第4話 ヴィルとのデート
ある日、ヴィルが「今日は休もう。俺に付き合え」と提案してきた。連日の狩りの疲れもあって、気分転換が必要だとは感じていたけれど、彼の提案に対して心の中で少し抵抗を感じた。
「付き合えって……あなたが相手っていうのが、少し不安なんだけど」
「どうしてだ?」
「いや、なんでも……」
尊敬しているヴィルだけど、彼の日常はあまりにもだらしなく、昼間から酒を飲んでだらだらしていることも多い。時には聞きたくもない下品な話をすることもあって、私にとってはちょっと苦手な男性だった。
街を歩きながら、ヴィルがふと尋ねてきた。
「そういやさ、お前ってその服しか持ってないのか?」
「うん」
私は少し困ったように顔をしかめた。おしゃれや見た目に関心がないわけではないけれど、この問いには少し照れくさい気持ちが湧いてきた。
「おいおい、年頃だっていうのに、ちょっとは気にしたらどうだ?」
「あのね、ここは魔獣狩りの最前線なのよ? そんなことを気にしている暇なんてないわ。馬鹿らしい」
視線をわずかに逸らしながら、私は周りを見渡した。街の人々が日常の忙しさに追われている中、着飾ることが無駄だと思えていた。
「そうかもしれんが、休みの日には鎧なんて脱いで、好きな格好で楽しんだほうがいいぞ。身体を休めるだけじゃなく、心もリフレッシュさせるのも大切なんだ」
彼の言葉に私は微かに目を見開いた。心の奥底で、そんな姿を想像して、少し憧れている自分がいることに気づき、思わず目を伏せた。
「そうは思うんだけど、私って背が低いし、それにあんまり……その、スタイルもよくないから、合うサイズなんてないと思うし、そんなの着てもきっと馬鹿にされるだけだし……」
少し顔を赤らめながら、私は両手でスカートの端をぎゅっとつまみ、何度も見つめてはため息をついた。
「そんなことはないと思うがな。たしかにまだちっこいかもしれんが、綺麗な格好をしてちょいと磨けば、そこらの令嬢なんて逃げ出すくらいになると思うぞ」
「……ちっこいって言うな」
背の低さを指摘されて、私はちょっと抗議したけれど、内心では褒められていることにほのかに嬉しさを感じていた。
「べ、別に私はそういうのひけらかしたくないし……。だいたい恥ずかしいし」
「もっと自分に自信を持て。それに俺の見立てでは、もうに何年かすればきっといい女になるはずだ」
「なんなの、その言い方? ちょっと嫌らしいんですけど?」
「いい意味で言ってるつもりだが」
ヴィルはにこっと笑った。その笑顔に、私の心が少しずつ溶けていくのを感じた。彼の言葉は心に暖かい光を灯してくれるようだった。
「まあ、いいから、ちょっと付いてこい」とヴィルが言い、私を服飾店に連れて行ってくれた。でも、辺境の街ではお客はほとんどがハンターで、並んでいるのはありふれた日常着ばかり。女性の若い店主はやる気がなさそうだったが、私の姿を見るなり目を輝かせた。
「ああっ! あなたがグロンダイルさんね! 噂は聞いているわ。そんなにかわいらしいのに、魔獣狩りだなんてすごいわね。それにしても、あなたってとても綺麗ね!」
「うえっ!?」
私はびっくりしてあたふたしてしまった。心臓がバクバクして、顔が紅潮するのを感じた。
ヴィルは店主に、「この子に似合う最高のコーディネートを頼む。金は惜しまん」と言った。
「いつかそういうお客さんが来てくれると思って、いくつか取り寄せて在庫しているものがあるの」
店主は嬉しそうに私の手を握った。その手の温かさに、少し安心感を覚えた。
「本当ですか?」
私はなぜか身を乗り出していた。心の中で、少し期待と不安が入り混じっていた。
「ええ、だから私に任せて。さいっこう!に仕上げてみせるから!」
店主はそう言いながら、私を奥に引っ張っていった。試着室で待つ間、心の中では不安と期待が入り混じっていた。
「これならどうかしら? サイズはいけると思うんだけど」
店主が見せてくれたのは、レイヤードドレスで、裾にはフリルがあり、レースのディテールとリボンのアクセントが可愛らしかった。鏡に映る自分がまるでお姫様のように感じられた。ドレスの軽やかな素材が肌に触れるたびに、ほんのりとした心地よさを感じた。
「うーん、いい感じかも……」と私は鏡の中の自分を見つめながら答えた。私は前世では山奥で暮らしていて、外に出てきた時は弟の身体の中だったから、こんなものは着たことがなかった。だからとても恥ずかしかった。
「じゃあ、これで決まりね」
店主が笑顔で言うと、私は少しだけ自信を持ち始めた。ドレスと靴を整えた後、私は店の奥からゆっくりと出た。心臓がドキドキし、足がちょっと震える。ヴィルの反応が気になって仕方なかった。
「ヴィル……。これって、おかしくないかな……?」
彼が振り向いた瞬間、その目が感嘆で大きく開いた。私の姿を見て、彼は満足そうに微笑んだ。
「おーっ!! 見違えた。これならどこに出しても恥ずかしくないぞ。とても綺麗だ」
ヴィルの言葉は私の心に優しく響いて、ほんのりとした温かみを感じた。お世辞なのかしれないけれど、私はとても嬉しかった。
「ほ、本当に?」
私はまだ少し不安で、自分の姿が他の人にどう映るかが気になっていた。心のどこかで揺れる気持ちがあった。
「ああ、間違いない。俺の目に狂いはなかった」
ヴィルはにっこりと笑い、笑顔で私の姿をまじまじと見つめていた。そんな風に見られると恥ずかしくてたまらないけれど、心の中で嬉しさが膨らんでいった。
「そう……。ありがとう、ヴィル」
私は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、心からの感謝の気持ちを込めて答えた。少しずつ心が軽くなり、自分自身を少しずつ受け入れることができるようになってきた。
店主も微笑みながら、「これでお出かけの準備は完璧ね。さあ、外に出て、素敵な一日を楽しんでね」と言ってくれた。その言葉に後押しされるように、私はヴィルと一緒に店を後にした。
店の外に出ると、晴れ渡った空の下で、心がほんのりと弾むのを感じた。青空が広がり、軽やかな風が心地よく吹き抜けていく。ドレスの裾が風に揺れるたびに、私の心も少しずつ軽くなっていくのを感じた。
「さあ、行こうか」
ヴィルが私に向かって手を差し出した。私はその手を取ると、微笑みながら一歩踏み出した。心の中では、今日の出来事が私に新たな自信と勇気を与えてくれると信じていた。
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