでも無理?」
カンナ村からは11歳の子と10歳の子が参加しています。その双方は群を抜いて上手なのです。
飛距離も方向もしっかりしています。
「運が味方をしてくれないと無理だな。……っと次はお前の番だぞ」
「あ、うん。行ってくる」
「肩の力抜けよー」
「わかってる」
◇ ◇ ◇
1ホール目は9打。2ホール目は少し慣れてきて7打が私の成績でした。ゴルフには成績をパーとかイーグルとか、そういう言い方があるそうですが子供ということで打数で表現されています。
チノはどちらも6打で、トップは村の子で1ホール目は3打、2ホール目は4打という好成績です。次点でククルの森の子がトップをなんとか追いかけています。
そして最終ホール。
風が強く後ろから吹き荒れ、髪が前へ流されるます。
「これどうするの?」
私は誰ともなしに聞きました。
「続行だろ? 風だけなんだし」
とチノが答えます。
「まじかー」
最終ホールは傾斜の緩い丘の上からの出発で、バンカーや池があります。先程までの前へ飛ばせば良いと言うホールとは違います。完全に大人向けのホールです。
「では最終ホール、始めまーす」
と司会者が声高に宣言します。それは最終ホールだからではなく風に声が打ち消されないようになのでしょう。
ギャラリーから歓声と拍手が放たれます。
そしてトップ成績の子から打ち始めました。
皆、トップの子がどう打つのか興味津々です。
しかし──。
「おおーと、これはOBだ! 風に持って行かれた!」
◇ ◇ ◇
今回は強風のせいかOBばっかです。
「天高く狙え」
と打ち終えたチノがはるか上空を指を差します。
「あんな高く飛ばせないわよ」
「ここは丘の上でホールから高いから出来るって」
「そう?」
「次、ミウちゃん」
進行の方が私を呼びます。
「はい」
私は打席へと向かいます。風が私の髪をなびかせます。
風が本当に強いです。じっとしてたらボール勝手に転がるのではというくらい強いです。
「早く打つようにね」
進行の方はボールを押さえて言います。
「はい」
私が打席に立ち、返事をすると進行の方はボールを離して、その場からすぐに離れます。
「どうぞ」
その言葉に私は頷き、大きくスイングしてボールを天高く飛ばします。
天高く。
上空に。
……。
…………。
「上は上でも
後ろでチノがヤジを飛ばします。
それも仕方ないでしょう。私が打ったボールはほぼ真上に
「これは高く飛びましたねー」
司会者も少し呆れ気味。
「OBにはなりませんけど……お、上空で前方へと進んでますね」
私が飛ばしたボールは落ちることなく、上空で前へと進み始めました。
「あー、これはー、風に流されていますねー。…………まだ落ちませんねー」
最終ホールにいる全員が手で
そしてボールはゆっくりと落下し始めました。
「やっと落ち始めましたね。……これは結構な飛距離がありますね。池に落ちちゃいます? あ、いえ、落ちません! グリーンに乗りますかね? あ、乗った! 乗りました! あっ! ピンへと転がってます。どんどん近付いています」
司会の方は双眼鏡を使っていますが私やギャラリーは目視なので、ここからでは小さい点となったボールがグリーンに乗ったぐらいしか
ただ司会者の声色ですごいことになっているのは理解できます。
「転がって、転がって、おっ! おお!」
一際大きな声で私達は司会者に注視します。
どうなったの?
もしかして?
え? 嘘?
淡い期待を持って司会者の言葉を待ちます。
誰かが唾を飲む音が聞こえました。
「は、は、入りました! ホールインワンです」
『おおー!』
司会者の声にギャラリーも私達も湧き上がります。
「まじかよ。すげーじゃん」
チノが興奮して近付いて私の肩を叩きます。
私も嬉しさでぴょんぴょん跳ねます。
「やった! え、嘘、本当?」
「これはすごいです。パー4でアルバトロスですよ!」
司会者の発言でまた一部ギャラリーが湧きます。主に大人が。
「ぱーふぉー? あるばと何?」
「パー4とアルバトロスだ。パー4は
さすがスポーツ好きのチノ。勉強は駄目のなのにスポーツ関連は詳しい。
でも私は今の説明でもさっぱりです。だから何って感じです。
「パー4はパー3よりホールインワンが難しいんだよ」
んん? とにかくすごいってことかな?
◇ ◇ ◇
パークゴルフ大会子供部門の結果はカンナ村の子が優勝。2位はククルの森の子。3位はオルヴァの森の子。チノは惜しくも4位。
私は最終ホールでホールインワンを成し遂げても1、2ホール目がボロボロだったので順位は7位でした。
それでもパー4でアルバトロスを成し遂げたので特別賞を貰いました。
表彰式の後、優勝したカンナ村の子が私のもとにやってきました。
「この借りはソフトボール大会で返す」
そう言い放ち、去って行きました。
どういうことでしょう。私は負けたのですけど。
◇ ◇ ◇
余談ですが、このパー4でのアルバトロスは私が初だそうで、今後長らく私の後に続くものはいませんでした。
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