　ヴィルは最初「ちゃんと食べないと育たないぞ？」と言ったときには、ただ単に彼女がちゃんと食事を摂って健康でいることを気にかけていたのですが、続けて「出るとこ出なくなるってことだ」と言ったことで、ミツルにとっては突っ込まれたくない話題に触れてしまいました。これが彼の「口を滑らせた」部分です。

　ヴィル自身もその瞬間に言い過ぎたことに気付き、すぐに謝っているので、彼の意図は悪くなかったけれど、少し不注意だったという状況。

以下

　エレダンの町外れにある小さな食堂は、朽ちた木の看板がひっそりとかかっているだけの地味な店だった。冷たい風が窓を叩く中、ミツルとヴィルは古びた木のテーブルに向かい合って座っていた。

　テーブルの上には、塩辛いソーセージとポテトが浮かんだ味気ないスープと、硬くて癖のあるパンが無造作に置かれていた。ミツルはスープを一口すくい、口元に運んだが、その瞬間、眉間に深い皺を寄せ、嫌悪感を隠せなかった。

「はぁ、もうこんな食事には飽き飽きよ……毎日同じものばっかりで、もううんざり。いっそ酒でも飲もうかしら」

　彼女はため息をつきながら、パンに手を伸ばし、少しだけ顔をしかめた。

ヴィルはパンをかじりながら、目を細めて微笑んだ。

「おい、ちゃんと食べないと育たないぞ？」

　その何気ない言葉に、ミツルは一瞬ピクッと反応し、視線をヴィルに向けた。唇をきゅっと結び、頬がぷくっと膨らんだ。

「どうせ私は小さいですよ。ふん」

　彼女の小さな反抗に、ヴィルの口元がゆるみ、にやりと笑みを浮かべた。彼の目には、少し意地悪そうな光が宿っていた。

「いや、それもあるが、出るとこ出なくなるってことだ」

　その瞬間、ミツルの顔が真っ赤になり、目を見開いた。まるで熱湯を浴びたかのように、頬が一気に熱くなり、彼女は両手で顔を覆った。

「はあ？　あんた、何言ってるのよ！　そんなこと言うなんて、失礼じゃないの。最低よ！」

　ヴィルは慌てて手を上げて必死になった。

「ああ、いや、すまん。冗談が過ぎた。そんなつもりはなかったんだ」

　ミツルは顔を覆ったまま、ちらっとヴィルを睨んだ。

「あのね、冗談で済むと思ってるの？　本当にもう信じられない。これだから男って……」

　彼女は恥ずかしさでいっぱいになりながら、ヴィルを軽く叩こうと手を伸ばしたが、結局その手は宙に浮いたまま下りてしまった。

　ヴィルは照れくさそうに頭をかきながら、少し笑みを浮かべた。

「まあ、安心しろ。おれの見立てでは、何年かすればお前はきっといい女になってるさ」

　その言葉に、ミツルはさらに驚き、心臓が跳ねるように感じた。彼女の大きな瞳が揺れた。

「そ、そんなこと言ったって……許さないんだから。まったくもう……」

　ミツルは顔を少し背けた。頬の赤みがまだ消えないまま、パンをかじり始めた。

　そのやり取りを見守っていた剣の中の茉凜は、ふたりの様子に思わずクスッと笑ってしまった。彼女の中では、ふたりの拙い会話が微笑ましくてたまらなかった。

《くくっ、ヴィルって本当にバカだ。それにしても、美鶴かわいい》

　茉凜はその小さな声で笑い続けていた。彼女もまたそのひとときを楽しんでいた。

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